異世界って呼び名、そもそも変じゃね?
霧島マルキは、いつもと変わらない平凡な一日を過ごしていた。 空は青く、雲一つない晴天。 歩道を歩きながら、彼は今日の夕飯のことを考えていた。
そのとき——。
「うわっ!」
突如、見知らぬトラックが彼に向かって突進してきたのだ。 マルキは必死に避けようとしたが、足がもつれて転倒してしまう。
目の前が真っ暗になり、意識が遠のいていく。 そして気がつくと——。
「おっと、危ないところだったわね」
柔らかな声が耳に届いた。 ゆっくりと目を開けると、そこには美しい女神が立っていた。 全身が光り輝いており、まるで現実離れしている。
「ここは...どこ?」
マルキは困惑しながら尋ねた。
女神は微笑みながら答えた。 「ここは異世界よ。あなたを新しい冒険へと導くために選ばれたの」
しかし、マルキはその単純な説明には納得できなかった。
「待って待って、ちょっと待ってくれ」 彼は両手を広げて制止するように言った。 「異世界って何なんだ? それに、なんで俺なんだ?」
女神は相変わらず微笑みを浮かべたまま答えた。 「あなたは特別な存在だからよ」
「具体的には?」
「えーっと、その...」
女神の言葉が途切れた。 マルキはさらに追及する。
「そもそも『異世界』って呼び名、変じゃないか? 別の宇宙とも言えないか?」
女神は困惑しつつも説明を続けようとした。 「この世界は、あなたがこれまで知っていた世界とは全く違うの」
「それなら、異なる物理法則や社会制度もあるはずだよな」 マルキは腕を組んで考え込むように言った。 「例えば、重力はどうなってるんだ? 呼吸は?」
彼の論理的な質問に、女神は一瞬考え込んでしまった。
「まあ、それは...」
こうして、霧島マルキと女神の間で異世界についての長い議論が始まった。 彼はなかなか異世界へと送り出されることができないままだった。
「ところで」 マルキは、女神が異世界へ送るという話を聞くと、さらに深く考え始めた。 「異世界の酸素濃度ってどうなってるんだ?」
女神は一瞬困惑し、少し戸惑った表情を見せた。 「ええっと、それは...」
「地球の人間と同じ大気構成の国があるなんて、都合が良すぎない?」 マルキは眉をひそめて言った。 「異世界って言うなら、そこも違うんじゃないのか?」
この質問に、女神はさらに悩んだ表情を浮かべたが、なんとか説明しようとした。 「まあ、あなたが呼吸できるように調整はされています」
「調整? それはどうやって?」
「魔法の力を使って...」
マルキは納得しなさそうにうなずいた。 「魔法ね」
「そう、魔法の力であなたが無事に過ごせるようになっているの」
「でも、具体的にどういう仕組みなんだ?」 マルキは首をかしげながら問いかけた。 「微生物の構成や、圧力、温度、更には放射線レベルとか、考えることは色々あるんだけど」
女神は深いため息をついた。 「それは本当に私たちの手に委ねられているの。あなたは信じてくれると嬉しいんだけど...」
「信じると言ってもなあ...」 マルキは頭をかきながら言った。 「普通なら信じられないだろ?」
女神は再び微笑んだが、その笑みには微かな疲れが見え隠れしていた。 「まあ、それも含めて冒険なのよ。未知を楽しむというのもいいじゃない?」
マルキは少し考え込みながら、まだ他にも聞きたいことが山ほどあることを思い出した。
「そうか。じゃあ次は、食べ物について教えてくれ」 彼は真剣な表情で尋ねた。 「栄養バランスはどうなっているんだ?」
女神は再び困惑した表情を浮かべたが、必死に説明しようと努めた。 「異世界には豊富な種類の食べ物があるから心配しなくていいわ」
「それは具体的にはどういうものなんだ?」 マルキは追及するように聞いた。 「例えば、主要なビタミンやミネラル、不飽和脂肪酸とかタンパク質は充分に摂取できるんだろうか?」
女神は少し考え込みながら答えた。 「うーん、そうね、この世界には魔法の果実や、特別なエネルギーを持つ動物の肉があるの。これらは人間に必要な栄養素をすべて含んでいるわ」
「魔法の果実ね」 マルキは腕を組んで考え込むように言った。 「それはどんな成分が含まれているんだ? ビタミンCとか、カロテン、それに鉄分とか?」
女神は少し焦りながらも答えを探そうとした。 「えーっと、そういう細かい成分についてはあまり考えたことがなかったけど、すごく健康に良いって言われているわ」
「具体的なデータはないのか?」 マルキは首をかしげながら問いかけた。 「それに、異世界の食べ物が全て安全という保証は?」
「もちろん安全よ」 女神は自信を持って答えた。 「魔法の力で浄化されているから、食べても問題ないわ」
しかし、マルキは納得していなかった。 「でも、それじゃあアレルギーとかはどうなるんだ? 異世界の食材に人間が適応するための時間も必要じゃないか?」
女神は深いため息をついた。 「それも魔法で解決できるの。本当に。信じて」
「魔法か...」 マルキは腕を組んで考え込んだ。 「でも、摂取カロリーと消費カロリーのバランスもある。異世界って言うなら、そこはどうなってるんだ?」
女神は笑いを浮かべながら答えた。 「その点も心配しないで。異世界ではあなたが元気に過ごせるように全てが調整されているから」
「具体的にどう調整されているのか、もう少し詳しく教えてくれないか?」
女神は少し戸惑いながらも、なんとか説明を続けようとした。 「それは...また後で詳しく説明するわ。でも、まずは異世界に行ってから体験してもらうのが一番」
こうして、霧島マルキと女神の異世界における栄養バランスについての議論は続いた。 まだまだ異世界に行く道のりは遠そうだ。
女神は疲れた表情で空を見上げた。 これほど詳細に異世界について質問してくる人間は初めてだった。 彼女は、この冒険がどのように展開していくのか、少し不安になり始めていた。
一方、マルキは次々と湧き上がる疑問を整理しながら、まだまだ聞きたいことがあると考えていた。 異世界への旅は、まだ始まったばかりだった。