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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第三章 歪な町
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四人の食卓 

 それから間もなくして、ロイが直ぐに食べられる物を広場の屋台から大量に購入して戻って来た。

 四人分とはいえあまりにも大量だったために、それらを持ち運ぶために同じ通りの市で籐で編まれた籠も購入したらしい。籠を抱えて帰って来たロイに驚いていたら、背後から呆れ返った声が聴こえた。


「その籠、この後どうするつもりだ?」


 声のした方を振り返ると、通りの真ん中に仁王立ちで眉間に皺を寄せているレオンの姿があった。


「いや、市場の活性化に一役買おうかと?まぁ、邪魔になるまでは持っていればいいんじゃない?」

「もうすでに邪魔だろ」

 

 だがもう購入してしまったものは仕方がない。籠のことは一旦置いておくことにして、一行はレオンが取った宿へと向かった。


 宿は街道沿いに位置しており、人の流れがよく見渡せた。

 一行は先ず、四部屋取ったうちの一つに全員で集まり、食事を摂ることにした。


「一人部屋を四部屋も取ったんだ?」

「二人部屋が空いてなくてな」


 部屋に入るなり開口一番、リュカが疑問に思ったことを口にした。部屋はベッドが一つと書物用の書机と椅子が置かれただけの、簡素な一人部屋だった。

 

「本当は交代で見張りに就くから、一部屋は常に空いていることになるんだがな。だからと言って部屋を取らないわけにもいかないだろ」

「節約にはならないんだなー。仕方が無いけれど」


 ロイが肩を竦めて補足しながら、窓際に置かれた机を部屋の中央に移動させた。位置が決まると、先程買った食べ物を机の上に並べ始める。

 レオンは机と一緒に置かれていた椅子を持ってきて机の近くに置くと、その椅子に腰掛け足を組んだ。

 

「これからの旅では、夜間は必ず見張りを立てることになる。今後は交代で見張り務めることになるから、そのつもりでいろよ」

「え、俺も?」

「当たり前だ」


 レオンに決定事項とばかりに言われてリュカが狼狽える。助けを求めてイリスを見れば、イリスはベッドに腰を下ろしており、手招いてリュカに隣を勧めた。


「リュカが一人で夜間の見張りに就くことはないから安心して。必ず誰かと一緒だから」

「良かった。俺一人だと絶対ドルシグ兵の気配とかに気付かない自信ある」


 例えば野宿で火の番をするとかであればリュカにも務まるが、素人の見張りでは、敵の襲来を察知することは出来ず何の役にも立たないだろう。

 だがどうやらリュカが一人で見張り番をすることはないらしい。安心したところで、リュカは勧められるままベッドに腰を下ろした。


「突然夜間に奇襲を受けることもないわけじゃないからね。いつでも動けるよう身体は慣らしておかないといけないから」

「ああ、なるほど」


 夜間の見張りに追加でリュカがいても何の役にも立たないだろうが、そういう理由であれば納得だ。

 敵はいつ襲ってくるか分からないのだ。今この時だって油断はしていられない。リュカは疲労から緩みきっていた気持ちを再び引き締め直した。


「えーっとさ、……僕の席は?」


 見張りの話が終わったところでちょうど机に食事を並べ終わったロイが、ふと周囲を見渡して声を掛けた。


 ベッドが一つしかない一人部屋には、他には簡素な書机と椅子しかない。部屋自体も広くないため四人が入ると満員といった感じだったが、レオンが椅子に座りイリスとリュカがベットに腰を下ろしているので、ロイの座る場所が無かった。


 ロイの言葉で状況を理解したレオンが部屋をぐるりと一周見回し、ロイが立つ足元の床に視線を向けた。


「えぇー……マジで?」

「ははっ、冗談だ」


 がっくりと肩を落とすロイを見てレオンは笑い声を零すと、立ち上がって自身が座っていた椅子を勧める。そして扉を開けて廊下へ出て行ってしまった。


「僕の扱いひどくない?僕が居ないと癒し担当と仲介役とツッコミ不在だよ?」


 ぶつくさと文句を言いながら、ロイは勧められた椅子に腰を下ろした。

 誰も出て行ったレオンを心配しないのでリュカが不思議に思っていると、直ぐに入り口の扉が開いてレオンが戻って来た。その手にはロイが座っているのと同じ椅子が握られている。

 どうやらもう一つの部屋から持ってきたようだ。扉を閉めるなり、レオンはその椅子にどかりと腰を下ろした。


「さて、じゃあまずは腹ごしらえをしよう」


 手を合わせ、皆で食事を始める。テーブルの上は、ハムや玉ねぎなどの野菜を挟んだパンや、塩のみで味付けして豪快に焼き上げた骨付きの鶏肉。よく熟れた丸ごとの野菜や、一目で新鮮と分かるみずみずしい果物などが所狭しと並んでいた。それでもテーブルには乗り切っていないらしく、テーブルの下の籠にはまだ袋に入った食べ物が入っていた。


「この後の予定だが、先にイリス、次にロイ、最後に俺が見張りに就く。明け方までリュカスは仮眠を取れ」

「リュカも見張りに?明日も相当な距離を移動するから、休ませた方がいいんじゃない?」


 焼いた肉をスライスした物や炒めた野菜などが挟んであるパンに手を伸ばしながらレオンが指示を出すと、骨付きの肉に齧り付きながらロイが口を挟んだ。

 ロイの意見にはイリスも賛成だった。今日一日でリュカは大分体力を消耗したはずだ。明日から同じような道程が続くため、体力の回復が最優先だろう。

 しかしレオンは首を横に振った。


「初日だから、今日は見張りを経験させるつもりはない。明け方まで十分に休息を取らせて、早めに起きて剣の稽古を付ける。毎朝同じ時間に行うからそのつもりでいろ」

「ゲボッ、ゴホッ、っ……え、俺?」


 大口を開けて食事を頬張っていたリュカは、突然話を振られて食べていた塊肉をうっかり噛まずに呑み込んでしまい咳き込んだ。


「お前が自分から剣を教えて欲しいって言ったんだろ」


 話しながらもレオンは食べる手を止めない。片手ほどもある大きさのパンは二口でレオンの腹の中に納まっていた。


「いや、そうだけど……いいのか?」


 自分で頼んだこととはいえ、イリス達にとってリュカの剣の指導など余計な負担でしかない。毎日行うつもりでいるなど、正直こんなに快く引き受けてくれるとはリュカは思っていなかったのだ。


「正直、お前一人守りながら旅することはそれほど負担ではないが、不測の事態もあり得る。自分の身ぐらい自分で守れる程度にはなってもらわないとな」

「……」


 事実足手纏いな自覚があるので言い返すことは出来ないが、その言い方にリュカのレオンを見る視線が鋭くなる。

 そんな二人の様子を察して、ロイがまぁまぁ、と両手をあげて二人を制した。


「レオンが言いたいのはさ、俺達が協力するから自分の本懐を遂げられるよう力をつけろよ、ってことだよ」


 そんなことは言っていないんじゃないだろうかとリュカが怪訝な顔でロイを見たが、ロイはニコニコと笑っているだけだ。


「そうは言ってないだろう」

「でも、そういう事でしょ」


 レオン自身もロイの解説に待ったをかけたが、ロイは気にする素振りもなくテーブルから真っ赤な食べ頃の野菜を掴むと口の中に放り込んだ。


(確かに。……俺のため、ではあるよな)


 今日の戦闘を見る限り、イリス達にとってはリュカというお荷物がいたところで大した負担にはならないだろう。それでも、時間を捻出してまで剣の指導をしてくれるのは、リュカのために他ならない。

 そう結論付けると、リュカは真面目な顔でレオンに向き直った。


「申し訳ないが、よろしくお願いします」


 リュカが一堂に向かって深々と頭を下げる。それを見て一瞬驚きの表情を見せたレオンだったが、直ぐにリュカから視線を外した。

 そんな二人をとりなすように、ロイが笑顔で話を纏める。


「はい。じゃあこれからよろしく、ということで」


 ロイはまるで乾杯でもするかのように、手に持った二つ目の骨付き肉を掲げてからその肉に齧り付いた。


 机の上にあれ程乗っていた食べ物はすでに三分の一程に減り、今は机の上を食べた物の残骸が大半を占めている。イリスは書机の横にあったゴミ箱を窓辺から引き寄せると、食べ物が入っていた袋や包み紙などをまとめて捨ててテーブルの上を軽く片付けた。

 するとその空いたスペースに、ロイが机の下に置いていた籠を取り出し食べ物を補充していく。

 イリスは正直もうお腹がいっぱいだったが、リュカは新たに追加されたパンを手に取りながら、ふと疑問に思ったことを訊ねた。


「あのさ、これからもイリスは見張りに就くのか?」


 リュカの質問の意図は、イリスを王女として扱わないのか、ということだろうとその場にいた誰でも分かった。


 今日の戦闘で、イリスはリュカの護衛に回され前線には立たなかった。そのため、王女であるイリスをこれから戦わせたりすることはせずに、要人として扱うのだとリュカは勝手に思っていたのだ。

 だから先程、イリスも夜間の見張りに就くと聞いて少なからず驚いたのだ。明け方まで十分に睡眠時間を貰うリュカの方がよっぽど要人扱いだ。

 

 レオンはリュカに鋭い一瞥をくれるとイリスに視線を移し、真っ直ぐにその瞳を見つめながら告げた。


「俺達はこれからもそういう対応を取るつもりはないし、イリス自身も望んでいない」


 きっぱりと言い切ったレオンの言葉に、イリスは目を見開いて驚きレオンとロイの顔を交互に見た。

 そんなイリスと視線が合うと、レオンは大きく頷き、ロイは優しく目を細める。


「俺達は今も、これからも、サンスタシア帝国の誇るフラッデル隊だろう」

「フラッデル隊は寧ろ、イリス無しでは語れないしね」

「……」


 二人を見るイリスの瞳が僅かに潤む。イリスはそれを悟られないように大仰に笑顔を作って見せ、二人に何かを言おうとして口を開くが、言葉にはならない。


 イリスのそんな様子を見てレオンとロイは目を細めると、話題を変え、何事もなかったかのように二人で今後の進路について話しながら食事を再開した。

 イリスはその隙に袖口でぐいっと目元を拭うと、二人のやり取りを穏やかな表情で見つめながら、二人の話に耳を傾ける。


 リュカはそんな三人の様子に、疎外感を感じて黙り込んだ。


 どうしたって、新参者のリュカが旧知の仲である三人と同じ土俵に立って物事を語ることは出来ない。自身の存在がこの場にはとても不釣り合いな気がして、居たたまれなくなった。


 リュカは手に持っていたパンを潰れる程握りしめていることにも気が付かず、ただ黙っていることしかできなかった。






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