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虚無の帝国、瓦解の朝 .ー 後
「……さん!……さん! 意識が戻ったぞ!」
耳を突くのは、救急車のサイレンと、
見知らぬ誰かの必死な声。
頬に触れるのは、
高級な本革シートの感触ではなく、
冷たい雨と、鉄の錆びた匂い。
重い瞼をゆっくりと開けると、
そこにはひっくり返った軽自動車の、
割れたフロントガラス越しに見える、
どんよりとした曇り空があった。
身体は動かない。
手足の感覚はもう、どこにもない。
だが、私の左手には、
確かにあの感触が残っていた。
ひかるが最後に握り返してくれた、
あの静かで、力強い温もりが。
「……ああ……きれいだ……」
私が最後に見たのは、SNS の画面でも、
高価なスポーツカーでもない。
雨雲の切れ間から一筋だけ差し込んだ、
誰の承認も必要としない、
ただそこに在るだけの、
ありふれた太陽の光だった。
私は、満足して目を閉じた。
脳裏の声は、もう二度と聞こえなかった_____。




