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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第二章 八年前、始まりの日
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閑話 アイザック宛の手紙

今回はアイザックがイリスに過去の話をした後、イリスと別れ騎士団本部に向かう途中のお話です。


 皇帝陛下から、父娘で話をした後は執務室にて今後の方針を話し合うからイリスと共に来るようにと言われた。

 しかし話が必要なのはイリスであって私ではないだろう。必要な資料はすでに陛下に提出してあるため初めから執務室への同行は辞し、イリスと話をした後は騎士団本部へと向かった。


 今後は必ずドルシグ帝国が動き出してくるだろう。

 実際、アンナ宅にはドルシグ兵が差し向けられた。今後はこれまでより多く不穏な動きをするドルシグ兵の姿が確認されるようになるだろう。

 ならば私が今すべきことは、軍総司令官として、そしてイリスの父親として、少しでも多く敵の情報を掴み、一人でも多くの敵を排し、イリスの行く先を出来るだけ安全なものにしてやることだ。


 陛下との話し合い次第ではあるが、自分がウィレンツィア王国の王女かもしれないと知った今、イリスは必ずウィレンツィア王国へと向かうことだろう。その時に一人敵地に送り出す訳にはいかない。情報も戦力も必要になる。


(そうなった場合、真っ先に同行を願い出るのはレオンとロイだろうな)


 レオンに至っては騎士団に入団する前からイリスのことを知っているため、随分と気にかけてくれている。ロイも騎士団に入団当初からレオンと共にイリスの面倒を見、降りかかる火の粉を振り払ってくれていた。

 あの二人ならば真実を知って尚、今までと変わらないかそれ以上にイリスのことを護ってくれることだろう。

 実際陛下も、本人達にその意思があれば二人を護衛としてイリスに同行させるつもりだと言っていた。


 だがそうなると、インペリアルガードのフラッデル隊は全員が不在となるため実質機能しなくなってしまう。

 しかし三人が抜けた穴をどう補填するかの資料は既に提出して採択されているので、後は騎士団にそのことを周知させ警備体制を整えるだけだった。



 城の東側に位置するの騎士団本部に向かうその足は自然と速くなっていた。思っていたよりもイリスとじっくり話をしてしまい、戻るのがだいぶ遅れてしまったのだ。

 城内の回廊を抜けて、城の東側に位置する割とこじんまりとした庭園の小径を足早に進む。ここを通り抜けるのが騎士団本部までの近道なのだ。


 城の顔とも言える正面の庭園はそれこそ対外的に向けて整然と美しく整備され、華々しく色鮮やかな大輪の花や季節の花々が咲き乱れ訪れる人々の目を楽しませている。

 そんな正面の庭園とは違ってこちらの庭園は城の目立たない東側に作られた小さな庭園であり、騎士団本部に用のある者ぐらいしか通らないため大輪の花というよりも小ぶりな花で埋め尽くされ、よく見ると素朴な野の花なども植えられていた。

 おそらくは正面の庭園と趣を変えるためにそういった花々が植えられているのだろう。そのため整えられた正面の庭園とは違って、野花が咲き誇る東側の庭園はどこか温かみのある庭園でもあった。


(来客に向けた表の美しい庭園よりも、私はこの庭の方が好きだがな)


 ふと足元を見ると、昔アンナ宅に居た頃イリスがよく花冠を作っていた白い花が目に入った。花の時期が長く手入れも難しくないその花は、この小さな庭園のいたるところに植えられている。


 この花を見ると、私はいつも花冠を頭に乗せたユリスを思い出した。

 病に苦しみ吐血する姿も何度となく目にしたものだが、私の思い出の中のユリスはいつも笑顔だ。


「……」


 急ぐ足を止めて、静かにその花を見つめる。

 吹き抜けていく風が心地良い。風に合わせて小さな白い花弁が一斉に波打つように揺れていた。

 そんな風に揺れる花々を見ていたら、何故か急いていた気持ちが削がれていた。私は騎士団本部に向かうのを一旦止めると、すぐ先に設置されたベンチに腰を下ろした。

 庭園の中にはいくつかベンチが設置されており、座って花々を眺めたり休憩したりできるようになっているのだが、今まで一度もベンチに腰を下ろしたことなどなかった。けれど何故か今日は、腰を下ろしてみようという気持ちになったのだ。


 ベンチに座ると深く腰を沈め足を投げ出し、空を見上げる。ゆっくりと流れていく雲が、より時間の流れを遅く感じさせていた。


「……まったく、ユリスには敵わないな」


 空に向かって独り言ちる。

 思わず口角が上がる。ユリスを思う時、私はいつも笑顔になるのだ。


 先程、イリスに宛てられた手紙を読んだ時は驚いた。

 ユリスは八年前のあの時点で、何処までを見通していたのだろうか。未来視でも出来たのではないかと疑う程だ。

 そして、いつも迷い間違える私を救いあげてくれる。


 私は八年前のあの時も、これ以上ないくらいの後悔を味わった。ユリスに想いを直接言葉で伝えなかったことを悔やまなかった日はない。

 だから今後は間違えないようにしようと心に刻み込んだ。想っているだけでは自分の気持ちは伝わらないのだということを。後悔しないようにきちんと言葉で伝えなければならないのだということを。


 だが私は先程、再び間違いかけた。世界がイリスに望むだろう答え述べた。……自身の思いは押し殺して。


 そんな私の行動を、まんまとユリスに見破られていた。

 八年も前に今回の事を予想されていたとは、何とも言えない気持ちになる。己が恥ずかしい。

 自分はそんなにも分かりやすい人間だったのだろうかと思わずにはいられなかった。

 

 だが、きっと違うのだろう。

 ユリスが、私という人物をこれ以上ないくらいよく理解してくれていたのだ。


 空から視線を戻し、上着の内ポケットの中に手を入れた。その中から二通の手紙を取り出す。

 一通は八年前のあの時に受け取った手紙だ。この手紙は家に大切に保管しようかと思ったのだが、自分から離れたところに置くことが躊躇われ、あの日以降ずっと肌身離さず持っていた。

 そしてもう一通の手紙に目を向ける。その宛先は『イリスが全てを知った時のアイザックへ』だ。八年前に受け取った、もう一通の未来への手紙だ。


 きっとイリスが真実を知った今が、自分もこの手紙を読む時なのだろう。


 丁寧に封筒を開く。中から見慣れた文字が書かれたノートの切れ端が出てきた。

 ゆっくりと噛みしめるように、その手紙の文面を目で追った。



 手紙を読み終え元通りに大切に封筒にしまう。そして、首に掛かった黒い革紐を服の中から引き出した。

 その革紐の先には、アクリルで出来たペンダントトップが付いている。アクリルの中には押し花の様に緑色をした葉が一つ閉じ込められていた。

 ユリスが八年前、私にくれた三つ葉だ。


『アイザックさんに幸せが訪れるように祈りを込めるから』


 一度だけユリスを連れて家の外に出た時に、そう言ってその場に生えていた三つ葉を摘み取って渡してくれたユリスを思い出す。

 そもそもこういう場合は、中々見つけられない四つ葉を探し出して渡すところだろうに、見つからなかったからとたくさん生えている三つ葉を渡すところがユリスらしい。

 そのくらいユリスにとっては何気ない贈り物だったのだろうが、受け取った時にユリスに言った言葉通り、これは私の中で一生大切にする宝物になっていた。

 帝都に戻ってきてから枯れないように加工してもらって以来、手紙と同じように肌身離さず持っている。


「私はこんなにもたくさんのものを貰ったのに、君には何もあげられなかったな」


 ペンダントトップを掌の中で握りしめる。自身の体温がアクリルに移り、ほんのりと温かい。まるでそれ自体が温もりを発しているようだった。


「……」


 じんわりと伝わる温もりを感じながら、心まで温かくなるのを感じていた。


「私がこんな気持ちになることも、君は八年前にすでに気付いていたんだな」


 何もあげられていないことに変わりはないのに、そうした後悔に対する返答が今手にしている手紙には書かれていた。


 握りしめていたペンダントと手に持っていた手紙を大事に懐にしまうと、腰を下ろしていたベンチから立ち上がり再び騎士団本部へと向かって歩き始めた。もう、一切の迷いは無かった。



 ユリスは、いつも私を救いあげてくれる。そしてユリスを想う時、私はいつも笑顔になった。


 




 私宛の過去から届いた手紙に書かれていた文面の内容は――私とユリスだけの秘密だ。






今回のお話に出てきた三つ葉は、過去回の時に削った、ユリス外に出るの巻のお話で出てくる予定だったものです。

結局第二章が長くなりすぎたので閑話にも載せないことにしたので、そんなやり取りもあったんだなぁと思って読んで下さい。

あと三話ぐらい閑話を入れる予定です。どうぞお付き合い下さい。

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