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第三話:映画と孤独

 俺は、二人にあの緑道へ呼び出され、同じベンチに座っていた。

 時浦の言いたいことも、笹崎の言いたいことも大体は分かる。


「しばらく振り回しちゃってごめんね」


 ビンゴ。


「いや、俺は気にしてないから」


 嘘です。


「その、このことは忘れてくれると嬉しいな⋯⋯」

「分かった。そうするよ」

「ありがとう。別に神獅が悪いとかじゃないから気にしないでね。」


 笹崎は⋯⋯

 あ、目線そらしたな。

 まあ、この間のことがあったからな。


「今日、用事あるからさ。私はもうそんなにここに居れないけど、二人はどうするの?」

「あたしは、神獅君に合わせるよ」


 え。


「神獅はどうするの?」

「えっと、帰ろっかな⋯⋯あ」


 ふと横目で見た笹崎は申し訳無さそうな顔で、こっちを向いて片手で何かを頼むような仕草をしていた。


「やっぱ、もう少しここにいるよ。どうせ家でも暇だし」


 とっさに理由を作って、公園に残ることにした。

 さて、話を聞くとするか。


「こないだのこと?」

「うん⋯⋯」

「そっか」


 話が詰まる。

 流石の俺でもここで理由を聞くべきではないことくらい分かっている。


「あの時のあたしは、自分でも何で泣いていたのか分からなかったんだと思う」


 笹崎が俺の方に身を寄せ、表情を伺うようにして、俺のやや俯き加減の顔を覗き込んだ。


「唱菜ちゃんから聞いた?」

「何を?」

「えっと⋯⋯やっぱ何でも無いや」


 花のような笑顔を作った。それは本心なのだろうか。


「まあ、時浦さんとでも遊びに行くとか、一旦悩みから離れたらいいんじゃないかな。その⋯⋯俺が言うのもなんだけどさ」

「神獅君は優しいんだから、もっと明るくてもいいと思うよ?」


 それが出来たら俺の人生もっと華やかだと思うよ?


「あたしはこうやって集まるのも楽しいし……そうだ! 毎週どっかに集まるってのはどうかな?」


 ま、毎週ですか……?


「わ、悪くないんじゃない? 予定が空いてれば行けるし」

「だよねだよね! 唱ちゃんにも連絡しとこー!」

「は、はあ」


 こういう人間って楽しそうだけど、疲れないのか?


「てか明日とか行っちゃわない? 日曜だし」

「まあ良いけど」


 もう烏が鳴き始めている。こんな時間か。最近日が長くなっているのをよく感じる。


「そろそろ帰ろっか、神獅君」

「だな」



「さっきの話の続きはラインでねー!」

「わかった。じゃあ」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振る笹崎に別れを言い、俺は帰路に着いた。


ーーーー


『明日どっかいかない?』

『どこ行く?』

『映画とかどう?』


時浦と笹崎のトーク履歴を見ながら、俺は最近の映画を何一つ知らないことに気付く。


「調べてみるか、映画」


 検索してスマホの画面に現れたのは大量の映画タイトル。そういえばテレビのコマーシャルで見たようなものから、全く聞いたことのないものまで、様々だ。

 葉巻を吸いながらキャラメル色のコートに手を突っ込んだ刑事が目立つ刑事ドラマや、タイトルだけで興味を唆るミステリーもの。さらには日常生活を滑稽に描いたコメディまで。こんなにあるのだから、まさか自分に合うものが一つもないなんてことはあるまい。

 俺は面白そうな、恐らく流行っているだろうサスペンス映画のサムネイル画像をタップし、リンクをグループラインに送った。


『神獅君やるじゃん!』

『私はこれがいいな』


 女性陣の評価は上々だ。

 ていうか予約ってどうするんだろ。


『多分これ予約とか要るよね?』

『確実に見たいなら要るね。あたしがやっちゃおうか?』

『できるならお願いしたい』

『りょうかーい! 何時くらいにする?』

『お昼食べてから映画観るってのはどうかな? あのショッピングモールでしょ?』

『じゃあ2時半のでいいかな? お昼は二人にお願いして良い?』

『『はーい』』


 映画か……。最後に見たのはいつだろうな……。


 俺はスマホを脇に置いてベッドに仰向けに寝転んだ。最近俺の周りは忙しすぎる。人間関係に酔いそうだ。

 俺は、半分の楽しみな気持ちと、半分のだるけさによって支配されていた。


ーーーー


「え! 兄ちゃん、映画行くの? 友達と? いいなー」


 「俺も行かせてよお」と、子犬のようにはしゃぐ弟の翔。

 本人にいうと機嫌を損ねるが、本当に子犬みたいで、中性的な笑い方がなんだか可愛い。


「てか兄ちゃん、友達と遊びに行くの久しぶりじゃない?」


 あんまり言わないでくれ、弟よ。


「別にいいだろ。やましいことがあるわけでもないし。」


 あっと何かに気づいたようにして、「彼女?」と耳打ちしてきた。


「違う……」

「そっかー」


 翔は、何だ違うのか、とでも言いたげな表情で、俺の部屋を出た。


 友人を作ること、別に難しいとは思っていない。

 俺が小学……4年生になって間もない頃だっただろうか。


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