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file:12捜査の結果

小一時間ほど経過した頃、ようやく権田原警部とさゆりが帰ってきた。どこかで合流したのか、田淵の姿もある。

「雅ちゅあ〜ん!」

さゆりが半泣きで雅へと抱きつく。どうやら権田原警部にこき使われたらしい。

「権田原警部……」

さゆりを椅子に座らせて、雅が近寄っていく。最初は怪訝そうにしていた権田原が、鼻で笑った。

「フン、おれが言った通りだったろうが」

「ええ、ごめんなさい」珍しくしょんぼりしている雅に少し驚きつつも、

「まあ、いい経験になったろ。能力者だからってすべてを能力に頼るなってことだ」

ポンポンと頭をたたく。雅の瞳にわずかながら涙が浮かんでいた。

「なんだ、これしきのことで泣くのか、シミ」

「シミ言うな! ゴリのくせに!」

「よしよし、その調子だ。じゃあ簡潔に調査の内容を説明してやる」

すると横で黙っていた田淵が、スッと手帳を渡す。それをパラパラとめくり、目当てのページを開くと、雅に説明し始めた。

「あのバーの名前はナンバーズだな。なんでも働いている三人の名字に数字が入っているのと、単純にバーの営業だからということでつけられたらしい。間違いないな、小僧」

暗い中、田淵にライトを照らされながらメモをとる雅の後ろで、春人が小さく頷く。

それを確認してから権田原警部は続けた。

「店主は三村義朝。義理の義に朝でよしともだ。基本的な業務は三村一人でこなすようだ、小僧……」

「合ってるよ。合ってるから、ちゃんと名前で呼んでくれない? 一場春人って名前でさ」

「権田原警部、可哀想だからちゃんと呼んであげましょうよ」

いったん走らせていたペンを止めて、権田原へと進言する雅。

「さすが雅さんは子どもの気持ちを分かってるなあ」

「もちろんよ。だから名前で呼んであげてください。ケイって名前でね!」

「うぉい!」

思わずツッコミを入れてしまった春人に、わざとらしくペロッと舌を出してみせる。この雰囲気だけだと、とても刑事と容疑者の関係には見えない。

「いいか、続けて」

「あっ、はい! すみません!」

「へへん、怒られてやんの!」

背後から聞こえた勝ち誇った声を、肘てつ一発で黙らせる。ウッといううなり声が聞こえるも、雅はあっさりと無視していた。

「従業員……といっても手伝いだけだが、三村の家で一緒に住んでいる二人がやっているそうだ。一人はそこにいる一場春人、そしてもう一人は七瀬深冬だ」

「みふゆって、どんな字ですか?」

「深いに冬で深冬だ。小学五年生らしいが、なかなかしっかりした子だったぞ」

「小学五年生……」

雅の頭にフィンの姿が浮かぶ。実際に会って声を聞かなければ分からないが、フィンの物腰やスタイルは、小学生には見えない。

「三村の話によると、小さいころに両親が行方不明になったところを、春人が連れてきたらしい。そうだな?」

「ああ、公園で泣いてた深冬を家へつれて帰って、一緒に暮らすようになったんだ。おれの両親も少し前に他界したから、いまは二人でおじさんの世話になってる」

「と、いうことだ。そして肝心のN.F.Sの証拠についてだが……」

グイッと身を乗り出して聞き入る雅。だが、権田原は小さく首を振った。「酒場の裏口に部屋が一つあったものの、中はなにもないただの部屋だった」

「なにもない?」

「そうだ。不自然なぐらいになにもない部屋だ。店内なども捜索したが、N.F.Sの証拠になるようなものは何一つなかった。ようするにそこのこぞ……一場春人は無罪放免ってわけだ。今のところはな」

ポンと春人の頭をたたき、手錠を外す。

「ふぅ、やっと帰られる」

手首を振ってストレッチをした後、

「それじゃあね、警察のみなさん!」

手を振りながら、元気に警察署を飛び出していった。

悔しそうに歯ぎしりを鳴らしていた雅に、権田原が奥を指さす。

「作戦会議は部屋でするぞ、四季」

「すみません権田原警部。少し待っていただけますか?」

突然の申し出に権田原は首を傾げながらも、すぐに了承していた。

「よし、さゆり! あなたの出番よ!」

振り向いた雅の視界に、さゆりの姿が入ってくる。

だが、さゆりは口を呆けてよだれを垂らしていた。どうやら疲れと退屈さから眠ってしまったらしい。

「こいつ、本当に採用試験通ったのか?」

「ほらっ、さゆり! 起きてってば!」

「ふみゅう、雅ちゅあ〜ん。わたし眠たいよぉ」

「いいからさっさとついてきなさい!」

権田原のぼやきに否定できないまま、雅は寝ぼけるさゆりを引きずって、春人の後を追っていった。

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