file:5面会希望
警察署の机に座って、雅はN.F.Sに関する資料に目を通していた。
四人組の盗賊団について分かっていることも増えたが、決定的な証拠は一つもなかった。
覆面をかぶった少年少女四人組であること、能力者であること、そして盗んだ物は返却するということ……。
名前についても分かっている。ケイ、フィン、アスクにリアという四人の名前だが、当然偽名だろう。
そして四人のうち、三人の能力はある程度の予想はついている。だが、四人でいつも行動しているため、だれがどの能力を駆使するのかまでは分からなかった。
「まっ、とりあえず会わないことにはね」
資料を机へと放り出し、背もたれへと体重をかける。すると……、
「おまたせぇ、雅ちゅあ〜ん」
まったりとした口調で、手を振りながら駆け寄ってくる影が一つ。
「遅いじゃない、さゆり」
「だってぇ、部署の移動とかぁ、いっぱいいっぱい手続きがあったんだよう?」
さゆりと呼ばれた女性は、警察には場違いなフリルのついた白いメイド服のようなものを着込んでいた。大きく強調された胸元が、歩くたびに揺れている
「まあいいわ。さゆりの出番があったとしても、それはまだ先だしね」
揺れる胸元をにらみつけながら雅が告げると、さゆりは大きく首を傾げた。
「わたしの出番ですかぁ?」
「そう、あなたの能力であるマウスが必要になるかもしれないわ」
にこやかに告げる雅とは反対に、さゆりは鼻をクスンクスンと鳴らしている。
「ちょっと、どうしたのよ」
「雅ちゃんは、またわたしの唇を犠牲にするつもりなんだぁ!」
「べ、別にそんなつもりじゃ……」
慌てふためいている雅に、にんまりと微笑みながらさゆりが顔を上げる。
「冗談だよぉ! わたしあっての雅ちゃんだもんね!」
周りの視線を気にもせず、ケラケラとさゆりが笑いとばす。
「ちょっと納得いかないけど……」
憮然顔で頬を膨らましながら、すっと雅が立ち上がった。スチール製のイスがキィとうめき声をあげる。
「間に合ってよかったわ。さっ、行くわよ」
「行くってぇ、どこへ行くのぉ?」
指の先を唇へとつけながら、訪ねてくるさゆり。
目の前で雅がゆらゆらと一枚の紙を揺らしてやると、紙の動きにあわせてさやかの瞳が揺れはじめる。
さゆりならそのまま目を回して倒れそうな気がして、雅は紙の動きを止めた。
「N.F.Sから来たのよ、招待状がね」
「しょうたいじょお?」
「そっ、これをこの近辺にばらまいたら、案の定反応があったってわけ」
先ほどとは違う紙をとりだし、さゆりに見せる。
その紙に目を通すさゆり。そこにはこう書かれていた。
『前略 N.F.Sさま。新しいN.F.S担当になった四季雅です。
初顔合わせということで、一度どこかで会いたいですわ。
よろしければ希望の日時と場所を明記した紙を、警察署までお送りください。
もちろん警官隊を配置して待ち伏せなどはしていません。
こちらはわたしと助手の二人で待ってますわ』
そして文章の最後には、ウインクしながら投げキッスをする雅のプロマイドが貼られていた。
「これがどうかしましたかぁ?」
「わかんないかなぁ。その紙の返答が今日届いたのよ」
そして先ほどの紙を渡す。確かにその紙にはN.F.Sからの返答が書かれていた。
『拝啓 四季雅さま。
本来僕たちは警察の方とはかかわりたくないのですが、あなたの心意気に負けました。
十三日の午後三時、町外れの角谷ビルの三階でお待ちしております』
「というわけ。角谷ビルの場所はもう調べてあるから、すぐに直行よ!」
「はぁーい!」
右手を大きく挙げて、さゆりが返答する。
だが雅は片眉だけをつり上げ、ぎゅっとさゆりの腕をつかんだ。
「えっ、なあに?」
「なあにじゃないでしょ! その格好で行くつもり!?」
「えぇ〜? だってテレビドラマとかでも、警部とか私服じゃな〜い」
「ものごとには限度ってものがあるのよ! さっさと更衣室に行って着替えてきなさい!」
「ふぁ〜い」
さゆりはふらつきながら、更衣室へと消えていく。
「ふふふ、わたしの能力――メモリーも知らないで。N.F.Sもまだまだ甘いわね」
ほくそ笑みながら髪をかきあげると、フワフワの髪がなめらかに揺れた。