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24×2  作者: 佐伯チカ
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流浪

いつからだろう?


どうしてだろう?


愛に代償を求めるようになったのは・・・



ため息をつくたび、心が萎んでいく。

そう分かっていても、ため息をつかずにはいられなかった。

毎日が無意味で、生きている意味さえ見いだせない。

自分の帰る場所はなく、毎晩街をさまよい歩いた。

肩を抱き合い、寄り添い歩く恋人たち。

仲間同士で大声を出してはしゃぐ若者たち。

そんな風景の中、僕は一人泥酔しぼろぼろになって街角に寝転んでいた。

空を見上げても、星一つ見えない。


僕は悲劇のヒーローを気取っていたのかも知れない。

そんな風に思い始めていた。

愛ばかりを求め、僕は何をしてきたのだろう と。

愛せば、愛されるのが当然の権利だと考えていたのかもしれない。

子供は親を選べない。

だが、子供は実に純粋に親を愛する。

その代償を求めることなく。

誰に教えられた訳でもないのに。

人間は、知能の代償として動物本来の『愛』を失ってしまったのだろうか?

年を重ねるごと、『愛』は『愛』でなくなる。


また、考えてもどうにもならないことを考えていた。

今更、過去には戻れないのだから。

かといって、今から何をすればいいのか?

僕には見えていなかった。


会社勤めにも愛想がつき、当時の先輩から誘われ会社をおこすことにした。

ちょうど良いタイミングだった。

心の隙間を少しでも埋めたいという一心で会社を始めた。

技術者であった僕には、経理や経営のノウハウは全くなく、

一から勉強しなければならなかったのも幸いした。

勉強している時間というのは、実に都合が良い。

自分の知識を増やす事も出来れば、同時に虚しさを忘れる事も出来る。


初めてにしては上出来だった。

会社は順調に売り上げを伸ばし、数ヶ月で従業員を雇えるにまでなった。

昼は営業として歩き回り、夜は経営状況の分析と、寝る暇もなくなっていた。


それでも、『パニック発作』は変わらず突然襲ってきていた。

あるときは、高速道路を運転中。あるときは、顧客との打ち合わせ中。

まだ認識が薄かった『パニック障害』を説明するのは困難で、理解してもらうことも困難だった。

この『パニック障害』と付き合い始めてもう10年になろうとしていた。

このころの僕は、『早く死にたい』と毎日願っていた。

自殺などする勇気もなく、病気か事故で突然の死が訪れることを望んでいた。

そして、この思いをさらに加速させる出来事が待っていた。

先輩の裏切り。

また、人に騙される結果となった。

彼は帳簿をごまかし、いかにも赤字であることを理由に僕の給料をカットしてきた。

役員である僕は、当然の責任と感じ、受け入れていたのだが。

現実は全くの嘘であった。

単純に自分の取り分を増やしたいがための、でっち上げだった。

僕は落胆する事に慣れきっていた。

なんの精神的ダメージも受けてはいないと思っていた。

しかし、確実に『死』への願望は強くなっていた。


僕は、独立し、自分一人で仕事を始めることにした。

その頃からだ。パソコンに没頭しはじめたのは。

まだ、ISDNが出始めの頃。

インターネットも今のように動画中心ではなく、静止画像が精一杯の時代だ。

自分の会社のホームページを運営する傍ら、趣味で自作パソコンのホームページも運営していた。

顔も年も性別も分からない人たちとの会話に、心の安らぐ場を見いだしていた。


このことが、僕の最後の『愛』への一歩だったとは、その時の僕には想像も出来なかった。


そして、僕の輪廻が始まる。

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