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「機縦手、もうちょい高度を下げてくれ」
「判りました」
地面が競り上がってきた頃を見計らって、刀を手にドアに手をかける。
機縦手が驚いて燐慟を見たときには、すでに燐慟は下降を始めていた。
制服がばたばたと風に煽られて、音をたてる。
落下地点では、猿のガルゼレスがこちらに気づかないまま、まだ辺りを見回している。
空中で姿勢を立て直し、鞘から刀を引き抜くと、吸い込まれそうなほど荘厳な刀身が露になる。
「──茜雫」
ぽとりと雫のように呟いたと同時に、その刀身が茜色の光を纏う。
陽炎のように揺らめき、夕陽のそれと重なる。
そこでようやくガルゼレスが下降してくる燐慟に気づいたようで、口を開けるや否や、大地を揺るがすほどの咆哮が街中に響き渡る。
片手を振り上げ、燐慟を叩きつけようとするが、
「──遅ェよ」
その剛毛な腕ごと、勢いのまま刀を振り抜く。
白刃が腕に吸い込まれ、剛毛に埋もれる。
あっさりと腕を切断すると、止まることを知らない刃が、左肩から右脇腹までをも斬り裂く。
いとも簡単に斬り落とされたの肉塊が、虚しく地面に転がり落ちる。
その断面から、思い出したように鮮血が溢れ、あっという間に辺りを血の海に変える。
「ゴガァアアアアアッ──!!!」
轟く咆哮。
足を踏み出した瞬間、広がり続ける血だまりに足をとられ、ガルゼレスがぐらりと上体を崩す。
膝を曲げ、着地の衝撃を軽減した燐慟は、素早く刀を握り直し、腰を低く落とす。
榊流斬刀術 六の型──
「──紅閃花」
チン、と刀を収めた燐慟を、きょとんとした表情でガルゼレスが見つめる。
それから恍惚な笑みを浮かべたガルゼレスが、お返しだと言わんばかりに残った左手を燐慟の頭上にすさまじい速さで振り下ろす。
だが、燐慟は動かない
それどころか、刀すら構えない。
直後、その巨大な双眸からは血の涙が溢れ、振り下ろされたはずだった両腕は、肉塊となって燐慟の頭上に降り注いだ。
否、腕だけではない。
ガルゼレスそのものが粒子分解されたかのように、小さな肉塊となり地面に転がった。
「ゴギャ、アァアア…………」
絞り出された声は枯れがれで、それきり動かなくなった。
──血の花が咲いていた
「あーあ、制服が血だらけだ」
ガルゼレスの生肉の臭いも、こびりついてしまったようだ。
なんとも言いがたい腐臭が、つんと鼻をつく。
と、イヤホンにノイズが走る。
『燐慟様、お疲れさまです』
「あぁ、あとは頼む」
『了解しました』
イヤホンを外し、空を仰ぐ。
夕焼けは先ほどとあまり変化はなく、遠い空に血のように染まった雲が、いくつも浮かんでいた。




