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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第四章 国を隔てる連峰
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認識と意識

本日二話目の投稿です。ちょっと短めです。


ここから第四章に入ります。よろしくお願いします。

 ナリシェの町を出て、一行は朝日の中をストレアル山脈の登山道の入り口を目指して歩いていた。


 ここからストレアル山脈の登山道入り口までは徒歩で約一日といったところだ。

 サンスタシアの帝都から整備されている主街道を来ていたのなら、まだここまで辿り着けていなかっただろう。

 しかし一行は道無き道を帝都から真っ直ぐに進んできていたので、一般的な道程よりも数日早くここまで辿り着いていた。


 いつも通り先頭をレオン、最後尾をロイが歩く。間に挟まれる形で歩くイリスとリュカは、いつもは前後になったり、疲労の色濃いリュカを気遣いイリスが並んで歩いたりしている。

 だが今朝は朝早くにナリシェの町を出たので、リュカの早朝訓練はお休みだった。そのため今日はまだリュカの体力に余力がある。

 故にイリスとリュカは前後になりながら歩いていた。



 前を行くイリスの背中を眺めながら、リュカはどこか気も漫ろだった。

 もっと言えば、実は昨日からそうだった。


 何故そんな風に気持ちが漫ろになっているのかと言えば、答えは簡単だった。


(女……だったんだよなぁ)


 昨日初めて女の格好をしているイリスを見て、リュカは驚きすぎて言葉も出なかった。

 実際には言葉は出たのだが、どうでもいい感想しか出なかったのだ。


 勿論リュカとて、頭ではイリスが女であると認識していた。イリスはウィレンツィア王国の王女かもしれないのだから、男であろうはずもない。

 そう、頭では認識していたつもりだったのだ。しかし、心が理解していなかったのだろう。


 騎士として剣を振るう姿に、フラッデルを意のままに操る姿に、男の様な格好が常な姿に、女だと頭で分かっていても、女だと心が理解していなかったのだ。


 そして昨日、初めて女の格好をしたイリスを見て、イリスが女なのだと唐突にリュカの心が理解したのだ。


 リュカは前を歩く後ろ姿をまじまじと見つめる。


 琥珀色の髪は短く切り揃えられており、歩く振動で毛先が僅かに揺れていた。

 旅装の上にはフラッデルを被うようにマントを羽織っているが、マントの上部からは背中に背負った剣の柄が見えていた。

 男にしては背が低く小柄で華奢である以外は、女とは言い難い風貌である。


(女だってことは百も承知なんだけどな。女だと理解し難い……いや、女だと意識していなかったのか)


 自問自答する中で、何かがストンと府に落ちた。


(……そうか。女だって意識していなかったのか)


 そう結論付いたところで、ぶわっと身体中の血液が沸騰した様な感覚に襲われた。


 リュカは顔が、一瞬にして熱くなったのを感じた。おまけに身体中から変な汗まで出てきた様な気がして焦る。

 気恥ずかしいような気まずいような、そんな落ち着かない心持ちになりリュカは思わず歩いていた足を止めてその場に蹲った。


「どうした?」


 突然目の前で蹲ったリュカに対して、後ろを歩いていたロイは特に焦った様子もなく声を掛ける。

 ロイの声に気付き、前を歩いていた二人も立ち止まった。


「リュカ大丈夫?どこか体調でも悪い?」


 慌ててイリスがリュカに駆け寄り膝を付く。

 熱や脈を測ろうと伸びてきた手に対して、リュカは顔は上げずに手でイリスの動きを制した。


「大丈夫。具合が悪い訳じゃないから」

「えぇ?そうは見えないけど」


 頭を抱え込み未だ蹲ったままのリュカを心配そうにイリスが覗き込む。リュカは間近にイリスを感じて、尚更顔を上げられなくなっていた。

 さっきよりも更に顔が熱い気がして、リュカは戸惑う。よく分からないものが身体の中を駆け巡り、落ち着かない気分だった。


 そんな二人を後方から見下ろしていたロイは、蹲るリュカの髪から僅かに覗く耳の先が赤くなっていることに気付いた。


「……ふぅん。……大丈夫、心配要らないんじゃないかな?」


 ニヤニヤと口角を上げて笑うロイに、前方からこちらの様子を伺っていたレオンが訝しげな顔で首を捻った。


「面白いことになりそうだ」


 心配いらないということを手を振ってレオンに知らせながら、良い笑顔でロイが独り言を呟く。

 その独り言が誰の耳にも届かなかったことを周囲の面々を見ながら確認すると、ロイはニッコリと笑ってリュカの隣に跪いていたイリスを立たせ、背中を押してその場から追い立てた。

 そして後ろを振り返ると、未だ蹲ったままのリュカに声を掛けた。


「体力的にはまだまだ余裕でしょ。後から追いついておいで」


 そうリュカに言い放ちさっさと歩き始めたロイに急かされて、イリスも渋々歩き始める。

 だがまだロイが言うようにリュカが大丈夫だとは思えていないようで、イリスは何度か振り返りながらリュカを心配そうに見つめていた。


 しかし当のリュカは正直少し一人で冷静になりたい気分だったので、ロイの提案をありがたく受け取った。

 

(大丈夫、そういうのじゃない。大丈夫)


 リュカは必死に、何度も心の中で自分に言い聞かせていた。


 別にイリスに対して、好感は持っているが好意を抱いているわけではない。そもそもイリスはウィレンツィア王国の王女かもしれず、リュカとイリスでは身分が違いすぎて恋愛になど発展するはずもない。


(初めて見た女の姿に動揺したのと、女だったのだと自分の心が意識しただけだ)


 そう結論付け、リュカは大きく息を吐き出した。


「……」


 何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、離れていく三人を追い掛けるためにゆっくりと立ち上がる。

 前を行く三人とは、だいぶ距離ができて離れてしまっていた。


 離れた距離を詰めるために、リュカは足早に歩き始めた。



 

 



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