屈曲
生い立ちの1ページ目がめくられる
誰も僕を愛してはくれない
代償を求めない愛などないのだから
母親でさえ
「せんぱ~い!」
僕は、地方でトップクラスの進学校の3年生だ。
振り返ると、同じ部活の後輩がいた。
彼女の名は『千鶴』。高校1年生だ。
部活と言っても、名ばかりの「歴史研究部」。
実態は、放課後にみんなのたまり場になる部室が欲しい連中の集まりだ。
「今日は、部活でないんですか?」
憮然として校門の前に立ちはだかる。
当然だろう。
僕は彼女と付き合っている。
「ああ、今日はちょっとな」
言い訳だ。実は別の女子校の理恵と約束があるのだ。
「つまんないな~ 私も帰ろうかな~」
彼女は可愛い。文句の付け所がないほどの良い子だ。
でも、僕は贅沢なのかも知れないが、埋め尽くせない何かを感じていた。
「じゃあ、明日な!」
「うん。バイバイ!」
自転車にまたがり、理恵の家に向かう。
何を期待している訳ではなかった。
ただ、何かをしていなければ、苦しかった。
家の前には理恵が制服のまま、待っていた。
「今日ね、両親いないの!夜まで!ふふっ」
意味深な言葉をはいて彼女は僕を部屋へ案内してくれた。
「何か飲む?」
「じゃあ、コーヒー」
僕はポケットからタバコを取り出し火をつけた。
『ふ~・・・うめえや』
ほどなく彼女がコーヒーを抱えて部屋に戻ってきた。
「あ~!また吸ってる!!」
「いいだろ!窓も開けたからさ」
「もうっ・・・」
それから彼女の高校の友人の話とか、誰と誰がエッチした、とか。
どうでもいい話を聞かされうんざりしていた。
しばらく黙っていた僕に彼女が言った。
「ねえ、私たちもエッチしようよ!」
唐突だ。何を考えているやら。僕は呆れていた。
すると彼女は制服を脱ぎだし、下着だけの姿になった。
僕は彼女に押し倒されるようにベッドに横たわった。
・・・・・・・・・・・・・・・
僕はまた、タバコを取り出すと火をつけた。
「ねえ。どうだった?」
彼女は照れくさそうに聞いてきた。
「初めてだったの?」
僕は聞き返した。
「うん。でもね、とってもね、嬉しかった」
『そんなもんなのか』
僕は服を着ながら思った。
『セックスってなんなんだ!!!』
・・・・・・・・・・・・・・・
「おはよう!」
朝から千鶴は元気がいい。
「今日は部活でるよね?」
「ああ、行くよ」
また一日が始まった。くそみたいな一日が。
・・・・・数週間後・・・・・・
理恵から伝えられた。
『妊娠した』と。
正直に言うと、僕はわくわくしていた。
『少しは面白くなりそうだ・・・』
翌日、理恵と喫茶店で待ち合わせをした。
始終うつむいていた彼女が、震える声で言った。
「堕ろしたいの。だから病院へ連れて行って」
意外というべきか、妥当な判断というべきか。
「わかったよ」
世の中、甘くはない。すぐに両親のもバレてしまい、学校にもこの噂は広がった。
学校に呼び出され、停学処分を通告された。
『当然だな』
自宅へ帰ろうとしたとき、千鶴が声をかけてきた。
「ねえ、嘘だよね 嘘って言って!」
僕は無言で自転車にまたがった。
彼女は純粋な女の子だ。
これ以上、僕のような男と関わってもしょうがないだろう・・・
・・・・・3月・・・・・・・・・
こんな僕でも大学受験だけは成功した。
まがりなりにも田舎ではトップクラスの進学校だけに、落ちこぼれでもなんとかなるだけの
勉強はした。
僕は、この場所から逃げるように東京の大学へ進学したんだ。