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第二話 快適囚人ライフに第二王子がやって来た件

 

 囚人生活って、こんなに快適でいいの?

 そう思うほどの好待遇。

 まったく理由がわからないのが、かえって不気味だ。


 朝は、ふかふかのベッドで寝ているところを侍女に起こされ、着替えを手伝ってもらう。

 私の支度が整った頃を見計らって、部屋に食事が届く。

 これがまた、囚人用に作られているとは思えないほど美味しい。

 三食そんな感じで提供され、部屋の前に見張りの兵士がいる以外は、何の不自由もない。

 なぜか屋敷の人たちは、私に好意的だし。

 元々私はインドア派なので外に出たいとか思わないし、陽を浴びたければ部屋にバルコニーもある。


「私、死刑を免れた……?」


 Viva! 囚人生活!!

 ……囚人生活なんだよね? これ。

 二日経っても変わらぬ待遇に、恐怖が少しずつ希望へと変わり始めた頃。

 私に面会を求める人物が現れた。


「セシル王子が? 私に会いたい??」


 見張りの兵士から渡された手紙には、王家の封蝋がされており、これが正式な書面であることは間違いない。

 セシル王子はアレン王太子の弟で、この国の第二王子だ。

 彼にとって、私は将来の義姉を呪い殺そうとした悪女のはずなのだが。

 手紙には、詳細な日時と私の都合を伺う文面が記載されていた。

 囚人に、予定なんて入っているわけないのにね。

 私は机に向かい、承知した旨の返事を書く。


「そう言えば、アリーナはこんな手紙すら書けないのよね。私のせいで」


 奪ったのは、あの子の『了承』だけ。

 命よりはマシだろうけれど、それでも胸が痛まないわけじゃない。


 ペンを握るのは、二日ぶりだ。

 カレンは将来の王妃になるため、毎日、王城や家で厳しく教育を受けていたのだ。

 その努力が全て無駄になったとわかったら、自棄になりたい気持ちも理解はできる。

 さすがに命を奪う呪いはアウトだと思うけど。


 インクが乾くのを待つ間、ベッドに転がる。

『銀髪の乙女は青の王太子に溺愛される』の中では、カレンはもう処刑された頃だろうか。

 読み始めてすぐに処刑されちゃう悪役令嬢に転生するなんて、想像したことすらなかったわ。


「セシル王子って、小説にあんまり出てこなかったのよね」


 メインヒーローのアレン王太子とヒロインのアリーナ。

 この小説は、ほとんどその二人の出来事で構成されている。

 セシル王子は兄を支える存在として、作中で数回登場する程度の人物だ。

 一応、舞踏会で遠目に見たけど……王太子に似て、格好良かった位しか感想がない。

 私は身を起こし、窓に向かって手を組んだ。


「どうか『明日処刑することになった』とか、言われませんように!」


 正直、誰に祈ればいいのかわからないけれど、祈ることに意義がある……はずだ。



 *  *  *



「思っていたより元気そうだね、カレン嬢」


 私が衛兵の案内の元、応接間に通されたとき。

 椅子から立ち上がり、セシル王子が声を掛けてきた。

 顔見知りに挨拶した――そんな軽いノリだ。

 私は一応、将来の王族に連なるかもしれない人を害した罪人なのだが、こんなフランクでいいのだろうか?


「三日ぶりですわね、セシル王子。まさか、またお会いできるとは思っておりませんでした」


 金色の髪に蒼色の瞳。

 セシル王子は、アレン王太子より瞳の色が少し濃い。

 姿勢が良いので、立っていると実際の身長より高く見える。

 アレン王太子はあまり腹芸が向いていないが、セシル王子がその短所をカバーしていた。

 要するに、狸である。


「そこの椅子に掛けてほしい。衛兵には扉の前で待機させよう。君と二人で話がしたい」

「……正気ですか?」


 セシル王子の言葉に思わず素でツッコんでしまったが、無理もないと思う。

 女一人とはいえ、対面するのは強力な呪いを掛けた張本人だ。

 王族が、護衛もなしに部屋で二人きりというのは危険すぎる。

 主を案じながらも部屋を出て行く兵士を、私の方が心配そうに見つめてしまう。


「いくつか確認したいことがあってね。ほら、座って」


 促され、渋々と座る。

 二人きりになるとは思っていなかったので、かえって不安が募る。

 意図していない罪まで着せられるのではないかと、内心ひやひやだ。

 私が座ると、セシル王子が切り出してきた。


「君の部屋から発見された呪物が見つかった。あれは『蠱毒』だね?」

「……」


 王太子の婚約者に呪いを掛けたのだ。

 屋敷が探索されるのも当然か。


 カレンが仕込んだ『蠱毒』は、時間はかかるがそれだけ効力も強く、それこそ人一人を呪い殺すことができる代物だった。

 王家が調査したなら、その経過も結果も把握済みだろう。

 ……え? やっぱり『処刑!』とか言われないよね?


「だんまりか。まぁ、いい。本題はそこではないからね」


 気にした様子もなく王子が話題を流すので、私の方が慌ててしまう。

 だって『蠱毒』だよ?

 しかも、準備に一年くらいかかってるよ? あれ。

 それをしのぐ本題って何!? 聞くのが怖いんですけど!


 幼少からの教育のたまものか、表情が変わらないカレン。

 涼しい顔のセシル王子。

 私のメンタルだけが、着実に削れていく。


「君が舞踏会で言い残した『ハンドサイン』。あれは、何を指している?」


 足を組み、テーブルの上で頬杖をつく。

 たったそれだけで様になってしまうので、さすが王子様と内心で感嘆してしまう。

 陽光が王子に注がれ、淡く光っているようにさえ見えてしまうのだ。


「確かに申し上げましたが……。わざわざセシル王子がお越しくださった要件が、それだけですの?」


 カレンは、ここで大人しくべらべら喋るような娘ではない。

 私は嫌みにさえ聞こえてしまう言葉を、興味なさそうに口にする。

 怪しまれないように『怪しく』装わねばならない私の疲労を、誰か理解して欲しい。


「君にとっては『それだけ』のことが、今、国内で問題になっていてね。あれからたった三日だというのに。全く、なんてことをしてくれたんだ」


 気怠げに吐息をつく様も妖しく美しい。

 蒼色の瞳が私から離れることはなく、口元には薄い笑みさえ乗っている。

 本来なら罪人を詰問している場面のはずなのに、口調には責めるような鋭さもない。

 小説でセシル王子の挿絵はほとんど無かったし、カレンの記憶にもアレン王太子に関するものしかほぼほぼないので、油断していた。

 こんなにも色気のある男性だったなんて!

 年齢=彼氏無し歴だった私。

 彼と二人きりで大丈夫!?



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次話では、舞踏会の一言が思わぬ方向に広がっていきます。

引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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