表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第二章 八年前、始まりの日
33/96

八年前、始まりの日 

今回の話から、過去回(八年前の話)になります。

アイザック(当時はサンスタシア帝国第一騎士団団長)を中心に話が進んでいきます。よろしくお願いします。

◇◇◇   ◇◇◇



 八年前のあの日、アイザックはウィレンツィア王国の王都に居た。

 夕闇に染まる大通りは、帰宅が遅くなって家路を急ぐ子供達、夕飯の買い出しに来た女達、そして仕事を終えてこれから一杯飲もうかという男達で溢れていた。


 サンスタシア帝国の帝都と比べれば規模は小さなものだったが、長閑で落ち着くその雰囲気がアイザックには好ましく映っていた。


 代り映えのない日々を繰り返す人々。この平和な日常が崩れ去るなど、誰一人として微塵も思っていない。人々の顔には笑顔が良く似合っている。

 自分も彼等と同じように、この平和が恒久的に続くと心の底から信じていたい。しかし、そんな夢ばかり見てはいられないこともよく分かっていた。


 このところ北の大国、ドルシグ帝国の動きが不穏なのだ。各国の鉱物資源を買い漁ったかと思えば、自国の鉄工所で何かを大量に造っているらしい。

 ドルシグ帝国の警戒が厳重すぎて、いくら優秀なサンスタシア帝国の諜報員と言えどその工場内で造られている物を目視で確認することは叶わなかったが、どうやら武器を製造しているらしいという事までは突き止めている。

 加えて、ウィレンツィア王国との国境にほど近い所に、軍事演習との名目で兵を集めているとの情報もあがっていた。


 ドルシグ帝国はつい一年前に前皇帝が暗殺され新しく皇帝が即位したばかりだ。

 こうした時は国内が一時混乱に陥ってもおかしくないのだが、新皇帝は国を問題なく治めているようだ。


 だがその新皇帝の手腕は、皇帝を助力している第三皇子の技量故ではないかとの噂だった。

 皇帝の陰に隠れその人物像は定かではないが、統率には一切の無駄がなく、国内を平定した後はこうした軍事面の強化を押し進めている。まるで先の皇帝を亡き者にした後どう動くかについて綿密に計画を練っていたのではと思う程だった。


 そして明後日からは、ここウィレンツィア王国で臨時の国際会議が開かれることになっている。

 昨年行われた定例の国際会議の時にも話題に上がった、フラッデルの使用に関する取り決めが急務と決定したためだ。


 このラプェフェブラ大陸にある五つの国が集まり、決められた年毎に開催される定例の国際会議というものがある。

 その国際会議の目的は、国同士の友好を図ると見せかけた牽制の意味合いが強い。つまりは定期的に集まって、お互いがお互いを見張っているぞ、と釘を刺すのだ。


 その定例の国際会議とは異なり、何か早急に国家間で話し合いが必要だと判断された事柄がある場合、不定期に開催されるのが臨時の国際会議だった。

 

 国際会議は常に平和の象徴たるウィレンツィア王国で開催されるのだが、実は昨年その定例の国際会議が開かれたばかりだ。

 そこで話題にあがったのが、フラッデルの使用についてである。


 千年前の世界大戦の教訓から世界平和条約が制定されているのだが、千年も経つと現状と合わない部分がどうしても出てきてしまう。

 そうした齟齬が生じた場合、臨時の国際会議を経て条約の改定を行うのだ。


 現在条約の「不可侵の掟」「不変の掟」に従い、各国共領土外の開発は行えず、移動も徒歩か馬、馬車のみであるのだが、そこに新たに登場したのがフラッデルだったのだ。

 このフラッデルの扱いをどうするかを話し合うために、此度の臨時の国際会議が開かれることになっている。


(何事も起こらなければいいんだがな……)

 

 今回は臨時の国際会議であるため各国共まだウィレンツィア王国入りはしておらず、明日か当日に到着する予定で日程を組んでいるようなのだが、どうやらウィレンツィア王国に一番近く一番当日の朝に出てきても間に合うであろうドルシグ帝国だけが、すでにウィレンツィア王国の近くまで来ているようなのだ。

 

 そのいよいよ怪しくなってきた動向を受けて、アイザックはサンスタシア帝国の若き皇帝の命を受け、自身が団長を務める第一騎士団の騎士二名と共にウィレンツィア王国内でドルシグ帝国の動きに注視していた。


 軍事力の強化を図っているドルシグ帝国が次にどう動くかなど、火を見るより明らかだ。


(「世界の力」を手に入れて、再び世界大戦を起こすに違いない)


 だからこそ、アイザック達はドルシグ帝国ではなく、ウィレンツィア王国内でその動向を見守るよう命を受けていた。

 

 世界平和条約がある以上、一方的にドルシグ帝国を叩くわけにはいかない。

 そのため、ドルシグ帝国がウィレンツィア王国へ侵攻するという尻尾を出した瞬間に、条約に則りドルシグ帝国を叩く手筈になっているのだ。


 サンスタシア帝国に限らず、オートレア王国、エダルシア王国も同じことを考えているのだろう。この王都や王都にほど近いリリキアの町で、アイザックのような他国からの使者や諜報員だろうと思われる人物に何度か遭遇していた。

 そうした者達は素性を隠していても、日々を平和に過ごす人々と纏う空気が全く異なるので直ぐにそれと分かる。情勢が不安定で緊迫しているだけに、どこか皆、緊張感や警戒心で張り詰めているのだ。


 ドルシグ帝国をこのまま野放しにしていてはいけないという思いは一緒なのだ。ドルシグ帝国が越えてはいけない一線を越える前に、何としても食い止めなければならなかった。

  


 宵闇に乗る風が涼しさを運んでくる。季節が移り替わり、日中はまだまだ汗ばむ気温だが、夕方になると気温が下がり過ごしやすい気候になってきていた。


 アイザックがウィレンツィア王国入りしてから一週間が過ぎようとしている。

 緊迫している情勢とは裏腹に、この一週間何事もなく穏やかな日々だった。


 ドルシグ帝国の動きをウィレンツィア王国側も当然把握しているようなのだが、ウィレンツィア王国の軍事力が圧倒的に低いところがどうしてもアイザックには引っかかっていた。


(臨時の国際会議のために各国の協力を貰っただのなんだの適当な理由をつけて、護りを強化すればいいものを)


 そうは思うが、ウィレンツィア王国が軍事力を持たないのには明確な理由がある。

 平和の象徴たるウィレンツィア王国が、あからさまに軍事力を誇示するわけにはいかないのだ。


(大層ご立派な理念だが、それでは国を守れない。民も国も、それこそ「世界の力」も護ることができなかったらどうするのか)


 それこそ全く同じ話を、アイザックはサンスタシア帝国の宰相であるジェラルドに言い詰めたことがある。

 だが憤るアイザックに、ジェラルドは優しく微笑んで答えた。


『武力に対して武力で対抗したら、何も生まないのだよ』


 ジェラルドが宥めるようにポンポンとアイザックの肩を叩く。両親を早くに亡くしたアイザックにとって、ジェラルドは昔から何かと世話を焼いてくれる存在であり、父の様に慕っていた。


 そのジェラルドが言うのであれば、アイザックは渋々だとしてもその言葉を受け入れるしかない。

 

 ウィレンツィア王国がそういう立場を貫くというのであれば、こちらとしてはやることは一つだ。ドルシグ帝国の動きを探り、動き出した瞬間を狙って叩きのめすだけだ。


 ウィレンツィア王国入りしてから一週間。ドルシグ帝国にまだ動きはない。

 このまま臨時の国際会議が始まっても動きがないようであれば、後を部下に任せアイザックは一旦サンスタシア帝国に戻ることも考え始めていた。

 アイザックは第一騎士団を纏める団長なのだ。長く部隊を放っておくわけにもいかない。


(臨時の国際会議の合間に、帝に現状報告と共にこの考えをご相談しよう)


 臨時の国際会議の間テオドール帝の護衛には、インペリアルガードと第二騎士団が付くことになっている。テオドール帝の護りとその後何か起こった場合の対応は、第二騎士団がいれば初動部隊としては間に合うだろう。

 逆にテオドール帝不在の今、サンスタシア帝国のロードベルク城が狙われた場合や、仮にドルシグ帝国がウィレンツィア王国に攻め入った場合、サンスタシア帝国から援軍を送る指揮を執る人物も必要になる。


(やっぱり俺は一旦、サンスタシアに戻るか)


 考えを巡らせてみるとそれが現状もっとも良い策の様な気がしてきて、アイザックは意気揚々と大通りを抜けて寝泊まりしている宿へと歩みを進めた。


 この一週間、昼夜を問わず部下と交代で、片時も目を離さず王城を見張っている。

 深夜から午前中にかけてがアイザックの見張りの時間だ。見張りの前に仮眠を取っておかなければならない。


 思いつめていた緊張感から何処か解放されたような気分になって、宿へと向かうアイザックの足取りは軽かった。


 しかしそんな思いを打ち砕くかのように、その夜、自身の見張りの時間よりも数刻早く、アイザックは見張りをしていた部下によって叩き起こされたのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ