亡霊と革命
――ベルリン、連邦議会地下特別調査室。
「オットー・フォン・ビスマルク。1815年4月1日生。1898年7月30日没。死後127年の“存在”が、今ここにいるというのか」
ドイツ内務省調査局長クラウス・レンナーは、目の前の資料を睨みつけながら頭を抱えていた。テレビ、SNS、各国の報道が取り上げた“自称ビスマルク”の言動は、ただの狂人には見えなかった。歴史的な知識、国際情勢への鋭い洞察、そして演説力――どれも一級品。
だが、あり得るはずがない。これは国家的な欺瞞か、何かの壮大なイタズラか。
「……検体の髪の毛は確かに彼のものだな?」
部下が頷く。
「はい。議会控室に落ちていた毛髪からDNAを抽出。19世紀の遺品――シルクハットの内張りから採取されたDNAと、99.7%一致しました」
「……あり得ん」
一方、ヴァイス率いる「ドイツの希望」党内でも激震が走っていた。
「副代表、こんなことは許されません! “本物のビスマルク”など、党の信用を失墜させます!」
「もしこれが真実なら、国民の目は我々の手の中にあります」
「だとしてもだ……この男の言葉には、危険な魅力がある。戦争と独裁の記憶がよみがえる!」
党内が割れた。保守と革新、理想と現実。だがヴァイスは静かに語った。
「我々が恐れているのは、彼ではない。彼の“正しさ”だ。時代が失った冷徹さ――それに民衆が惹かれ始めている」
同じ頃、ドイツ国営放送の政治討論番組『Zukunfts-Stimme(未来の声)』にて、ビスマルクは若手急進左派と正面から激突していた。
「あなたの言葉は独裁的だ! 現代の民主社会にふさわしくない!」
若者の鋭い言葉に、ビスマルクは微笑みすら浮かべて言う。
「若者よ。お前が今自由に叫べるのは、かつて“私のような存在”が、この国を形作ったからだ。歴史とは、自由の代償を払い続ける連鎖だ。理想だけでは、国は守れぬ」
司会者が割って入る。
「閣下――では、現代のドイツに“革命”が必要だと?」
彼は即答した。
「革命とは、権力の破壊ではない。“責任の再定義”だ。今の政治は“責任なき自由”に酔っている。私は、それを叩き起こすために戻ったに過ぎん」
翌日、あるタブロイド紙がスクープを放った。
《衝撃:ビスマルクはクローン? 極秘プロジェクト「プロイセン計画」の噂》
《政府関係者がDNA一致を認める文書をリーク!》
同時に、国会前では「我らの宰相を返せ!」と叫ぶ保守派のデモと、「歴史を侮辱するな!」と叫ぶリベラル派のカウンターデモが衝突。ドイツ国内の分断が、いよいよ表面化し始めた。
その混乱のさなか、ビスマルクは一言だけ記者に残す。
「革命とは、銃を持つことではない。“真実を突きつけること”だ」