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24×2  作者: 佐伯チカ
11/16

無言

人は自分しか愛せないのだろうか?


誰かのために生きるのが愛なのだろうか?


誰かのために死ぬことが愛なのだろうか?



『ゲス女め!』


あの日以来、アズミの事を思い出しては心の中で呟いていた。

いや、ゲス野郎と自分を罵りたかったのかも知れない。

訳も分からず必要以上にイライラしている自分がいた。

不思議な感覚だった。

アズミへの嫌悪の感情とはうらはらに、彼女が気になっていた。


あれから一週間ほどたったある日の夜中のことだ。


携帯にメールが入った。


アズミからだった。


『帰れなくなっちゃった。どうしよう。困ったよ~』


何の事やらさっぱりだ。

しかたなく返信する。

正確には少し嬉しかったのだ。


『何があったの?』


『変な奴について行ったら、途中で車から降ろされて・・・』

『電車もないから、家に帰れなくなっちゃった・・・』

『あと、お腹が凄く痛いの』


『何処にいる?』


『前に会った駅の3つ先』


『待ってろ!』


何故か、彼女を迎えに行き家まで送るはめになった。

『しょうがなく』ではなかった。

反射的というべきだろうか。

『行かなくては』

と体が自然に反応していた。


彼女のいる駅まではおよそ1時間。

車を飛ばした。

教えられた場所につくと、彼女は暗闇に小さくなってうずくまっていた。

まるで、雨に濡れた野良猫のように。


「馬鹿野郎!何してんだ!」


僕がそう言うと、アズミは僕に駆け寄り抱きついて泣き出した。

僕は、暫く彼女を抱きしめていた。


「馬鹿野郎・・・」


少し落ち着いたところで、彼女を車に乗せ彼女の家へ向かった。

とは言え、僕は彼女の家を知らない。

彼女はお腹が痛いらしく、苦痛で顔を歪めている。


「少し横になりたいの」


彼女はか細い声で言った。


「じゃあ、ホテルで少し休むか?」


「うん」


僕は近くのラブホテルに入り、彼女をベッドに寝かせた。


「落ち着くまで眠ったら?」


そう言うと僕はソファーで横になった。



・・・・・・・・・・・・・・・



「どうして?」


彼女がいきなり言った。


「それはこっちのセリフだろ?」


僕はすかさず言い返した。


アズミは淡々としゃべり始めた。


「確かに、この前はサイテイ野郎だと思ったよ」

「でも、不思議なんだ」

「なぜか、あなたのことが気になったの」

「今日も、気がついたら、あなたにメールしていた」


僕はゆっくりと話した。


「俺もそうなんだ」

「何故か、俺と同じにおいがしたんだ」

「だから・・・」


僕とアズミは互いの顔を見て『ぷっ』と吹き出した。


「似たもの同士なんだね」



二人はホテルを出ると、彼女のナビで家までの時間、

ずっと無言だった。

決して会話が無かった訳じゃあないんだ。

無言で会話していたんだ。

あの時の二人は。

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