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はじまりの記憶
『一緒に 来るかい?』
そう言って手を差し伸べてくれたひと。
ねぇ、あのとき、あなたは何を思っていたのかな。
父は、私に無関心だった。
父の恋人は、私を嫌っていた。
母は、私が赤ちゃんの頃に死んだんだって。
ある日子供がたくさんいるところに連れて来られた。
『またね』と言って父の恋人が赤い唇を歪ませた。
その人は前触れもなく現れた。
あの女に連れて来られた施設に慣れたころ、子供達の叫び声と雑多な風景に浮かび上がるシルエット。まっすぐに私のところに来て手を差し出した。
怒ってはないけど笑顔じゃない。
少しも屈みこんだりしないし、ただ上から見下ろして、すごく変な顔して言ったんだ。
くるかい?って。
あの日から、彼は私の全てになったの。