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第一話 気づいたら悪役令嬢。死刑は回避の方向で!

 

「アリーナ! 今宵、あなたに最高のプレゼントをあげるわ!」


 まっすぐ天井に伸ばした人差し指を、銀色の髪の少女に向け、私は高らかに叫んだ。

 王宮の舞踏会。

 王太子の瞳の色に合わせたドレスを身に纏い、彼にエスコートされたヒロイン――アリーナが、驚いて私を見つめる。


「プレゼントとは何かな? 僕は何も聞いていないのだけれど」


 王太子が、彼女の前に出て悠然と微笑む。

 周囲の視線は、私とアリーナ――それに王太子とのやり取りに釘付けだ。


「アレン王太子にお伝えするほどのものでもございませんもの。アリーナへのプレゼントですし」


 赤い髪をゆるく巻いて前に垂らし、黒いオフショルダーのドレスにシルクの薄紅のショールを纏った私は、カレン・エテュセ。

 エテュセ侯爵家の長女である。

 つい先ほど、アリーナが王太子の婚約者として宣言されるまでは、私は婚約者候補の筆頭だった。

 銀色の髪に空色のドレスを着たヒロインを、野心と嫉妬に狂って舞踏会で襲う――って、え? 待って。

 襲うって何!?

 

 指をアリーナに突きつけたまま、私は固まる。

 アリーナって、あれよね?

『銀髪の乙女は青の王太子に溺愛される』って小説のヒロインよね。

 悪役侯爵令嬢カレンのいじめにも健気に耐え抜いた末、王太子との婚約が舞踏会で発表されて。

 確か、カレンから『プレゼント』という名の死の呪いを受けるのだ。


「きっと喜んでもらえると思うわ」


 自然と赤い目を細めて艶然と微笑んでしまった私は、内心焦りまくっていた。

 この話、知っている。

 むしろ、昨日読み切ったばかりだ。

 え? 私、もしかして初期退場の悪役令嬢カレンに転生してる?

 何で? いつの間に!?


「私は、プレゼントの内容を尋ねているんだよ? 私以外の人間から、アリーナにはプレゼントを受け取って欲しくなくてね」


 ですよねー。

 一番厄介な悪役令嬢から贈られるプレゼントに警戒しないはずないですよね-。

 でもね、アレン王太子。

 私も焦ってるんですよ。

 プレゼントの正体は、放置すれば確実に死に至る呪い。

 今止めれば、反動は術者である私に返る。


 なんでこんな場面に転生した、私!

 夢なら早く覚めてくれないかな……。

 先ほどからちくちく肌に刺さる視線が痛くて、夢だとは思えないけども。


「……仕方ないですわね。では、アレン王太子にもご覧に入れましょう」


 表情が固定されているかのように、微笑みは崩さない。

 しかし、私は背中に大量の冷や汗を感じる。

 この呪いは、既に発動条件が揃ってしまった。

 今更止めることもできず、かといってアリーナに向ければ私は即座に断頭台行きだ。


 何とかいい案はないものだろうか。

 せめて、処刑だけは避けたい。

 だって、私は何もしていないもの!

 やったのはカレンで……って、今の私か!


 周囲の参加者たちが、息を潜めて私たちを見つめている。

 遠くには、国王や王妃の姿も見える。


 とてつもなく、ヤバイ。

 だが、生きるか死ぬかのこの状況で、何もしないわけにもいかない。

 何か、何か考え出せ、私!!

 状況を完全には把握できていないけれど、こんなところで死にたくない!

 えーっと、えーっと……。


「アリーナ。あなたはこれから、『了承』という意思表示そのものができなくなるわ。言葉でも、宣誓でもね」


 私は一拍溜めて、恩着せがましくなおも言いつのる。

 私の内心など無視して、表情が不敵な笑みを浮かべているのがわかる。


「拒否はできるのだから、私の寛大な心に感謝なさい」


 扇を広げ、ドヤ顔だ。

 それが、私の知っているカレン・エテュセという人間の生き様でもあった。


 私の言葉により、呪詛は完成した。

 アリーナの体をもやのようなものが包み、彼女の体に吸収されていくのが見えた。

 これくらいの制約をもたせなければ、反動が私に来てしまう。

 転生したのはついさっきだが、私はカレンの記憶を受け継いでいる。


「衛兵! カレン・エテュセを拘束しろ! 私の婚約者に呪いを掛けた。すぐに独房に連れていけ!」


 アレン王太子がアリーナを抱き寄せ、アリーナも王太子の胸に縋り付いている。

 私の周りには衛兵が集まってきた。

 ただ、ちょっと待って欲しい。

 私は今、アリーナに伝えなければならない重要なことがある。


「プレゼントは、無事受け取ってもらえたみたいね」


 私の言葉に、王太子とアリーナが警戒体制を一層高める。

 だが、大事なのはここからだ。


「もっとも、ハンドサインを使いこなせれば、こんなもの大した障害でもないでしょうけれどね!」


 よし、言いきったぞ!

 私の内心は、拍手喝采状態である。


 父親であるエテュセ侯爵は、私を遠くから見ているだけだった。

 エテュセ侯爵家の恥さらしとでも思われたのかもしれない。

 この体の記憶を辿っても家に対する未練はなさそうなので、それでいい。

 気になるのは、周囲から聞こえた言葉だ。


『ハンドサインとは何のことだ?』


 少しでも不自由がないようにと、とっさに言ってしまったが、もしかしてハンドサインってこの世界にまだ普及されていない!?

 アリーナの不自由、解消されない説ある?


 うわー、やってしまった……と。

 反省しながら私は衛兵に拘束され、独房に連れて行かれる――はずだった。

 だが、連れて行かれた先は小さな屋敷で、玄関の扉の先にはこじんまりとしたロビーがあった。

 そのまま衛兵に連行された室内には、ふかふかそうなベッドや、つやのあるテーブルなど高級そうな家具が揃っている。

 私が知っている小説では、カレンは呪詛後に小さな牢獄に放り込まれるはずなのだが、これは何のバグなのだろう?


 ――まぁ、待遇が良いに越したことはないから、いいけどね!



お読みいただき、ありがとうございます。

悪役令嬢としては、かなり落ち着かない初日になりました。


この先は、

「助かったはずなのに、なぜか状況が悪化していく」話です。


よろしければ、次話もお付き合いください。

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