誕生
すべてのものに始まりがあり
終わりがある
その繰り返しの一部でしかなかった
長い、長い、眠りから目が覚めた。
彼女は?
絞め殺してしまった彼女・・・
僕はあたりを見回した。
どうやら、そこは病院の一室だった。
『夢?』
そうだ。
僕は、歩き疲れ、パニック発作に襲われ倒れたんだ。
『彼女は・・・いったい・・・』
あの夢はなんだったんだろう?
おぼろげながらに、感じていた。
『夢なんかじゃない!』
『実際に、僕は同じ事をしたんだ』
僕は僕を救うために、自分の手で救世主を葬ってしまった。
僕が『僕』であり続ける事と、
彼女が『彼女』であり続ける事が真実と信じていたばかりに。
高校時代から、愛やSEXにどこかで冷めていた。
きっと、怯えていたんだ。
裏切られる事への恐怖・・・
真実を知る事への恐怖・・・
そして
『アイデンティティ』の覚醒に・・・
そんな僕に、アズミは教えてくれた。
『愛』の意味を。
『SEX』の意味を。
『生きる』という意味を。
自分自身より優先すべき人格との出逢い。
自分のDNAを残すことを望んでくれるパートナーとの出逢い。
こんな年になるまで解らなかったよ。
『遅すぎた・・・何もかも・・・』
病院を抜け出すと、僕はある場所に向かった。
僕の大好きだった彼女と過ごした街。
そんな街が一望できる小高い山。
僕は、中腹まで車で移動し、そこからさらに上まで歩いて登った。
あたりは真っ暗で、遙か眼下に僕たちの街の灯りが美しく輝いていた。
「綺麗だ」
「また見られるといいな」
『ドクン』
また、パニック障害の発作だ。
ただ、もう僕には薬は必要ない。
だって・・・
暫く発作に苦しみ喘いだ後、僕は山の頂近くにある送電線の鉄塔に向かった。
僕は、鉄塔の柵を越え、一段目の柱に縄を架けた。
そして、おもむろに首を通し、一気に宙へと飛び出した。
僕の『生』を望んでくれる胎内へ向かって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気がつくと、見慣れた景色が目の前に広がっていた。
彼女と待ち合わせた、駅前だ。
ふと見ると、全身黒ずくめの服装の女性がたった1人、
ぽつんとたたずんでいた。
僕は彼女に歩み寄り、
「ごめんね。待った?」
と囁いた。
彼女は、呟くように、優しく、包み込むような声で言った。
「待ってたの。ずっと。ずっと・・・」
終
長い間読み続けて下さった方々にお礼を申し上げたいと思います。
私は、文才もなく、小説家を目指しているわけでもありません。
だから自分の思った通りの人物を自分なりに描いてみたかったんです。
『僕』の人生は幸せだったのでしょうか?不幸だったのでしょうか?
私にもわかりません。
ただ読んで頂いて『僕』に対して何らかの感情を持って頂けたら、
それだけで幸せだと思っています。
またの機会にお目にかかれますよう・・・
ありがとうございました