file:17外れた勘
三人の行方を追うと、そう離れていない場所であっさりと見つかった。
電灯がないためはっきりと確信があるわけではないが、シルエットは先ほどまでとまったく変わっていない、手をつないだ状態だ。
「ちょっと」
権田原が慌てて呼び止める。すると立ち止まった春人が、イライラしながら荒れた声を放った。
「いいかげんにしてくれない? でないと監察室に連絡するよ」
「ハハハ、それは困るな」
返された権田原の言葉で、自分の行為の無意味さに気づく。
「本当ですよ。いったいなんなんですか? 話ならさっきした以外知らないですよ?」
深冬も権田原に訪ねてくる。義朝は喋らずに、成り行きを見守っているようだ。
「いえね、さっきナンバーズにお邪魔した時と比べて、三村さんの顔色が優れないようなので……」
もちろんこれは権田原の方便だ。ただでさえ電灯がなく暗い夜なのに、顔色の変化など分かりはしない。
「わたしがですか?」
ぼそぼそとした喋り方で、くぐもった声を出す。
権田原の疑惑は今や確信へと変わろうとしていた。
「ちょっと失礼!」
一瞬の隙をついて、権田原は義朝のほっぺを引っ張っていた。
変装をしているのであれば、これでメイクがとれるはずだ。
だが……。
「痛っ!」
うめき声をあげて素早く権田原の手を振り払う。
顔をしかめつつ権田原を睨みつけてくる義朝の表情は、到底演技とは思えなかった。「なにかわたしに恨みでも?」
あくまで冷静を装う義朝ではあったが、はらわたが煮えくり返っているのは間違いない。
「いえ、ちょっとしたイタズラですよ」
「まったく、子どもですかあなたは」
愛想笑いを浮かべながら、権田原は義朝に触れた指を合わせる。感触は間違いなく人間のもので、メイクのかけらも感じ取れない。
「おじさん、早く帰ろうよ」
「そうです。礼儀を知らない人に礼節を重んじる必要はないです」
怒り心頭の二人をなだめて、権田原へと会釈する。そのまま三人は権田原を置いて帰ってしまった。
「こりゃ、勘が外れたかな?」
頭を掻きながら三人を見送ると、権田原は来た道を引き返し、田淵のもとへと帰っていく。車に戻ると、眠そうに目をこすっている田淵が出迎えてくれた。
「こっちは特に異常なしでしたが……どうでしたか?」
「ダメだな……年はとりたくないもんだ」
「まだまだ大丈夫ですよ、権田原警部」
田淵の何の気ないフォローに、権田原は救われた気がしていた。