file:14作戦会議(警察側)
署内に戻った雅とさゆりは、権田原たちの待つ部屋へと向かった。
「早かったな、なにか分かったのか?」
部屋に入るなり権田原が尋ねてくる。
長い机が一つと椅子が七、八脚程度の小さな部屋だ。部屋の隅に置いてあるコーヒーメーカーでは、田淵が四つのカップを手元に置き、コーヒーを入れている。
「いえ、特に」
首を振りつつも、雅の表情には余裕がうかがえた。
それを見て安心したのか、向かいを指差す。そこには空席のパイプ椅子があった。それぞれが椅子に座り、コーヒーが配られると、まず権田原が口を開いた。
「さて、これからのN.F.Sへの対抗策だが……っと、指揮はお前さんだったな」
「雅ちゃんの名字なんて、なにを今更確認してるんですかぁ」
さゆりのおとぼけ回答に頭を抱えながら、雅が返答する。
「構いません、権田原警部。誰が指揮をとろうとN.F.Sを捕まえなければ意味がありませんから」
権田原がニヤリと口元を緩める。
指揮がとれることを喜んでいるというよりも、初対面の頃とは違う、雅の眼差しが気に入ったようだ。
「よし、それでは作戦に入る。とりあえずN.F.Sの予告状はいまのところどこにも届いていない。今のうちにどうすればよいかを考えておくべきだ。無論、一場春人がケイという前提でだ」
「警部……」
雅の言葉が詰まる。ぶっきらぼうな言い方ではあるが、きちんと雅の『メモリー』信頼してくれているのだ――と思ったら、実はそうではなかった。
「あの空っぽの空き部屋は怪しすぎる」
「は、はぁ……」
密かに抱いていた満足感を打ち砕かれつつ、相づちを打つ。
「いいか? ナンバーズはバーだぞ? 空っぽの部屋を有効利用すれば、ワインやブランデーなどの在庫を保管しておけるはずだ」
「保存に適していないだけでは?」
「別に酒に限ってのことでもない。グラスやアイスボックスなどの予備も必要だろう」
言われて雅は思い出す。春人が夜に届いたグラスを店内に運び込んでいた。つまり、倉庫はないということになる。
だとすると、空き部屋を使っていないのは確かに不自然だ。
「では、一場春人を監視するということですね?」
「一場はもちろん、ナンバーズも監視しなければならんだろう。うまく行けば、他のメンバーの正体もわかるはず」黙って頷く雅。N.F.Sのメンバーは大人ではない。ナンバーズに集まるような未成年は怪しいということになる。
「よし、張り込みはおれと田淵でやろう」
「張り込みならわたしたちが!」
「ダメだ。張り込みは作戦会議が終わったらすぐに始める。お前たちは今日、酒を飲んでるだろ?」
「は、はい……」
しょぼくれる雅に、権田原は構わず続けた。
「今日はゆっくり休んで、明日から四季たちはN.F.Sについて聞き込みをしてくれ。あと、予告状がきたときもお前たちに任せる。なにか聞きたいことがあればいつでも連絡をくれ」
「わかりました!」
敬礼をしながらの返事に権田原は頷くと、田淵を連れて部屋を出ていった。
「それじゃあさゆり、とりあえずわたしたちは休みま……」
横を見ると、言うまでもなくさゆりは寝息をたてていた。
「まったく、さゆりったら。まあ今日はいろいろあって疲れたから仕方ないか」
自分の上着をさゆりにかけると、
「おやすみ、さゆり」
そのまま雅は部屋を出ていった。