25_増え続ける手紙
師匠のくれた行程表を見ながら、私は旅を進めていった。
人道的に組まれたその行程は、私からするとのんびりし過ぎではないか不安になったけれど、ここで疲れて風邪でも引こうものなら台無しである。
そもそも、一週間でオルディンからクリスタリウム・ホロウまで移動したのがおかしかったのだ。
それに、ゆっくりした旅も案外悪くない。
「チキン、美味しい……!」
私は今、カジュアルなレストランで骨付きチキンを豪快に引きちぎっている。
どうやら、私は意外と食べることが好きみたいだ。しかも、お上品なコース料理などではなく露店で売られているような、いわゆるB級グルメ。
人形のようなワンピースでチキンを引きちぎる姿はさぞ滑稽だろうと我ながら思うけれども、美味しいものを食べたいと思うのだから仕方ない。
欲求は止められないのだ。
テラス席には暖かい陽光が差し込み、ほっとする心地よさだ。
舟の出発まであと一時間。
この時間をどう使おうかと考え、私はショルダーバッグから便箋を取り出した。
旅の合間に書き続けているクロノス様への手紙は、今やバッグの大部分を占めるまでになっている。
最初は余裕があったはずのスペースも、今ではパンパンで、財布さえも追いやられてしまいそうだ。
これ以上増やしても入らないのでは……と心配になったけれども、手紙を書くのをやめる気にはならなかった。
「クロノス様へ。今日は、クリスタリウム・ホロウを旅立ってから三日目です――――」
珍しいことが起こらなくても手紙を書いた。まるで、逐一何かを話したがる子どものように私はその日に起きたことをクロノス様に向けて綴り続けている。
手紙を書き始めて分かったことは、意外にもエネルギーを使うということだ。
自分の気持ちを書く時なんかは、特にそうだ。
モヤモヤを言語化するとスッキリはするけれど、同時にどっと疲れる。
私は、ショルダーバッグのフラップを開けると、クロノス様から私宛の手紙を取り出した。
物理的に見ても、薄っぺらい淡々とした手紙だ。
『君のことなんて少しも愛していなかった』
その部分だけ、書くのを迷ったかのようにインクが滲んでいる。
彼は、この手紙を書くのにどれほど労力を要したのだろうかと思う。
「どうして、こんな言葉を残したんだろう」
手紙を書くのは労力のかかることだ。
本当に私のことが嫌いなら、わざわざこんな言葉なんて残さなくて良かったじゃないかと思う。
「……クロノス様は、何を考えていたんだろう」
もしかして、それほどまでに私と縁を切りたかったのだろうか。
そんな悲しい推測を立ててしまい、私は深い溜息をついた。
「別にいいのです。クロノス様が、私のことを嫌っていたとしても」
今から向かうのは、ルクシー村。
花嫁修業の令嬢の一人、セリナの出身地。
四年前に大きな反乱が起こったことで、周辺の村が大きな被害を受けた。そのため、ルクシー村には、被害を受けた村民たちのために病院が建設されたのだ。
そこの現在の院長がレオン・ロス。四通目の宛先である。
彼もまた、特にクロノス様との接点はなかったはずだ。
私とレオン様が顔を合わせたのは、クロノス様が一年前に遠征に出る直前である。
……まあ、その頃には私とクロノス様の関係は冷め切っていたわけなんだけれど。




