後編
ホーリア姉さまは辺境を支援するために自ら軍を指揮すると動かれた。今までひっそりと暮らしていたのが嘘のように王族として堂々とした振る舞いだ。
そんなホーリア姉さまと共に辺境にある魔獣の素材や竜の鱗を研究するためにビアンも付いて行く。
「帰ってこない方が幸せなのかも……」
ビアンを筆頭にいろんな人たちを支援した。支援した人たちが、それぞれの分野で活躍するたびに先見の明があるとわたくしの立場はよくなっていった。
双子の弟に毒をもった犯人も捜そうと思えば探せるだろう。
思い出す。多くの新発明の魔道具を持って来て父王自ら褒め称えた時。褒美を与えるので望みを言えと告げられて、
『ならば、第五王女マルガリッタさまを』
迷いない口調で告げて、求められた。
物語り風に言えば、白馬の王子さまのように……。わたくしは自分を王家のコマにしない相手を仕立て上げた。ビアンの意思を歪めて。
「解放してあげた方がいいかもしれないわね……」
研究に目を輝かせている様をずっと横目で見ていた。王族の王女と婚約したことでその大好きな研究が出来ないで夜会とかで腹の探り合いをする貴族たちの思惑に気付かずに今進めている研究の話をして相手を撃退していることも。
本当ならしなくてもいい苦労をわたくしと婚約することでしなくてはいけなくなった。
此度のことで辺境に負い目を持った。
愛する人のために王族としての権限を利用すると覚悟を決めたホーリア姉さまがいる。
そこに転がり込んでもビアンに影響はないだろう。
「マルガリッタさま」
「ビアンの所に行ってきます」
たぶん、彼のことだ。辺境に行くぎりぎりまで研究をしているだろう。
ビアンのために用意された研究室。そこに行くと案の定楽しげに魔道具を考えているのか大量の紙に様々な文字や絵を書きなぐっている。
「ビアン」
呼びかけるが、返事はない。いつものことなので、連れてきた侍女にお茶とお菓子の用意を指示する。喉が渇いたら顔を上げる。おなかがすいたら顔を上げる。
その時になって気付くのがいつもの流れだ。
「…………リッタ」
喉が渇いたのだろう。ずっと魔道具の方に視線を向けていたが、そっと顔を上げて、飲み物のある場所に手を伸ばして、口に運ぶ。
飲み終えて、自分が飲んだのが温かみのある――少し冷めてしまったが――紅茶だと気付き、視線を少し机から離れた方に向けてわたくしを見付けて微笑んでくれる。
「用でもあったのか? なら、そちらに行ったのに」
「とは言っても、作業に集中している時は呼びかけに答えないでしょう」
知っていますわよと揶揄うように告げると、
「確かに」
自分でも自覚あったのか頷かれる。
「辺境に行く準備は整ったのか心配になって」
「ああ。うん。大丈夫。研究道具もばっちり」
「生活に必要な一式は用意していないのですね」
予想通りの答えだ。
「必要な物はその都度現地で揃えた方が楽だよ」
「まあ、そうかもしれませんが、お金が嵩みますし、住んでいたところに置いて行かれる物も悪くなりそうです」
「かといって全部持っていくのはね。辺境の調査が終わったらすぐに帰されるだろうし……でも、魔獣とか竜の話が本当なら宝の山があるんだよね~」
戻ってくるのが面倒だと大きく伸びをしながら告げてくるのを聞きながら。
「なら……」
緊張して喉がつっかえないか。強張っていないか。
「永住したらどうかしら」
わたくしと離れて。
わたくしの言葉に少しだけ考えて、
「それ、いい!!」
興奮したように声を上げる。
「魔獣とかの素材で研究し放題だし、魔道具もいろいろ作れるよねっ!! 辺境専用の魔獣捕獲の魔道具とか試してみたいものが多いし……」
辺境に想いを馳せるように次々とアイディアが出てくる。
「あっ、でも」
そこで気が付いたように、
「辺境で暮らすと文句言われそうだよね」
「……国の役に立つのなら父も文句は言わないのではないのでは? それに今までの辺境からの魔獣出現も竜の話も眉唾で無視していたからホーリア姉さまに頼めば自由にいられると……」
「えっ? でも、リッタも辺境に行くんでしょ。みんなに恨まれるな~」
どうしようと一人で悩んでいるが、意味が分からなかった。
「わたくしも……?」
「リッタは嫌? 永住するならリッタもでしょ。ああ、それを考えるとリッタの住みやすいおうちも作らないと……辺境伯さまたちに相談すればいいかな……」
いろいろと考えを巡らせているが分からないことが多すぎる。
一緒に行く前提で話をされていることとか。
ビアンが恨みを買いたくないみんなって……。
「ビアン。みんなって誰?」
「んっ? みんなはみんな。リッタが支援して大成したみんな。リッタが辺境に行くと聞いたら付いて行きそうなのいるからな。以前からリッタのドレスは自分が作るとか、装飾品なら任せてとか。子供が出来たら専属医として傍にいるとか。あと他にもリッタの絵だけを描きたいからとか。結婚式の際に俺とリッタの恋を劇にするから詳しく話をしなさいとか……」
支援して流行の最先端のドレスを作っているデザイナーの少女。ホーリア姉さまに頼まれた竜の鱗を使った装飾品を作った細工師の青年。医者になった男性。人気の絵描きの女性。劇作家になった者や、劇団員の顔など次々に浮かんでくる。
「数人の料理人もリッタと結婚したら雇ってくれと言われているよ」
「知らなかったわ……」
そんな奇特な者達がいるなんて……。
「ただでさえ、俺恨まれているからね。いじられるのよ。――リッタから逆プロポーズされたのはお前だけだって」
「えっ? はいっ⁉」
逆プロポーズ? いつ、だれが、なんで? えっ、なんでそんな……。
こっちが困惑しているもお構いなしに。
「リッタが大成したら”褒美にわたくしを求めなさい”と言っただろう。それを言われたのは俺だけだからずるいって……」
「ず、ずるい……」
理解が追い付かない。
「好きな子を待たせたくないからもう必死だよ。褒美にリッタをというのも緊張したし、やっとプロポーズの返事できたし」
情報が……情報が過多で……整理が付かない。
「辺境に行くとなると……リッタの信頼できる人を貸してくれる? リッタの住みやすい家を作るのに力貸してもらいたいし……。あっ、その前にリッタに婚約指輪を渡さないと!! リッタの婚約指輪は自分が作るから相談しろと数人に言われているから一緒に見て回りたいし……しまった準備万端だと思ったのに時間足りない!!」
一人で慌てているビアンを見ていると自分が今まで悩んでいたのは何だったのかと馬鹿馬鹿しくなりつつ。
ビアンの将来の中に自分がいると嬉しくなり気が付くと笑みが零れる。
ビアンの中ではわたくしと共に居るというのは好きなことなのだと知って、そんなビアンをますます好きになったのだった。
ビアンからすれば婚約者が人気者過ぎて、大変だが、逆プロポーズしてもらったのでちっとも嫉妬しない。愛されている自信があるから好きなことしている。




