file:9春人連行
春人を連れて署に凱旋した雅は、胸を張って中を歩いていった。その後ろをちょこまかとさゆりが右往左往している。
途中で通りすがりの権田原が雅の姿を見つけると、無限のままつかつかと歩み寄ってきた。
「あ〜ら、どうかしましたか? ゴリさん」
権田原の存在に気づいた雅は、声色をわざとらしく憎たらしげに、声をかける。
「なんだと? シミの分際で」
「なんでシミなのよ!」
「おれが権田原利助でゴリなら、貴様は四季雅でシミになるだろうが!」
「ぐっ……」
言い負けを喫してひるんだ雅は、形勢逆転とばかりに春人を権田原へと見せびらかした。
「へんっ! わたしは無能なゴリとは違って、きちんと結果を出してるわ!」
差し出された春人をまじまじと見つめる権田原。
ぷいっと顔を背ける春人に、権田原の口が弧を描いていた。
「で、証拠は?」
「証拠? わたしの能力、メモリーの力よ」
「他には?」
「特になにも」
「捕まえた現場は?」
「特に……いたぁ!なにすんのよ!」
権田原のゲンコツが直角に雅の頭をとらえる。痛みにこらえながらも、雅は涙目だった。
「こんのバカシミがっ!」
「なにがバカなんですかぁ!」
まだ痛みから立ち直ってない雅の代わりに、さゆりが反論する。
「バカシミもバカシミ、大バカシミだっ! いまの法律では能力だけで犯罪の立証はできん! 常識だぞ! こういう場合はこいつを拘束する前に、近辺の調査だろうが! N.F.Sが使っている覆面でもみつかれば、大きな物証になるんだぞ!」
「う、うるさい! わたしの能力は完璧なんだから! 署長なら分かってくれるはずよ!」
頭を押さえながらの必死の反論も、権田原には届かなかったようだ。
「そこまで言うなら聞いてみろ。その間におれが現場の調査をしておく。この女は連れていくからな」
「ちょ、ちょっと、なにするんですかぁ!」
「うるさい。お前の上司はいまから説教を受けに行くんだ。さっさとあのガキを捕まえた場所へ案内しろ」
「ふええぇん、雅ちゃ〜ん」
抵抗しようとするさゆりを引きずりながら、権田原は署からでていった。
「くそっ、みてなさいよあのゴリ野郎。いまに目にものみせてやるんだから!」
意気揚々と春人を連れて、雅は署長室へと向かっていく。
だが、署長の口から放たれた言葉は、権田原と変わらぬ結論だった。