第五章 事件発生。
その日、美玲ちゃんからメールは来なかった
何故だろう…
僕は何か、彼女の気に障る事でもしたのだろうか…
こうしてケータイと睨めっこしていても仕方がない…
少し早いが、ジョギングに…
絶妙なタイミングで、美玲ちゃんからメールが来た。
真夜中?という事もあり、声は出さなかったが、心の中では「いよっしゃあ‼」と、盛大にガッツポーズを取っていた。
わくわくしつつ、メールを開いたせいか、驚愕した。
空いた口が塞がらないとは、まさにこの事だった。
お父さんを殺害してしまった。
どうしたら良いのかわからない。
メールでは何だから、会って話をしたい。
大体、こんな内容だった。
いや、よく考えてみよう。
間違いがあったにせよ、僕が今から会いに行くのは、実の父親を殺害しちゃった殺人犯…
いやいや、何か理由があるんだ。
犯罪の片棒を担がされるなんて事、あるはず無いじゃないか。
…色んな意味で、心拍数は上がりっ放しだった。
殺害した?
なんで?
虐待に耐えきれなくて?
僕は、それを聞いてどうしたら良いんだ…
震える指を押さえつけ、漸く返信を打った。
メール見たよ。
どうしたの?
平気?
僕で力になれるかはわからないけど、出来る限り協力するよ。
4時に、あの公園で待ち合わせよう。
詳しい話は、その時に聞くから。
取り敢えず、お父さんの遺体は、死臭とか蛆とかを防ぐ為に、冷蔵庫とかにいれておいた方が良いかもしれない。
とにかく、落ち着いて。
…一番落ち着いて無いのは僕だった。
状況が全く飲み込めない。
取り敢えず、着替えて家を出るしか出来なかった。
4時を廻る30分も前に着いてしまった…
美玲ちゃんに会えるというのに、僕は何だかドギマギしていた。
(帰りたい…)
(いや、ダメだ‼)
(でも…)
などと、心の中では葛藤が繰り広げられていた。
すると、僕に近づく足音を聞いた。
振り返ると、そこには美玲ちゃん。
と…見知らぬ少年が立っていた。
美玲ちゃんだけと思っていた為、その少年を凝視してしまった。
…目元の印象が、美玲ちゃんを想像させる。
しかし、全体の風貌は、いかにも引きこもりという様な身なりだった。
手入れのされていない、ボサボサで痛んだ為か焦げ茶になった髪の毛。
ヲタクを印象付ける太めの黒縁メガネ。
勿論、レンズも厚い。
スウェットのような、ラフな格好。
下から覗くTシャツには、アニメのキャラでも居そうな雰囲気だった。
また、体型もひょろっとしており、それが更にヲタクである事を匂わせていた。
ジロジロと、少年を見ていると、それを遮る様に美玲ちゃんが話を始めた。
「…この子は、私の弟です。そして、父を殺したのは…弟です。…でも、仕方が無かったんです!弟は、毎日の様に父に殴られてて…私、何も出来なくて…!弟を、別のマンションに住まわせてました。…でも、何故かあいつに…父に居所が知れて!…それで…」
美玲ちゃんは嗚咽を抑えながら訴えかけた。
僕は、美玲ちゃんの背中にそっと手を添え、優しく撫でた。
「もう、良いよ。わかった。わかったから…」
そう言うしか出来なかった。
そうする事しか出来なかった。
そんな自分が歯痒くて…
何も出来ない自分に腹が立って…
自分の無力さを思い知らされた。