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『渇望マネタイズ』  作者: 此花 陽
第四章:零(ゼロ)の聖域
7/8

零の聖域 .ー前


 漆黒のタワーの頂上、

 外界から隔絶された冷徹な空間。


 私は、壁一面に広がるモニター群を眺めていた。


 そこには全世界から吸い上げられた

「羨望」と「承認」のデータが、

 数億、数兆という無機質な

 光の点となって渦巻いている。

 

 私の指先ひとつで、

 一人の人間を英雄に仕立て上げることも、

 あるいは社会的に抹殺することも可能だった。


 かつて私を無視した同僚たちは、

 今や互いの「数字」を奪い合うために

 ネット上で罵り合い、

 醜い争いを繰り広げている。


 かつての事務の女性たちは、

 少しでも高い承認値を得るために、

 自らの肉体を機械や合成樹脂で加工し、

 人工的な「美」を競い合っていた。



「 醜いね 」



 私の口から、

 かつての「あの声」が吐き出される。

 

 私は、全人類の嫉妬と渇望を

 エネルギーとして燃える、

 終わりなきブラックホールの王だった。


 だが、その欲望のノイズで

 埋め尽くされたモニターの端に、

 一点の「空白」を見つけた。


 都心の喧騒から取り残された、

 古びたスラムの路地裏。

 

 そこには、

 一人だけ異質な静寂をまとった女がいた。


 短く切り揃えられた、月光のように淡い金髪。

 機能性を重視した地味なジャケット。

 一切の無駄を削ぎ落とした、

 しなやかで静かな身体の動き。

 

 驚くべきことに、

 彼女の頭上に浮かぶ承認メーターの数値は、

 完全なる**「0」**だった。



「……なんだ、あいつは」



 この世界において、

 数値が低いことは「死」と同義だ。


 誰からも見られず、誰からも望まれない者は、

 社会システムによってその存在自体が

「無」へと処理されるはずなのだ。


 それなのに、彼女は消えるどころか、

 数百万の数値を持つ者たちよりも鮮烈に、

 私の網膜に焼き付いた。



『 殺せ。あの女は不純物だ 』



 脳裏に同化したモトの意識が、

 初めて焦りを含んだトーンで吠えた。




『 承認を求めない存在など、

 この世界には許されない。


  彼女は君が築いた「理想の帝国」を

 根底から否定する毒だ。


  今すぐその存在を上書きしろ! 』



 私は声の制止を振り切り、

 自ら地上へと降り立った。

 

 最高級の、

 もはや物理的な質量さえ怪しくなった。


 深紅のスポーツカーで、

 スラムの路地を蹂躙するように駆け抜ける。


 「王」の降臨に、周囲の人間は恐れおののき、

 額を地面に擦りつけて命乞いをするように

 スマホを私へ捧げた。


 だが、金髪の女――


「ひかる」だけは違った_____。



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