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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第三章 歪な町
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三人での作戦会議

 食事を終えた一行はイリスとロイ、レオンとリュカの二手に分かれた。


 レオンとリュカは剣の鍛錬を行うために、一旦町を出て行った。町中で剣を振り回すわけにもいかないからだ。

 嫌々という表情を隠しもせずレオンに対して「鬼」だの「悪魔」だの悪態を吐く割には素直について行くあたり、鍛錬を口ほどには嫌がっていないようだ。

 少しでもみんなの役に立てるようになりたいというリュカの想いが垣間見えるようだった。


 イリスとロイはそんなレオンとリュカを見送ってから、町中の探索を始めた。


 相変わらず町の往来を行く人々は何故か俯きがちで活気が感じられない。だがイリス達とすれ違う時だけは、顔を上げてこちらに視線を向けてきていた。

 普段あまりお目に掛かることのない旅人であるため、好奇心が勝っているのだろう。


 だがそれだけではなく、気になることがあった。


 町の人々がイリス達に視線を向けた後、誰もがどこかしらにちらりと視線を向けるのだ。

 最初はイリス達を好奇心から見てしまったことを隠すために、視線を逸らしているだけかと思っていたのだが、よくよく町の人達を観察し視線の先を追ってみると、何人かが同じ一点に視線を向けていることが分かったのだ。

 しかし視線を向けたと思ったらちらりと見てすぐさま視線を元に戻すので、何を見ているのかまでは一瞬すぎて分からなかった。

 しかもどうやら町の人々は、自分の意思でそこを見たというよりはついついその場所を見てしまい、見てしまったことに慌てて視線を戻しているようなのだ。


 そうした反応をする町の人々に気付いた時、正直イリスはいい予感がしなかった。


「喉が渇いたー。イリス、ちょっと休憩にしよう」


 真剣な表情で考え込みながら歩いていたイリスがふと我に返ると、自分の顔を覗き込むロイの笑顔があった。そのあまりの近さに、イリスは驚いて口籠る。


「っ、あ、そう、だね」

(ここにいて)

「!」


 ロイが言葉にはせず口の動きだけでイリスに指示を伝えた。

 ロイの顔が目の前にあるので、ちょうどイリスの顔が目隠しになり往来を行く人々にはロイの口元は見えなかったことだろう。

 さっき食事を終えたばかりで、まだそれほど距離を歩いたわけでもない。喉が渇いたというのも方便だ。


(ロイは何に気付いたのかしら)


 おそらく何かに気付いたロイが、それを確かめるために行動を起こしたのだろう。イリスは言われるがままその場でロイを待つことにした。


 ロイは通りに面した一軒のお店に入っていく。店先には軽食や飲料などのメニューが書かれた看板が置かれているのが見えた。

 ロイの真意が分からずイリスが戸惑っているうちに、店内は昼時を過ぎて混雑していなかったようで、程なくして紙のコップに入った飲み物を二つ持ったロイが店内から戻ってきた。


「向かいのベンチに座ろうか」


 ちょうど通りを挟んで店の向かい側にあったベンチを、ロイが視線で指し示す。

 二人でそこに並んで腰を下すと、イリスはロイから紙のコップを受け取った。

 受け取ったコップからは茶葉のいい香りが湯気と共に立ち上がっている。イリスはスーッとその香りを深く吸い込むと、ほっと一つ息を吐いた。


「顔はそのままで。どうやら監視カメラが仕掛けられているみたいだ」


 コップを覗き込んでいたイリスの耳に、ロイの囁き声が届く。

 驚いて思わずロイを振り向いてしまいそうになったイリスは、慌てて紙コップを口元に傾ける仕草でそれを誤魔化した。

 顔は前を向いたままで、僅かに視線だけ動かしてロイを見遣る。ロイは目元を綻ばせてにこやかに紙コップの中身を飲んでいるように見せかけながら、口元の動きを隠して話を続けた。

 

「さっきの飲食店の看板の内側にそれらしき物があるのが見えた。監視カメラの可能性が高いから視線で追わないようにね。往来の人々を見ててご覧。一瞬無意識にそこを見ているのが分かるから」


 言われたとおり、看板は見ないようにして行き交う人々をそれとなく観察する。すると、何人かに一人は飲食店の入り口の下の方、すなわち店先に置かれた看板をちらりと見て、そして直ぐにそこから視線を逸らしているのが分かった。


「本当ね」

「だけど町の人々の視線を追う限り、どうやら監視カメラはこれ一台ではないみたいだ」


 町の人々の視線を追っていると、先程の店先に置かれた看板だけでなく、その数軒先の家の軒下を見上げる人も何人かいた。どうやら監視カメラはまだありそうだ。


 仮に監視カメラが複数あり町中が監視されているのであれば、往来の人々の活気のなさも頷ける。

 余計な行動を起こして、監視者の目に止まることを恐れているのだろう。


「よし。とりあえず機械が設置されている場所を全て把握しようか」


 ロイは紙コップの中身を一気に飲み干すと勢いよくベンチから立ち上がった。

 それを受けて、イリスも残りの紙コップの中身を口の中に流し込む。


 自分達も誰かに監視されているという得体のしれない恐怖に抗うように、イリスはベンチからゆっくりと立ち上がるとグッと身体に力を込めた。




◇◇◇   ◇◇◇




「なるほどな。それならこの町の異様さに説明が付くな」


 夕日が西の稜線に沈み草原が完全な暗闇に包まれる前に、レオンとリュカは町中に戻ってきていた。

 昼間と同じく宿屋の一階に併設された食堂で夕飯を取った後、今は宿屋の一室に集まって昼間の報告をしているところだ。


 ちなみに今この場にリュカの姿は無い。元々疲労困憊だったリュカは、鍛錬から帰ってきた段階でもう完全に限界だった。

 宿屋に辿り着くなり部屋のベットに倒れ込み、今は泥のように眠っている。


 そんなリュカが夜間に目を覚ましお腹が空いた時のために、起きたら食べられるよう食堂で作ってもらった簡単な軽食がベット脇のテーブルに置いてあった。

 だがおそらくリュカは、明日の明け方に鍛錬のために叩き起こされるまでは、何があっても起きないだろうと三人共確信していた。


「さて、どうしますかねぇ」


 部屋の扉に背を預け腕組みをして佇んでいるロイが、窓際の簡素な書机に肘を付きながら同じ造りの椅子に座って外を警戒しているレオンに向けて問うた。

 ロイの言葉に、ベットに腰を下していたイリスもレオンの方を見遣る。


 二人の視線を受けて窓の外から視線を室内に戻したレオンは、大きく溜息を吐いた。


「ここまでくると、もう放っておけるレベルじゃないな」

「仕方がないね。観念しなよ」


 頭を抱えるレオンを見てロイが肩を竦めなから笑う。

 厄介事に巻き込まれたくは無いが、ここの町の人達が困っているであろうことは明白だ。

 イリスとしても先を急ぐ旅ではあるが、困っている人達をこのまま放っておくことはできない。出来る限りのことはしてあげたかった。


「おそらく監視カメラを仕掛けた黒幕は俺達旅人にはこの件に関わって欲しく無いはずだ。こちらが下手に動かなければ何かされることは無いだろう。……その隙を突く」

「具体的にどうするのさ」


 ロイが問えば、レオンは言いにくそうにしながらイリスに視線を向けた。

 

「俺とロイは一旦町を出る。先ずは町の外に出て無線で帝都に連絡を入れてみようかと思う」


 そうなのだ。わざわざイリス達が解決まで導かなくとも、帝都にナリシェの町の現状を伝えて、ここの監査に携わった騎士を洗い出して追求してもらうと共に、ナリシェの町に帝都から調査に来てもらうのが一番いい方法だろう。


(でもそれで解決するのであれば、とっくに解決しているような気もするけれど)


 ここまで町が整備されるまでの間に、町の人達が一切の反発をしなかったとは考えにくい。

 帝都に訴えても取り合ってもらえなかったか、調べても証拠がなかったのか、何かしらの理由がありそうだった。

 そう感じていたのはイリスだけではなかったようで、レオンも眉根を寄せて話を続けた。


「それで解決するのが一番いいんだが、おそらく正攻法でいっても何らかの隠蔽と言い逃れが出来るようになっているのかもしれない。そこでだ、俺とロイがいなくなり残りがイリスのみとなれば、相手方の警戒も薄れるだろうから、イリスはその隙を突いてこの町の黒幕について調べて欲しいんだ」


 町の人達は監視カメラに怯えている。誰も監視カメラに好意的でない以上、監視カメラの死角で話を聞けばすぐに黒幕に辿り着けそうな気がした。


「でもさ、町の人達に情報収集をするのなら、俺の方が適役じゃない?」


 ロイが扉に背中を凭れたまま提案する。

 今日の食堂のウェイトレスの彼女然り、確かに温和で社交的なロイが話しかけた方が町の人達も話しやすいだろう。

 だがそんな思考を、レオンが一言で切り捨てた。


「ロイでは町の人に顔が割れてるだろう」

「え?イリスだって普通に町中を歩いてたんだよ?顔が割れてるでしょうよ」

「……」

「……え、まさか、イリスに女装させる気?」


 言葉にしてしまってから、自分の失言に気付いたようだ。ロイが慌ててイリスを振り返った。


「大丈夫、分かってるか、ら」

「ごめ、痛っ」


 ロイが口を開く前にイリスが声を掛けたのだが、あっという間に窓際から距離を詰めたレオンの拳骨がロイの頭上に落ちていた。


「変装な」

「ごめん、イリス」


 真剣な表情で静かに怒るレオンと、必死に深々と頭を下げて謝るロイ。その光景が何だかおかしくて、イリスは笑い声が零れそうになる口元を思わず片腕で押さえた。

 

「?」

「あ、ごめん。その役割、いつもはリュカなのになって思ったらおかしくて。それで?リュカはいないものとして扱われているけれど、どうするの?」


 イリスの言葉で、ロイも今気付いたとばかりに手を合わせて相槌を打つ。

 今までフラッデル隊として三人で行動することが多かっただけに、この場にいないリュカの存在をつい失念していたらしい。


「忘れていたわけじゃない。相手側にとってはリュカスも警戒の対象だろうから、本来なら俺達と一緒に連れて行く方が良策なんだが……」

「リュカも見た目だけは成人男性だからね。でもその中身は、まだまだヒヨッコなんだけどねぇ。で、リュカはどうするのさ」

「起こさなきゃ寝てるだろ。寝かせとけ」


 溜息を吐きながらレオンが肩を竦める。そんな様子をロイが温かい目で見ていた。

 表面上の言葉は厳しいが、レオンなりにリュカを休ませてやろうという気遣いなのだろう。


「ということで、今から行動に移る」

「「え?」」


 レオンの言葉に、二人とも間の抜けた声を上げてしまった。


「え、今から?もう夜だよ」


 ロイが再度問う。リュカが夕食を待たずに寝てしまっただけでまだ夜遅い時間ではないにしても、夜は大分更けてきていた。


「人通りが少なくなった方が俺達の行動が目立つだろう。今から馬を借りて夜駆けをするということにすれば、町中に俺達の行動を知らしめやすい」


 レオンとロイが町を離れたと思わせて油断させるためには、確かに今から行動を起こした方が目立つだろう。


「えぇ……。今日はベットで寝られると思ったのに」


 大げさに肩を落として見せながらロイが愚痴を溢す。


「さあ、そうと決まれば行くぞ」


 レオンがそんなロイにお構いなしに、颯爽と座っていた椅子から立ち上がる。それを合図に、イリスも腰かけていたベットから立ち上がると、フラッデルを背負いマントを肩から掛けた。


「あぁ……ベットで寝たかった……」


 再度溢されたロイの呟きは、誰にも返答を返してもらえることなく、無情にも静かな部屋に溶けて消えていった。




 


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