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追憶のノスタルジア  作者: 壮佳
第二晶
16/18

──────

◇ ◇ ◇



窓を開けると、密閉されていた部屋の空気が、ふっと動いた。


ほのかに白んでゆく明け方の凍てついた空気が、頬をたたく。



ソファーで寝たため、背中が痛むが仕方ない。


ぐいっと背筋を伸ばすと、関節が悲鳴をあげた。



「さて、やるか」



時計盤は4:30を示している。


刀を手に取り、できるだけ音をたてないように扉を開閉すると、修練場に改造されてある16階に足を向ける。


榊家は剣術を主流としていて、それに関しては神咲家よりも上のはずだ。


だからこそ、一切の手の内を明かさずにこの3年間を過ごすつもりだった。


目立たず、目をつけられずに過ごせればよかったのだが──



神咲 蓮という存在によって、その計画はすでに葬られてしまった。


だが落胆とは裏腹に、燐慟の胸の中ではこれからの学園生活に対するかすかな希望が渦巻いていた。



自然とつり上がっていた口角に思わず苦笑し、それを振り払うように柄に手をかける。



「──茜雫(せんな)



妖艶に光を放つ刀身が、ほんのりと茜色に色づく。




鞘を横たえたところで、視界をブラックアウトし、架空の敵を想像する。


右足を後ろへ引き、重心は中央よりやや後ろ気味にし、十分に剣先を下げる下段の構えをとる。



切っ先を跳ね上げ、刃先を右に向けつつそのまま振り下ろす。


薙ぎ、刺突、払いを繰り返せば、服は水を含んで重みを増していた。



霞んで見える銀の鈍い光が宙を乱舞し、残像をちらつかせる。





ようやく刀を納めたときには、喉の奥が痛いほど乾いていた。


絶えずこめかみを流れる汗を拭いつつ、少し前から感じていた気配に声をかける。




「ユリか」


「はい、朝食の用意ができました」


「判った、すぐ行く」




部屋に戻り、テーブルに並べられていた朝食に手をつける。


こんがりときつね色に焼けたトーストの香りが、空腹を主張する胃を刺激する。


ユリが何か言いたげにちらちらとこちらを見てくるが、燐慟はかまわず朝食のサラダに手をつける。



そこで、ようやくユリが口を開いた。





「燐慟様、あたしも学園に通うことになりました」


「──ッ!!?」



思いきりキュウリの欠片が気管に入ってしまい、言い様のない息苦しさと吐き気に襲われる。

幾度か咳を繰り返し、水を流し込むとようやく治まった。




「だ、大丈夫ですか?」


「……ッ、なんとか……って、違ェよ! 学園に通う!?」


「はい! 木煉様が『あの愚息を護ってやってくれ』と、おっしゃって」



なぜか満面の笑みを浮かべ、燐慟を見つめるユリ。


その頬は興奮からか、はたまた別の何かからなのか、桃色に染まっている。



「本当は昨日から通うつもりだったんですけど、いろいろ手間取ってしまって………あの、制服……似合っているでしょうか?」



そういえば学園のヤツらも、このような制服だったな、と思い返す。


白を基調としたセーラー服で、鮮やかな青色のネクタイが胸元を着飾っている。


淡い水色の襟と袖のところには白の三本線が入っており、爽やかな印象が見受けられる。


ネクタイと同じ色のスカートのひだはきちんと整えられており、全くの乱れもない。


控えめながら、それでいてしっかりと強調されている胸の前で、もじもじと両手を動かすユリ。


なんだか燐働はどぎまぎして、ついと目をそらした。




「………サラダ美味いな」


「えぇッ!? 無視ですか!!?」


「うるさい、さっさと食え。もう時間だ」




時刻は、7時55分。


SHLが始まるのは8時20分だから着くのはギリギリになるだろうが、そんなことはどうでもいい。


頬を膨らませているユリを横目に、燐慟はさっさと支度をすませた。

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