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脱獄の始まり


このアミストレアは大きく分けて二つの勢力がお互いに対立し合うという状況が長く続いている。


その二つというのが帝国と王国だ。


アミストレアに初めて人類がやって来た時に作られた国が王国である。


王国は当初それぞれの故郷に帰る方法を探す為に形成された小さな組織だったそうだ。

アミストレアの人口が爆発的に増えていき、王国に対立し、ここアミストレアを第二の故郷としようとする帝国が建てられたことにより、王国となったのだ。




「そして、私達はその王国の王からの依頼で貴方を救いに来たのです」


帝国第七要塞地下牢獄の廊下に座りセリルの即席アミストレア史講座を受けた俺はなんとも複雑な心境を味わっていた。


というのも俺には王と面識はないし助けてもらう義理もない。

何かしら理由があるのだろうか。


「とにかくここを出ましょう、このままでは貴方達は帝国の中心部へ連行されてしまいます」


「え?私もですか?」


今まで静かにしていたアンジェが自分も数に入っていることに気づき声をあげる。


「っていうかアンジェちゃんの方が先に連れて行かれる予定だったみたいよ?」


「なんでアンジェが?戦闘に巻き込まれただけなんだろ?」


俺の確認の意味を込めた言葉にアンジェはコクリと頷く。

フールも耳を垂らし考えている様だがわからないらしい。


「今考えても仕方ありません。ここから出る事が先決です」


セリルが立ち上がったのに習って俺達も冷たい床から立ち上がる。


「作戦を説明しますね、まず」


ガシャンッ


「セリル!!そこを動くな!」


「警備隊が異変に気づきこの部屋に踏み込んできます」


鋼鉄の扉が蹴破られ廊下にぞろぞろと警備員が流れ込んで来る。

扉を背中に向けて話すセリルがまったく意に介さずに俺達へ説明を続けていく姿は警備員に気づいていないのかと思わせる程だった。

「もう逃げられんぞ!まさか王国の人間がこんな所にまで潜り込むとはな……」


「そこで皆さんには005番の牢屋に入ってもらいます」

警備員は腰に吊してあった警棒を取り出し構える。

警棒は柄の所を除き青白い電流が流れ、殴った相手を気絶させられる様になっている様だ。


しかし、セリルはあくまで冷静に俺達に指示を出す。

その冷静さはこういった事態に不慣れな俺を落ち着かせる程の余裕と豪胆さがあった。


005番に入った俺達は扉を閉め、内側から格子を通し鍵を掛ける。


「馬鹿め!これでお前らはもうここから逃げられまい!おい、誰かスペアキーを持って来い」


「フール、準備は万端ですね?」


「ばっちしだよ、マスター!いつでもやっちゃって!」


先程から無視されている警備隊の隊長がそろそろ不憫に感じてきた。


しかし、そんなことお構いなしにセリルは話を進める。


「ここの地下牢獄の更に下には地下通路という物があります」


「あれって都市伝説じゃなかったんですか?」


アンジェが驚いた顔で問うとセリルは微笑み頷く。


「ええ、実在するのですよ。今回はそれを利用させてもらいます」


「地下通路だと?あそこは帝国の人間以外入る事は出来ない場所なんだぜ?」


警備隊長がセリルに必死に話し掛けなんとか振り向いて貰おうと頑張っている姿には憐憫の情しか生まれない。


「私がこの指をパチンと鳴らすとこの牢屋が絶叫系アトラクションになります。注意して下さいね」


セリルは白い手袋をした右手を顔の前まで持っていき、親指と中指を当てる。


「おい待て、何する気だ?」

「それはやってからのお楽しみ」



嫌な予感しかしない俺にニッコリと微笑んだセリルは指をパチンと鳴らす。


すると005番の床の全方位で小さい爆発が連鎖的に起こる。


俺の嫌な予感は見事に的中し床は形を綺麗に残したまま水平に真下へ落ち始めた。


「うぉぉぉおおお!!」

「キャァァァアア!!」

「ニャーー」



絶叫をあげながら床にへばり付き重力に任せて下へ落ちていく。


数秒としない内に強い衝撃が005番の床を通し俺達に伝わる。


「着きました、帝国の秘密地下通路です」


死を覚悟した俺とは反対に冷静な声で告げるセリルは服を乱す事もなく飄々と立っていた。


顔をあげると横幅は大して広くないがちゃんとした通路があった。


床には線路の様な物も敷かれていてこの星にも列車が存在することを証明している。

天井は部分的に高くなったり低くなったりしていて、俺達が落ちてきた穴が高く見えた。

おそらく、通気孔の関係で天井が凸凹しているのだろう。


「大丈夫?」


内股でペタンと座ったままのアンジェに手を貸し、すたすたと歩き出すセリルの後を追う。


「あの、フールはどこに?」

「呼んだかニャ?」


アンジェがキョロキョロしながらそう言うと真下から声がかけられる。


「おぉ!ネコだー!」


見下ろすと茶色い毛並みのネコがこちらを見上げていた。

フールは着地の寸前にネコに姿を変え華麗に着地したのだ。


「ネコになると語尾が変わるんですね」


「これはちょっとした癖ニャ」


ニコニコと笑うアンジェにフールは照れた様に顔を手で掻いていた。


「皆さん、こちらです」


先に進んでいたセリルが手招きをしながら呼んでいる。


小走りで向かうとそこには2台のバイクが止まっていた。

警備用の巡回バイクの様だが車輪が2つ共ついていない。


「これはフロートバイクっていう乗り物ですよ」


珍しい物を見るような俺にアンジェが教えてくれる。

「地球のバイクは車輪がついているんですよね?」


「そうだよ、これ燃料はどうなってるの?」


「この世界特有の魔力を使っているんです」


魔人がいるなら魔力も存在するだろうと思ったがやはりあったのか。

これはいよいよファンタジーになってきた。


「じゃあセリルのさっきのも?」


「はい、魔力を通じて起爆させました。爆弾を仕掛けたのはフールですけどね」


見事な計画だと舌を巻いているとセリルがバイクに跨がりエンジンをつける。

その後ろにネコフールもピョンと飛び乗る。


「追っ手が来ました。さぁ、早く」


さっき通ってきた後ろを見ると線路を走る機関車がこちらに向かって来ている。

天井や横には武装した警備隊が乗っていて何やら叫んでいる。


「私が運転します」


アンジェが言い終わる前に俺が先に乗りエンジンをつける。

エンジンが起動すると僅かに機体が浮かび上がりメーターが回転しだす。


「運転出来るんですか?」


心配そうな顔で後ろに座るアンジェに不敵な笑みを見せ頷く。


バイクの側面に書いてあった刻印を見た瞬間から確信はあった。


『made in earth's human』


地球の人間が作ったバイクを地球の人間である俺が乗れない訳がない。


「行きますよ、私について来て下さい!」


セリルがエンジンをふかし先に発進する。


「しっかり掴まってろよ!」

セリルの後を追い俺は薄くらい地下通路を走り出した。


列車のフロントランプを背中に受けながら。


よっしゃ!

頑張るぜ!

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