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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第四章 国を隔てる連峰
91/96

加勢

 フラッデルの後方に位置する速度調節のペダルを思いっきり踏み込み、今さっき歩いてきたばかりの道を文字通り風のように駆け抜ける。ダンが言っていたように元々集落に人の数が多くないのと、夜間のために外を出歩いている人がほとんどいないため、イリスはそのまま低空で走行していた。

 小さな集落のため、端から端まででもそれほど距離があるわけではない。フラッデルを走行させて直ぐに、幾人かが集まって揉めている様子を視界の先に捉えることが出来た。


「っ!やっぱり!」


 周囲を取り囲む男達と剣を交える見慣れた人影を見つけて、イリスは思わず目を覆いたくなった。


 誘拐されたイリスを追ってきていたレオンとロイは、ダン達に撹乱され一旦はイリスの姿を見失っている。それでもイリスが集落に着いたこのタイミングでここを訪れることができたということは、おそらくイリスを見失った後、ナタラ族の集落の方を探し出して何処かで見張っていたのだろう。

 そして案の定そこにイリスを連れたダンが現れたため、後を追って来たのだ。


 無論二人はゲイリーが言っていた『山岳民族と仲良くしておけ』という言葉を知っているので、誘拐されたイリスを奪還するためにいきなり戦闘を仕掛けるようなことはしなかったはずだ。

 しかし先程の門番の態度を見ても、歓迎されていないことは明白だ。こちらが平和的に話し合いを試みたところで、好戦的な態度に出られたのかもしれない。


 しかしイリスは、レオンとロイに関しては大して心配をしていなかった。数で来られたとしても負けないのは当たり前だが、レオンとロイならば相手を怪我させないように平打ちで相手取ることも出来るからだ。

 どんなに先に相手側が仕掛けてきたのだとしても、危害を加えてしまっては友好関係は築けない。その辺は上手く立ち回るだろう。


 しかし問題はリュカだった。登山道入り口に設置した野営地に一人残してくるとは考えにくく、十中八九一緒に来ていることだろう。 

 だがまだリュカは相手と戦えるほどの力量もないし、実践経験に至っては皆無だ。自分が怪我をしないようにするので精一杯どころか、それこそ死に物狂いで応戦しないと怪我どころでは済まないだろう。


 瞬時に最悪の場合を想定をしたイリスは、どんどん近付いてくる戦闘の人混みの中リュカの姿を必死に探した。

 

「あっ!」


 目的の人物をその視界に捉えた瞬間、イリスの口からは悲鳴に近い声が漏れていた。

 手前でレオンが複数人の攻撃を一手に引き受けており、その後方で左右からの攻撃を躱すロイの背に庇われながら剣を構えるリュカが立っていた。

 そんな中、レオンを攻撃していた内の一人が大きく回り込んでリュカの背後に移動するのが見えたのだ。リュカ本人はそのことに気付いていないようで、目の前の敵を見据えたままだ。

 ロイは後方の状況に気付いて視線を向けるも、左側から攻撃されて今すぐリュカの助けに回ることが出来そうもない。


 門を照らす篝火の明かりに照らされ、ナタラ族の持つ鉈のような独特の形をした刀身が不気味に光りながらリュカに向かって真っすぐに振り下ろされた。


「!」


 ロイが相手の剣を受け止めながら息を呑んだその瞬間、ガギィィンという金属同士が激しくぶつかり合う音が辺りに響いた。


「えっ!」

「なっ!」


 それは、間一髪のタイミングだった。

 リュカに振り下ろされた剣の切っ先がリュカの身体に触れようとしたまさにその瞬間、イリスがその場に回り込むと地面に対して横向きで二人の間に突っ込み、リュカの身体を押さえ付け地面に伏せさせ、フラッデルを盾にしてその剣を防いだのだ。


 その勢いのままイリスは身体を一回転させ、持っていた自身の剣を鞘から抜くことなく相手の剣の柄目がけて下から振り上げた。

 思わぬ方向からの攻撃に虚を突かれ、柄を弾かれた男の剣はそのまま宙を舞った。


 それを確認し、イリスは視線をリュカに向ける。

 地面に伏したままではあるが、何が起こっているのか状況を確認しようと顔を上げたリュカと目が合う。驚いた表情をしているもののその顔に苦痛は見受けられず、目立った外傷も見当たらない。

 一先ず安堵したイリスは、すぐに視線を戻して周囲の状況を確認した。

 相手の数は凡そ十人。持っている武器は剣のみ。周囲に被害を拡大させるような危険物も無い。ざっと状況を把握したイリスはフラッデルの先端を下に向け再び起動させた。

 

 超低空飛行でさほど距離も無いのに突っ込んでくるイリスの乗ったフラッデルを見て、周囲にいた男達がどよめき左右に割れてフラッデルを避けようとする。

 イリスは僅かにできた空間目がけて突っ込むと地面スレスレの位置で再び身体を横に倒し地面に片手を付いた。

 しかし速度を上げていたフラッデルの勢いは急には止まらない。手を軸にその場でぐるりと横向きにイリスの身体が一回転する。

 回るフラッデルから距離を取ろうと、更に男達が後退る。それを見逃さなかったイリスは地面についていた手を離して上体を起こした。

 周囲の男達は初めて見る動きに虚を突かれその動きを止めていたが、イリスから距離があった男達は怯まなかったようだ。立ち上がったイリスに向かって切り掛かってくるのが見えた。


 イリスはやはり鞘から剣を抜くことなくそのまま剣を構える。そして向かってくる男達目がけてフラッデルを発進させた。

 先程も見た動きとはいえ、この距離でその速度で自分に向かって来るフラッデルに怯まない相手はいない。その隙を見逃さず、イリスは一瞬で相手との距離を詰めると身を低くして鞘に収めたままの剣を下から振り上げた。


「くっ!」


 相手も何とか応戦しようと剣を握る手に力を込めるも間に合わず、先程の男と同じように剣が宙を舞った。

 そのまま間髪入れずに、移動し宙返りをしつつ放たれたイリスの一閃に、やはり対応しきれず周囲にいた男達の剣も弾かれていた。


「そこまでだ!!」


 後方からダンの鋭い声が周囲に轟く。途端、尚もイリスに飛び掛かろうとしていた男達はピタリとその動きを止め、騒然としていた場は水を打ったように静寂に包まれた。


 走って来たのか僅かに息が切れているダンを空中から見下ろす。

 それ程時間が掛かる距離でもないので、ダンはおそらく到着していたにも関わらずこの状況を少しの間静観していたのだろう。

 

(来ていたのなら早く止めてくれたらよかったのに)


 イリスに相手と戦う意思が無いのは剣を鞘から抜かなかったことからも一目瞭然なのだから、静観せずにさっさと戦いを止めて欲しかったとイリスは眉を顰めた。


「お前等明日から鍛え直してやるからな!」


 こちらに歩を進め近付いてくるダンの怒気を孕んだ声が周囲に響き渡る。その声に屈強な男達が震えあがる様子を目にして、イリスは何だか申し訳ない気持ちになりながらフラッデルの高度を下げ地面にゆっくりと着地した。

 ダンはイリスの目の前までくるとそこで足を止めた。地に降り立ったイリスを、今度はダンが見下ろす。


「前言撤回だ。……お前さん、ただ鳥籠で囲われていたわけじゃないんだな」


 目を見開いて驚き、まじまじとイリスを見下ろすその表情に思わず苦笑が漏れる。

 ダンは屈強な体躯の大男で表情は強面であり、しかも隻眼のために見た目は恐ろしくも見えるのだが、今見せているようなどこか抜けた表情もするせいで、イリスはあまりダンを恐いとは感じていなかった。


 普段のイリスなら人を揶揄うようなことは絶対にしないのだが、何故だかダンは揶揄いたくなるような不思議な人柄であり、イリスは先程のダンの言葉を借りながら嫌味っぽく言葉を返していた。

 

「ええ。鳥籠の中で、大事にされ、沢山の人に助けられて今生きているので」


 それを聞いたダンは、イリスから視線を逸らすと気まずそうに頭を掻いた。




「悪かったな。だが集落を守るのが奴等の役目だ。多目に見てやってくれ」


 ダンの一声で男達はそれぞれの持ち場や住まいへ戻っていき、場は先程までの喧騒が嘘のように落ち着きを取り戻していた。

 漸くゆっくり相対することが出来たダンはレオン、ロイ、リュカを順番に見遣った後、頭を下げて謝罪の言葉を口にした。


「いや、歓迎されていないことが分かっていながら乗り込んできたこちらにも非はある。しかし仲間を攫われてはそうせざるを得ない。大怪我にならないように配慮したつもりだが、多少の怪我を負わせたことに対して苦言を呈すのは止めてもらおう」

 

 自分より倍以上も年上のダンに全く怯む様子もなく、レオンが淡々と対応する。

 その言葉は詫びていながらも何処か挑発的で、聞いている方が気がきではなくイリスはレオンとダンの顔を不安げに交互に見遣った。


 二人はお互い目を逸らさず睨みを効かせていたのだが、先に折れたのはダンの方だった。


「ガハハハッ。威勢がいいな兄ちゃん。しかも怪我をさせないようにしながらあれだけの人数を相手に立ち回るとは、大したもんだ」

「それはどうも。……俺達はちょうどあんた達に用があるんだ。話がしたい」


 放たれた軽口を一蹴すると、レオンは睨むのを止め真剣な表情で話を切り出した。だがダンは、軽く手を振ってその言葉に否定を示した。


「そう焦るな、もう夜も深い。兄ちゃん達の話は明日だ。お前さん方を完全には信用できない以上見張りには就かせてもらうが、敵対することは無い。今晩はゆっくり休め」


 最初にイリスがダンの家で休ませてもらうことになった時も、ダンは夜中イリスのことを見張ると言っていた。

 言葉通りなら得体の知れない人物を警戒して見張るということだが、その実ダンは、イリスが何者かを知った上で護るために見張ると言ってくれたのだろう。


 やはりダンは相手に素直に思っていることを伝えることか苦手なのか気恥ずかしいのか、物事を婉曲に伝えてしまうようだ。

 その性質を理解していれば微笑ましいだけだが、理解していない人間相手だとどうにも関係が拗れそうだとイリスは思った。


「それじゃあ、お言葉に甘えて休ませていただきます」

「ああ、そうしな」


 不服そうなレオンの背中から顔を覗かせ、笑顔でロイが対応する。ダンはイリス達に向かって追い払うように手を振りながら、周囲にいた男達に何やら指示を出していた。今晩のイリス達の見張りについてのことかもしれない。


「ほら、じゃあ行くぞ」


 男達と話がついたようで、ダンが声を掛けるとさっさと先頭を歩き始めた。慌ててロイがレオンの背中を押しながら後に続き、それにイリスとリュカも続く。

 イリスは歩きながら、後ろを振り返ると小声でリュカに声を掛けた。


「川端でもダンさんに地面に叩きつけられていたし、さっき私も急に地面に押し付けちゃったけど、大丈夫だった?」


 急に話し掛けられちょっと驚いた表情を見せたものの、リュカはすぐに眉を顰めるとイリスから視線を逸らした。


「……大丈夫だ」


 不快そうな表情を見せるリュカにイリスは困惑する。すると会話が聞こえていたようで、イリスの前を歩いていたロイが笑い声を押し殺しながら後ろを振り返った。


「くくっ、あ、ごめんごめん。ちょっと話が聴こえちゃって。イリスが気に病む必要はないよ。リュカは助けられてばかりの自分が不甲斐なくて、落ち込んでるだけだから」

「ロイっ!」


 愉しそうにリュカを揶揄うロイに対し、リュカは今にも掴みかかっていきそうな勢いだ。イリスが思わず止めようと手を伸ばした時、ロイの前方からレオンが声を掛けてきた。


「成長のためには、内省することも必要だ」

「……」


 レオンの言葉に、憤っていたリュカの勢いが止まる。

 心配するイリスを余所に、ロイは相変わらず愉しそうに笑ったまま顔を前方に戻して再び歩き始めた。イリスが後ろを振り返ると、リュカがムスッとした顔をしながらも大股でイリスを追い越していく。


 何だか前にもこんなことがあったような気がするなと既視感を覚えながら、イリスも皆の後に続きダンの家に向かって歩き始めた。






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