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『渇望マネタイズ』  作者: 此花 陽
第四章:零(ゼロ)の聖域
8/13

零の聖域  .ー 中


 彼女は、私の車のヘッドライトに

 照らされても眉一つ動かさず、

 真っ直ぐに私を見つめた。


 そこには羨望も、恐怖も、そして

 何より私を満足させる

「承認」の色さえもなかった。


 ただ、澄み切った水面のような

 瞳があるだけだった。



「……なぜ、お前は数字を欲しがらない?」



 車から降り、高級なスーツの裾をただして

 私は問いかけた。


 ひかるは微かに口角を上げた。


 それは、私がこれまで見てきた、

 欲望を剥き出しにした者の

 歪な笑みとは対極にある、

 春の陽だまりのような笑みだった。



「誰かに認められるために、

 息をしてるわけじゃないから」



 彼女は、路地裏に咲く名もなき

 雑草に触れるように、

 錆びついたガードレールに

 そっと手を置いた。



「この風も、空の広さも、

 自分の中にだけあればいい。


 ……あなたは、

 そんなにたくさんの他人の視線を抱えて、

 重くないの?」



 その言葉は、数千万人の喝采よりも

 鋭く私の胸を刺した。


 私の身体を構成する、皮膚の下でうごめく無数の

「他人の顔」が、一斉にざわめき始める。


 彼女の数値は「0」だ。


 誰にも知られず、誰にも称賛されない。


 それなのに、なぜ彼女は、

 世界を支配する私よりも

「自由」で「輝いて」見えるのか。


 私は、彼女がまとう「承認欲求の不在」という、

 この世界で最も希少で、最も危険な宝石に、

 狂おしいほど魅了され始めていた。



「ひかる……。

 お前を、私の隣に置こう。

 お前という『無』を、私が独占する。

 そうすれば、私の帝国は完成する」



『 止めろ!


 彼女に触れれば、

 君の中の「理想」が崩壊するぞ! 』



 モトの声が警告の絶叫を上げる中、

 私は彼女に向かって手を伸ばした。


 それは、派遣社員だった頃の私が、

 ボロい軽自動車の中で夢見た

 どの「成功」よりも、

 強く、切実な願いだった___。




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