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『渇望マネタイズ』  作者: 此花 陽
第二章:偽りの黄金、侵食の朝
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偽りの黄金、侵食の朝  .ー 後


「身なりだ。この車にふさわしい、

 誰もがひれ伏すような姿を……!」



 私が願った瞬間、

 使い古された安物のスーツは、

 肌に吸い付くようなオーダーメイドの

 高級生地へと変貌した。


 手首には、派遣社員の年収が数年分は

 吹き飛ぶような複雑機構の機械式時計が、

 鈍く、傲慢に光っている。


 外見が整うと、面白いように

「縁」が舞い込んできた。


 スマホの通知が鳴り止まない。


 かつて私をブロックした女、

 連絡を絶っていた「成功者」の友人たち。


 彼らが卑屈な笑みを

 浮かべてメッセージを送ってくる。



 その中でも一際異彩を放っていたのが、

 モトという男だった。



「君、いい車に乗ってるじゃないか。


 ……でも、


 中身がまだ『こちら側』になりきれてないね」



 いつ、どこで知り合ったのかも思い出せない。


 気づけばモトは私の隣にいて、

 私の人生を根本から

 揺さぶるような冷徹な言葉を投げかけてくる。


 年齢不詳、職業不明。

 ただ、その身に纏う空気だけは、

 私が喉から手が出るほど

 欲していた「究極の成功者」そのものだった。



「モト、私はどうすればいい?


  もっと上へ行きたいんだ。


 誰も手が届かない場所へ」



「なら、最高の社交場を教えてやろう。

 だが、そこはただのパーティーじゃない。

 お前の『価値』を賭ける戦場だ」



 週末、私はモトに連れ出され、

 都内近郊のベイエリアへと向かった。


  たどり着いたのは、一般人は入り口ですら

 門前払いされるような超高級パーティ会場。


 扉を開けた瞬間、

 眩いばかりのシャンデリアの光と、

 高価な香水の匂いが、

 私の理性を焼き切らんばかりに

 襲いかかってきた。


 画面越しに指をくわえて見ていた、

 あの SNS の世界。


 手が届かないと絶望していたはずの

「虚構」が、今、私の目の前で

 血肉を持って脈打っている。



「何しにここまできたんだよ!

 有名になりたいんだろ!?」



 あまりの熱狂に気圧される私を、

 モトが鋭い声で叱咤しったする。



「ここは、色んな会社の社長や

 インフルエンサーが惜しげなく集う場所だ。


 お前みたいな『何者でもない奴』が

 自分を売り込む、千載一遇のチャンスなんだよ。

 

 行け!」



 頭に直接響く「あの声」と、

 モトの怒号が重なり合う。


 理性が、音を立てて崩壊していくのが分かった。

 

 私は場違いな恐怖をかき消すように、

 差し出された琥珀色の高価な

 アルコールを、次から次へと胃の中に煽った。



「見てろ……


 私は、お前たちが思っているような、

 価値のない人間じゃないんだ!」



 血走った目で会場を見渡し、

 私は狂ったように叫び、振る舞った。


 シャンパンタワーをなぎ倒し、

 有名起業家の胸ぐらを掴んで自分の

「価値」を喚き散らす。


 周囲の軽蔑に満ちた視線、

 ひそひそ話、向けられたカメラ。

 

 その時の私には、

 そのすべてが最高の「承認」であり、

 最高の「報酬」に感じられた。

 

 その歪んだ全能感の裏で、

 私の影は、以前よりもずっと濃く、

 不気味に伸びていたことに、

 私はまだ気づいていなかった__。





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