表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

プロローグ


一人でいることには慣れていた。


物心ついた時に両親を事故で失い、その数ヶ月後にたった一人の家族となった妹も行方不明となった。

不慮の事故と原因不明の事件により家族を無くした自分だが、今となってはその孤独さえ心地好い物となってきている。

強がりと言われればそれまでだが、生憎一人でいる時間が長すぎたのだ。

友達もいることにはいたが、形だけの物である。

『あいつは友達がいない』『家族もいなくて可哀相な奴だ』ただそう思われたくないが為に友達を作り、上辺だけ取り繕い、『自分は孤独だけれど可哀相な奴ではない』と世間に向かい声高に叫んでいたのだ。


既に中学に入る時にはそういった周りとは違う考えを持っていた事を覚えている。

周りにその事で優越感を得ていた事も覚えている。


そんな俺にも一つだけ打ち込む物があった。青春と情熱を打ち込んだ物が。


それが刀だ。


我が一族は戦国時代から代々続く刀の名門だそうだ。初代様が生み出した流派が今でも受け継がれている。父も祖父も曾祖父もその流派を極めて来た。


父が死んだ後に自分の身を守る護身術として祖父に剣術を教わった。


そのせいか、中学で入った剣道部では多くの人にその才能を魅入られた。

中には羨望や嫉妬の感情もあったが。


その剣道部で俺は一人の男に出会う。


後の親友となる男だ。




始まりは唐突だった。


「おいてめぇ!」


中学三年間通いつめている武道館剣道場でいつもの練習メニューを終え、防具を片付けているといきなり背後から怒号が聞こえた。


訝しい顔で振り返ると学ラン姿の男が木刀を大上段へ振りかぶり今まさに俺の脳天目掛けて振り下ろそうとしていた。


いかなる事態でも冷静かつ慎重に行動をする事を心掛けている俺だが流石に慌ててその場を飛びのいた。


「お前が柳刃 やなぎばじんだな?」


「確かにそうだが襲うなら本人かどうか確認してからじゃないのか!?」


もしこいつが俺と間違えて誰かに襲い掛かってたと考えると背筋が寒くなる。


「うっせ!死ね!」

内容によっては話を聞かないでもないが、如何せん、聞く耳を持っていない。

しかも殺されなきゃいけない様な事が身に覚えがない。


剣道部の備品である木刀を構え特攻してくる学ラン野郎を眺め嘆息し、手元の竹刀を構え迎え撃つ。


来る者は拒む。ひたすら拒む。それが俺だ。



後に聞いた話によるとこいつが俺を襲ったのは完全な逆恨み、しかも恋愛事に関することだ。


動機から行動までたちの悪い奴である。


神島かみしまと名乗ったそいつは中学生にしては強いという程度だった。

全中一位の俺には足元にも及ばない事は言うまでもないだろう。


そんな強烈な親友との出会いは俺の圧倒的勝利に終わった。

内容については割愛させて貰う。むさ苦しい男(神島)が爽やかな青年(俺)になぶられる光景は痛快極まりないが、流石に忍びない。



何はともあれ、その男、神島 竜哉との出会いが俺の人生に大きな影響を与えたことは確かである。


それまで氷の様に冷たく、刀の様に鋭く尖っていた心は神島という灼熱の釜に放り込まれ瞬く間に溶けていった。


今となっては昔の自分はかなり恥ずかしい人間だったと思わざるを得ない。

両親の事故から神島との出会いまでの期間を反省と後悔の念を込めて俺は『暗黒時代』と呼んでいる。



神島は俺の暗黒時代にずかずかと土足で入って来ては俺の生き方をことごとく否定し、捩れ曲がっていた俺の人格は元に戻っていった。

友達というものに関する考え方も変わり、今まで無駄にした時間の分を取り戻す為にもよく笑う様になった。


高校は神島と同じ高校へ通うことになり、今となっては神島は俺の親友となっている。


そんな高校二年のある日、俺の人生の分岐点その二に差し掛かったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ