表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のノスタルジア  作者: 壮佳
第二晶
4/18

リリアラド学園へ


ほろほろとこぼれるような春の陽とともに、桜の花びらが頭上に降り注ぐ。

そこここに散っている桜の花が点々と白色をこぼし、枝々には白い渦のように咲きあふれる。



桜並木の続く通学路を、黒い学ランの燐慟(りんどう)が進む。体の線に沿って赤いラインが伸びており、胸のあたりの黄色いボタンで留められている。


襟元にはリリアラド学園の校章──蒼い獅子が鎮座しており、その隣にあるのは、榊家のエンブレムである。




「おい、アイツ………」


「榊家のヤツじゃねェか」


「フン、身の程知らずの三流が」





と、同じ制服の男子生徒たちが、口々に罵る。

その様子を、燐慟は琥珀(こはく)色の双眸で一瞥する。




──そうだ、ここは戦場だ




どんなに罵られようと、理不尽な行為を受けようと、榊家の剣技をさらすことはしないと決めてここに来た。

味方は誰一人いないのだ。己の力を頼るほかない。




ふと、頭にかすかな重量感を感じて、前髪に腕を伸ばす。


掴んだのは一枚の薄桃色の花びら。ふわりと鼻孔をくすぐる柔らかな桜の香りに、燐慟は思わず頬を緩める。



何気なく見上げたその先。舞い落ちてくる桜吹雪が、(おびただ)しい数の蝶の乱舞に見えた。




「────」




ふと視界に入った、桜ではない瑠璃(るり)色の"何か"。

ほんの少し気が緩んでいたこともあり、コンマ数秒反応が遅れてしまう。




──ありえない。何せ、彼女はもうこの世に存在しないのだから




だがそんな考えとは裏腹に、奥底で眠り込んでいたはずの本能が、有りもしない可能性に、希望に(すが)ろうとする。





腰まで伸びた瑠璃色の髪の少女。燐慟が知る限り、その特徴を持つ人物は一人しかいない。




すでに桜吹雪に覆い隠されてしまった、その少女の背中を追おうとしたその刹那──



偶然か、はたまた神の悪戯か。少し強めの桜の香りを纏った春風が、燐慟に殺到する。

つられて飛んできた桜の花びらが、燐慟の視界を完全に遮ってしまった。



制服の裾がはためき、前髪が踊る。舞い上がった砂埃の侵入を防ぐために、右腕で顔を覆わざるを得なくなり、何とも歯がゆい思いに駆られる。



風が収まった時にはすでに人影一つ見当たらず、胸に違和感だけを残して、再び桜が散り始めていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ