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追憶のノスタルジア  作者: 壮佳
第二晶
15/18

──────



操者の判別は学校や病院などで行われ、その際にノスタルジア──主に、操者たちが発する特殊な電磁波のことを指す──を認識できる機器を用いる。



もちろん、推薦入学試験のときに、燐慟も検査された。




結果は──陰性




面倒くさいことになるから、と封じ込めたのである。



ただ、ノスタルジアを封じるという行為は、ノアが使えなくなる上に、かなりの手間と苦痛を伴う。



父からの密偵の命を受けたその日に、燐慟は封印の儀を施された。



全身がばらばらに砕けて、勝手な方向に駆け出し飛び散っていくような激痛に、三日三晩耐えた。

絶えず発されていた叫び声でのどは枯れ、 両手は握りすぎて赤に染まった。

父の話によれば、その間、ユリはずっと隣で看ていてくれたらしい。



滝のように流れ出た汗や、噛みしめた唇に滲んだ血を拭き取ってくれた。


痛みで絶叫しているときも、『大丈夫、大丈夫です』と言って、手を握ってくれていた。



そんな物思いにふけりながら、紅獅子が刻まれている左胸をそっと触る。



これはノアの封印と同時に、操者であることの証である。



普段は人工皮膚で覆ってあるが、万が一バレれば、どんな手を使ってでも国や軍は、燐慟を保護という名目で捕まえに来るだろう。



──それだけは避けなければならない。




「ハッタリだよな……?」




今朝の蓮の言葉が思い出される。




『ははっ、そんなにキレるなって。お前の内のノアが穢れるぜ?』




感情の起伏があまりにも激しいと、ノアは穢れ、操者は感情そのものを失う。

振れ幅は人によって異なるが、ある一定の基準値を超えたとき、ノアは暴走すると言われている。

操者の体内を暴れまわり、記憶と感情の総てを一掃し消滅するため、2度と元に戻ることはない。



普通、あの程度の怒りでノアは穢れない。


蓮は、それを判った上で言ったのだろうか。



──謎すぎる



何を思い、考えているのか皆目見当もつかない。




「めんどくせェ………」



と、曇りガラスのドアの向こうに、黒い影が現れる。




「あの、燐慟様」



ためらいがちに、声がかけられる。




「どうした、ユリ」


「その……お身体は大丈夫でしょうか? 封印の儀のとき、大変苦しそうだったので……」


「大丈夫じゃなかったら、学校行ってねェよ。なぁに、大丈夫だ。ありがとうな」



──嘘だ



ノアを封印したからと言って、ノアそのものがなくなった訳ではない。


無理矢理抑えられているノアは、時折、息が詰まるような痛みで、自身の存在を主張してくる。


しかし、ユリはほっとしたように息を吐き出すと、




「よかった……!! もしかしたら、燐慟様が死んじゃうんじゃないかって……あたし、心配で…ッ……」



嗚咽(おえつ)まじりの声が、耳元で聞こえたような気がした。




「あんな辛そうな燐慟様を見るのは、もう耐えられません……」


「ユリ……」


「……すみません、ご入浴の邪魔を……では、ごゆっくり」




そう言うと、すぐに曇りガラスの影は消え、燐慟の視界を湯気が覆い隠した。


それから軽く身体を洗い、浴場をあとにすると、リビングではすでに料理が並べられていた。

一方的にユリが話をし、その間にも燐慟は黙々と料理を口に運んだ。


隣の部屋が空いているというのに、『同じ部屋がいいです』と、頑なに離れるのを拒んだユリを、簡易ベッドに寝かせ、燐慟はソファーに横たわった。



「時雨…………」



目じりに浮かんだ水滴はソファーに吸い込まれ、跡形もなくなって消えた。

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