file:16冴える勘
権田原と田淵が車でナンバーズに到着した頃、タイミングよくナンバーズの明かりが消灯した。
表の扉から出てきた三人は、一場春人に七瀬深冬、そしてマスターでもあり二人の保護者でもある三村義朝だった。
家族としての絆か、三人は義朝を中心に手をつないでいるようだ。これから帰宅するところなのだろう。
「どうします? 家まで尾行しますか?」
「………」
無言のまま、去っていく三人を見つめる権田原。
と、いきなり権田原は車から降りて三人へと近づいていった。
「ちょっ、権田原警部!」
田淵が止める暇もなく、権田原が声をかける。
「これはこれはお三方、今お帰りですか?」
ビクッと体をすぼめたのは、一人義朝だけだった。春人はめんどくさそうに、深冬は平然としている。
「おれは無罪だったんでしょ? まだ付きまとってるんですか?」
嫌みをたっぷり込めて、吐き捨てるように言い放つ。だが、
「いや、たまたま通りかかっただけだよ、ケイ……じゃなかった、春人君」
負けじと権田原が言い返す。
「行こうよおじさん、相手にすることないよ」
「あ、ああ」
ぺこりと頭を下げて、三人は去っていった。
「どうしたんですか、権田原警部。らしくないですよ」
追ってきた田淵が背後から声をかける。
「田淵、お前はここで待機だ」
「はっ?」
「単なる勘なんだが、様子がおかしい。特に三村義朝がおどおどしている」
「まさか、偽物とでも?」
「わからん。だが可能性はある。俺はあいつらについていくから、お前はここで待機してくれ。ひょっとしたら本物の三村義朝が出てくるかもしれん」
田淵はこういった権田原の観察力に、常日頃から敬意を評していた。
普通の人なら見逃してしまいそうな小さな違和感も、決して見逃さない。
先ほどナンバーズ内を捜査した時もそうだった。
ただの空き部屋としか感じなかった田淵に対し、権田原はすぐさまナンバーズが怪しいと認識していた。
確かに少し口が悪いところもあるが、それを上回る刑事としての素質が権田原にはある。田淵が権田原を慕い続けている理由もそれだ。
「わかりました。ではここで待機します」
「ああ、頼んだ」
権田原は三人の後を追っていき、田淵は車内へと戻る。だが、眠気をこらえながらの必死の見張りも、徒労のまま過ぎていくのだった。