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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第三章 歪な町
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歪な町

 遥か遠くに見えていた時から大きな町だと感じていたが、足を踏み入れたナリシェの町は今まで旅の中で通ってきたどの町よりも遥かに大きく、立派な造りをしていた。


 レンガや木で造られた家々はどれも二階建てで頑丈な造りをしている。しかも木材で造られた屋根や壁に配されたレンガは所々その配色を変えながら敷き詰められており、さながら模様のようにも見えて美しかった。

 二階の窓辺にはどの家も小さなバルコニーが造り付けられ、そこには色とりどりの花々が植えられており通りを華やかに彩っている。

 そうした美しい家が通りを挟んで整然と並んでおり、同じ建築様式で建てられているため町全体に統一感を醸し出していた。

 さらには、メイン通りと言える町の中央を南北に伸びる通りには石畳が敷き詰められていて歩きやすい。帝都や街道沿いの町でもないのにここまで洗練された町は珍しかった。



 基本的に、各国と自国を繋ぐ主要街道は国家間の了承を得て整備されているのだが、そこから枝分かれした道に関しては国としては整備しておらず手付かずな場合が多い。

 それは、世界平和条約の『不可侵の掟』と『不変の掟』で、領土外の無主地の開発と整備が禁じられているからだ。

 故に整備されている国家間を結ぶ主要街道以外の道は、人々の往来によって土が踏み固められて作られた土道や砂利道のようなものが多かった。


 今いるナリシェの町からもう少し南西に下るとエダルシア王国に向かう主要街道が走っており、その道沿いにルイノアールという町がある。

 ルイノアールの町は主要街道沿いに造られた宿場町でその歴史も古い。サンスタシア帝国、ウィレンツィア王国、ドルシグ帝国からストレアル山脈を超えて南のエダルシア王国へ向かおうとする場合、必ず通る場所にあるためとても栄えている町だった。


 街道は北のドルシグ帝国から南のエダルシア王国まで伸びており、途中でウィレンツィア王国からの街道とサンスタシア帝国からの街道が合流している。

 そのためサンスタシア帝国からこの街道に合流するためには、南西に向けて少し回り道をしていく必要があった。

 けれど今回イリス達はこの主要街道を通らず、サンスタシア帝国から真っ直ぐ南に進路を取り、草原や森の中を抜けてエダルシア王国を目指していた。


 できるだけ早くオートレア王国へ着けるようにと最短距離を移動したという理由もあるが、一番の理由としては、ドルシグ帝国からの襲撃に備えるためだった。


 最初に宿泊したニールの町で夜間に襲撃を受けたわけだが、ドルシグ帝国は町中であってもお構いなしに襲ってくることが判明したので、一般の民を巻き込まないためにできるだけ人の多い場所を避けて旅をしていたのだ。

 そのためニールの町で宿泊して以降は、主要街道を避けて道なき道を最短距離でストレアル山脈を目指しており、近くの町で必要物資の調達は行うものの宿は取らず、ここまで野宿をしてきていたのだ。


 そうして辿り着いたのが、主要街道からは外れたこのナリシェの町だった。

 


「今日は町中に泊まるけれど、大丈夫かな」


 イリスが前方を歩くレオンに向かって声を掛ける。町中に入ったので、行き交う人々もちらほらいるため具体的な言葉は伏せたが、それでもレオンにはイリスの言いたいことが伝わったようだ。


「今日は見張りを二人体制で回そう」


 ドルシグ帝国からの襲撃がないとも限らない。

 一般の民を巻き込まずに対処するためには二人でも足りないだろうが、しかしあちらとて一部隊で襲ってくる訳ではないのだ。二人体制で見張り、何かあったらできるだけ迅速に対応すれば何とかなるだろう。

 

「しっかしさ、なんていうか……不思議な町だね」


 全員が感じ取っているであろう違和感を、最後尾を歩くロイが一言で表した。


(そうなんだよね)

 

 最初こそ美しい町並みだと思ったのだが、歩いても歩いても同じ建築様式で建てられたほぼ同じような家々が並んでいる。そして足元には、隙間なく敷き詰められた歩きやすい石畳の歩道が続いていた。

 町の人々全員が是と唱え町全体で取り組まない限りこのような統一感のある街並みは完成しないだろう。

 けれど主要街道沿いでもないこのナリシェの町は、街道沿いのルイノアールの町などと比べればそれほど流通も経済も回っていないだろう。そんな町でありながら、誰が何の目的で、何処から資金を得て、どうやってこの町並みを造り上げたのかが疑問だった。


「だってさ、ここまでする必要ないよね?」


 疎らではあるが通りを行き交う人々もいるため、聞かれても差し障りがない言葉を選びながらロイが更に疑問を投げかける。


 ロイの言う通り、基本的に人々は日々の自身の暮らしさえ問題がなければ他はそれほど重要ではなく、労力をかけてまで他を良くしようとは思わないものだ。

 主要街道を外れてわざわざこの町を通る旅人も商人もそうそういない。にも拘らず、誰に見せる訳でもないのに町並みは美しく、誰が歩くわけでもないのに歩きやすい道を整えているだ。

 ここまでする必要がこの町の人々にあるとは、到底思えなかった。


「そうだな、往来の人もまばらで昼時なのに活気が感じられないしな」


 レオンが声を潜める。確かにお昼時だと言うのに、町の大きさから察する人口数と比べても人通りが極端に少なかった。

 しかも通りを歩く人々の表情は心なしか暗い。伏し目がちであまり言葉を発することなく、先を急いでいるようにすら見える。時折こちらを見て旅人だと気付き驚くような表情を見せる者もいたが、だからと言って関わるつもりもないらしい。

 通りに面した生活雑貨を売るような店も、薬を扱っている店も、旅に必要な物資を買わせようと呼び込みをすることもなく、黙ってイリス達を見送るだけだった。


 あまりの違和感に、イリスはたまらず前を行くレオンの袖を引いた。


「……ね、調べてみる?」


 袖を引かれたことでレオンが足を止めてイリスを振り返るが、その眉間には深い皺が刻まれていた。


「いや、俺達は先を急いでいる。それに目立つのも良くない。明日にはすぐにここを発とう」


 職業柄故か本人の気質と言うべきか、困っているかもしれない人々を放っておくことができずにイリスが声をあげるも、レオンはすぐさま首を横に振った。

 正直この町の状態は気にはなるがレオンの言っていることも尤もなので、イリスは渋々ながらそれ以上は口を噤んだ。


 何となく気まずい雰囲気になってしまい、そのまま誰も言葉を発することなく一行は黙って通りを南に進む。今晩の宿と、とりあえず食事ができる処を見つけなければならない。

 周囲に目を向けながら進むと、通りから何軒か奥に入った処に一際大きな建物が建っているのが見えてきた。


 通りがカーブした一本道だった為に町の入り口からは見えなかったのだが、道を進むとその建物の姿がよりはっきりと確認できるようになってくる。

 他の建物と同じ建築様式だが、一際大きな屋敷だ。周囲の家と同じく二階建てではあるものの建物自体が大きく、屋根も大きいため今歩いているメイン通りから中に入った処に建てられているにも関わらず、この場所からでもその屋根が見えていた。屋根の大きさから察するに、通り沿いに建てられている家の大きさなら優に三軒分はあろうかという大きさだ。

 

 明らかに他とは一線を画す建築物に、一同の足が止まった。


「これは……アウトじゃない?」


 ロイがニヤニヤと笑いながらレオンの顔を覗き込む。その業とらしい仕草に眉を顰めながら、レオンは大きく溜息を吐いた。


「これは、調べないわけにはいかないなぁ」


 いかにも残念だという雰囲気を醸し出しロイが肩を竦めるが、その表情は全く逆で少しも残念さが滲んでいない。寧ろ楽しそうに口角を上げるとイリスに向かって微笑んでいた。

 町の人々が何かしら困っているのであれば力になりたかったイリスとしては、これで調べる口実ができたかたちだ。


「……何がアウトなんだ?」


 後ろから這う這うの体でついて来ていたリュカが斜め前に佇むイリスに訊ねる。今にも途切れそうな意識の中でも、この町の状態が普通でないことは感じていたらしい。

 通りを歩く人々に留意し、イリスは念のためリュカの傍に寄って声を潜めた。


「これだけ統一感のある町並みに整備された歩道なんて、民衆の総意で協力して造られたとは考えにくいでしょう?そこにきてこの大きなお屋敷……。確証は無いけれど、あのお屋敷の主が住民を使役してこの町を造らせたんじゃないかと皆考えてるの」

「……そうか」


 リュカは疲れ切った様子で生返事を返す。そんなリュカの様子に苦笑しながら、イリスはリュカから視線を屋敷に戻した。

 遠目から見ても、明らかにお金の掛かった建物だ。そして通り沿いの家々の統一感と、整然と整備された歩道。それらはとても異質な物に見えた。


 政治の中心である帝都から離れれば離れただけ、往々にして不正や悪事というものは蔓延りやすい。それを防ぐためにも、サンスタシア帝国では領土内の町や村に、定期的に監査や調査の騎士が入って悪事や独裁が横行しないようにしているはずなのだが、このナリシェの町はそうした監査をくぐり抜けているのだろうかという疑問が浮かぶ。


 今までイリスが訪れたことのある町は、もっと自由で活気にあふれ、人々は皆生き生きとしていた。

 だがこのナリシェの町では、皆が視線を伏せ黙って通りを歩いている。

 

 この美しい町並みに反して、人々の表情は暗い。

 町全体が、イリスにはとても歪なものに見えて仕方がなかった。






昨日ふと気付いたら、初めて拙作に評価を頂いておりました!この場をお借りして感謝を述べさせて下さい。評価して下さった方、ありがとうございますっ!!

自分では面白い物を書いているつもりなのですが、独りよがりになっていないか日々不安なので、面白いと思って評価して戴けたことがとても嬉しかったです。

これからも執筆頑張りますので、今後もどうぞよろしくお願いします。

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