回想
愛されるってどんな感じですか?
愛するのとは違いますか?
それは幸せなことですか?
我が目を疑うとはまさにこのことだ。
『何故!?』
因果と呼ぶべきなのか?輪廻と呼ぶべきなのか?
僕は、ただただ、唖然としていた。
そして、次の瞬間、僕はあの千鶴と共にいた日々の中にいた。
千鶴は2学年下だったため、僕が大学3年になって東京へ出てきた。
渋谷での一件以来、僕は本気で彼女だけを愛していた。
本格的に付き合っていると呼べたのは、その頃からだろう。
僕のアパートは浦和にあり、彼女は女子大の寮生活だった。
だから会えるのは週末のみ。
携帯もない時代だ。
声を聞くのもままならない時代だった。
どこが好きだったのだろう?
あの頃の僕は、そんな自問をすることさえ無いくらいに彼女に夢中だった。
なにもかも。
存在そのものが、愛おしかった。
彼女が東京に出てきてから、初めて僕のアパートに遊びに来ることになった。
僕の誕生日を祝ってくれるということだった。
駅まで迎えに行くと、彼女は満面の笑みで電車から降りてきた。
「時間かかった?」
僕はそう聞くと、
「うん!結構遠いよ!」
彼女は素直な感想を言った。
二人、顔を見合わせて思わず吹き出した。
アパートに着くと、暫く高校時代の話で盛り上がった。
彼女の親友の話。
同じ部活の仲間たちの話。
取るに足らない話ばかりだったが、心が弾んでいた。
僕は改めて彼女に言った。
「待っていたよ」
彼女は嬉しそうに、
「うん。私も」
それから、毎週、彼女が週末に僕のアパートに来るようになり、
僕は幸せの絶頂のなかにいた。
もっとも、この時の僕はそれを絶頂と知るよしもなかったのだけれど。
二人が深い関係になるのに、そう時間はかからなかった。
彼女も嘘をついて女子大の寮に外泊許可をもらい、僕のアパートに泊まったりもしてくれた。
幸せだった。
愛する子が隣にいてくれる時間。
泊まった次の日の一人の夜は、寂しくて、胸が苦しくなった。
会いたい。
『歩いて、会いに行こうか?』
終電も終わった時間に、そんな無茶苦茶な事まで本気で考えもした。
もちろん、二人で旅行にも行った。
数え切れないくらいの場所へ行った。
喧嘩もした。
でも、必ず仲直りが出来た。
僕は大学4年、彼女も短大なので卒業の年を迎えると、
本気で彼女との事を決意していた。
『プロポーズしよう!』
『彼女にずっと、そばにいて欲しい』
そう思い始めていた。
その頃からだったのだろうか?
あるとき、彼女の生理が極端に遅れたことがあった。
彼女は毎日泣いていた。
僕は責任を取る覚悟は出来ていたし、むしろ嬉しささえあった。
でも・・・
彼女は、順序と規律を優先した。
もし、妊娠したら、『堕ろす』と。
僕は、絶望した。
『またか!?』
僕の子供を産みたいと無条件で願ってもらえない。
この時は僕はまだ気づいていなかったんだ。
女性の心理を。
いや、今でも気づいていないのかも知れない。
だから、こんなに苦しいんだ。
『好きであること』『愛していること』『結婚すること』
すべて別の次元に存在していたんだ。
そして運命の日がやってくるんだ。
あの10月24日が・・・