欲望
真実の愛
偽りの愛
いずれの愛も必ず終わる
呆然と立ち尽くす僕を見て、アズミは言った。
「車、乗せてもらってもいい?」
僕は我に返り、
「ああ、ごめんね。どうぞ!」
と言って、助手席のドアを開けた。
「初めまして!いきなりホテルも何だから、喫茶店でも行こうか?」
僕はちょっと思い切ったジョークを言ってみた。
彼女は満面の笑みを浮かべて、言った。
「オマエ サイテイ!」
二人は顔を見合わせて笑った。
移動する車の中で、下品とも思えるジョークを僕は何度も言った。
その度、彼女はそれをうまくかわす受け答えをしてきた。
『この子は頭の回転が早い』
僕はそう感じていた。
「ところで、アズミちゃんはいくつなの?」
「24だよ」
『僕のちょうど半分か』
『いや、僕のあの忌まわしい思い出の年に生まれた子なんだ』
そう思うと、なにやら運命的な何かを感じ始めていた。
「こんなおじさんとデートして楽しい?」
単純な疑問だ。
最近はやりの援助交際が目的なのかもしれない。
そう考える自分はやはりゲスなオヤジになっていたんだ。
彼女は、ふっと暗い目をしたかと思うとすぐに笑顔で言った。
「だって、若い子ってガキでつまらないんだもん」
僕は、彼女の答えよりも、ふと見せた暗い眼差しに『どきっ』とした。
『彼女は何か、重い物を背負っている』
直感でそう感じた。
「お腹すいたぁ~」
「じゃあ、アズミちゃんのよく行く店に連れて行ってよ!」
着いた店は気さくなイタリアンレストランだった。
頼んだ料理はとても美味しくて正直びっくりした。
「おいしいでしょ~?」
「ここは、なんでもおいしいんだよ!」
最近の若い子らしく、洒落た店を知っているものだ。
しかも、値段もリーズナブルだ。
僕は食に関しても関心が無くなっていた事もあり衝撃的であった。
「びっくりした?」
先ほどの暗い目とは正反対の、まるで子供のような無邪気な
明るい目を輝かせて彼女は言った。
それがさらに彼女のミステリアスな暗い影をさらに気にさせた。
食事も終わり、僕は思い切って冗談交じりに言ってみた。
「ホテルいこっか?」
彼女はまた暗い目を見せたかと思うと次の瞬間、こう言った。
「いいよ・・・」
『やっぱり、最近の軽いノリでSEXしちゃう子なんだ』
そう思うと怒りにもにた感情がわき上がってきて、僕は躊躇することなくホテルに入った。
そうして彼女を駅まで送り、別れた。
二度と会うこともないだろうと。
その時はお互いに、そう思っていたんだ。