悲愴
僕はどうして
こんなにも
無知なんだろう
父の闘病生活から、ちょうど半年が過ぎた。
父は、本人の希望通り、モルヒネが効いた状態で
まさに眠るように永眠した。
僕の唯一、尊敬した人がこの世からいなくなった瞬間。
『父さん、僕は結局、あなたを超えることが出来ませんでした』
『父さん、・・・ 本当にごめんなさい・・・』
安らかな寝顔の父の前で、僕はそう呟くことしか出来なかった。
一方で、この頃のアズミは、既に僕から気持ちが離れていっていた。
たった一人、半年もの間、病気と孤独に耐えろというのは、無茶な話だ。
彼女は、その半年の間に告白された男性と付き合おうと思っている
そう僕に打ち明けてくれた。
僕は素直に受け入れる事は出来なかった。
『相変わらず、なんて自分勝手なんだろう』
僕は自分を責めながらも、アズミとの別れを拒んだ。
一方で、24才という年の差から彼女の本当の幸せは
僕との間には無いとの思いもあった。
彼女は十分に僕に与えてくれた。
そう、失われた僕の24年間を埋め尽くすものを。
これ以上、求めるのは『愛』では無い。
頭では理解しても、心は理解出来ていなかった。
そして、僕は彼女に言ったんだ。
「必ず、必ず幸せになると約束して!」
「もし、苦しくなったら、初めて会った場所で待っていて!」
「必ず、迎えに行くから」
アズミは泣きながら、深く頷いた。
それが、アズミを見た最後だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三ヶ月ほどが過ぎたある日、携帯が鳴った。
アズミの両親からだった。
「ごめんなさい。いきなり」
「アズミは自殺しました・・・」
「アズミの日記にあなたの名前が・・・」
『ドクン』
心臓が大きな鼓動を刻んだ。
声が出ない。
自分の身体が自分の物ではないような感覚。
僕は、電話の向こうの声に
『はい』『はい』
と答えることしか出来なかった。
アズミは最後まで『鬱病』に悩まされていたという。
奇異な行動も、しばしば起こしていたらしい。
やり場のない怒り。
当然だ。
自分への嫌悪からくる怒りなのだから。
僕は、ただ、ただ、気が狂ったように奇声を発し続けた。
実際に正気ではなかった。
来る日も、来る日も・・・
僕は大切な人を、また失ってしまった。
誰のせいでもない。
『僕のせいだ』
彼女は、僕の失ってしまった24年間を埋めてくれた。
何よりも、愛おしかった。
諦めていた『愛』を信じさせてくれた。
なのに・・・
何故、僕は彼女の手を離してしまったんだろう。
『彼女の幸せ』
そういう言葉で、逃げていたのかもしれない。
いや、『怖かった』
また、裏切られるのではないかという恐怖心。
最後まで僕は『愛』から逃げていたんだ。
それから、僕はアズミと初めて会った駅の前に行った。
毎日
毎日
いくら待っても、彼女は現れなかった・・・
そう、アズミは僕の暗闇から生まれ、
僕の暗闇が消えると、死んでいったんだ。
その役目を終えたかのように・・・