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追憶のノスタルジア  作者: 壮佳
第二晶
14/18

──────

◇ ◇ ◇



ヘリで再び自宅に戻った燐慟は、キッチンに差し掛かったところで、思わず立ち尽くしてしまった。


なぜなら──



「あっ!! お帰りなさいませ、燐慟様!」



エプロンを身につけた女が、何食わぬ顔で料理していたから──




額に手をあて、深いため息を吐き出す。

それから携帯電話を取り出し、ある人物の電話番号をタップする。

数コールのあと、相手が出る。




「あの、父上?」


『おう、どうした燐慟』


「………何で、ユリがいるんですか……?」




──西賀 ユリ



代々、榊家を補佐してきた西賀家の長女で、燐慟と同い年である。


燐慟が学園に通うことになるまでは、修業の手合わせや、ガルゼレス討伐に同行してもらったりしていた。


幼い頃から、燐慟とともに過ごしてきたユリとの間には、家族と変わらない絆があるといっても過言ではない。


ぱっちりと開かれた藍色の瞳に、肩まで伸びた乳白色の柔らかな髪。

150cmほどの身長なため小柄に見えるが、彼女から繰り出される刀さばきは、燐慟も感嘆するほどである。




『護衛だ。一人じゃ心細いだろうと思ったのだが』


「………事前に言ってくださいよ」


『ん? あぁ、そうだ。学園はどうだ?』



ため息混じりの燐慟の独白は、木煉には聞こえてなかったようで、話題が切り替わる。



──校門で攻撃されたこと


──その相手が神咲 蓮で、クラスメートであること


──時雨が生きていたこと




今日一日で起きたことが、一瞬のうちに脳裏をかすめる。

結局、燐慟はこう言った。




「いえ、大丈夫です。問題ありません」


『そうか、なら良かった』


「はい」


『お前は強いからな、俺よりもはるかに』


「……そんなことありません」




何となく気恥ずかしくなって、なにも持っていない左手で頭をかく



『まあ、頑張れよ、燐慟』


「はい」




またな、という言葉を最後に、無機質な音声が通話終了を知らせる。


携帯電話をしまうと、ユリが笑顔で駆け寄ってきて、



「燐慟様! 食事の用意ができました。入浴もできますが………あっ、それとも……あたしと──」



くだらないことを言うユリの口元を片手で押さえると、もがもがとくぐもった声が聞こえるが気にしない。




「風呂にはいってくる。飯はそのあとだ」


「了解しました。あっ、あたしと一緒に………」


「入るかッ!!」




なおもすりよってくるユリを無理矢理振り払い、浴室へ向かう。


ヘリの中で手渡された新品の制服を脱ぎ、カゴに入れる。



浴室に足を踏み入れれば、ほんのりとラベンダーの香りが鼻孔をくすぐり、燐慟はその湯に身を浸す。

温かい湯が身体の疲れを押し出してくれているようで、少し肩の力を抜くと、ほんの少しだが疲れがとれたような気がする。


浴槽に身を預け、天井を仰ぐ。


眼を閉じれば、今日の出来事が鮮明に思い出された。


そういえば明日から実力測定だ、などと思ったが、本気でやるつもりは毛頭なかった。


早いうちに負けて、蓮と時雨の実力のほどを、この眼に焼きつけておきたいところだ。



「………ノアは使えねェしな」




──ノア


心への直接的深刻なダメージを負った場合に、身体が自己再生能力で補ったものと考えられており、簡単に言えば超能力である。



全ての人間が得られるという訳ではなく、発症するのはごく稀で、ノアの操者になったと同時に、身体の一部が"代償"として失われる。



その存在と能力の特異性から、ノアを有している者は例外なく"ノアの方舟"という、ノアの操者を登録、保護する機関の管理下に置かれる。

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