表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第一章 回り始める運命の歯車
24/96

閑話 エルヴィンの誤算 2

今回の話には人が死ぬ表現、亡くなった人を蔑ろに扱う表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 あれから八年。封印の扉の解析が進み、漸く何か掴めそうだとの報告を受けて久しぶりに気持ちが昂るのを感じた。

 連絡を受けて直ぐに、ウィレンツィアへ向かう。

 常にはドルシグに居て、名目上皇帝に据えている末弟のマーロウの補佐として、実質の実権を握り国を取り仕切っている。ウィレンツィアのことは側近のヘルムートに一任していた。


「ヘルムート、それで?」

 

 ウィレンツィアの王城に入るなり、出迎えたヘルムートに尋ねる。八年ぶりの朗報に気分が高揚していた。


 問いかけに対してヘルムートは僅かばかり視線を外し、何かを気にする素振りを見せる。その意図を察して、無言のままウィレンツィア滞在時に執務室として使っている部屋へと足を向けた。

 ヘルムートが視線を向けた先には、自分達を革命軍と称する奴等のままごとみたいな盗聴器があるのだ。

 

(そんな物でどんな情報が得られるというのか、全くもって阿呆だな)


 革命軍の構成人数やそこに身を置く人物など一応調べさせたが、八年前の生き残りの騎士が数名在籍している程度で、その他の殆どが歯牙にもかけるまでもないただの王国の民だった。そんな剣も振れないようなお子様集団が革命軍を名乗りままごと遊びのような情報収集をしているのだ。


(片腹痛いとは、正にこのことだな)


 だが革命軍の仕掛けた盗聴器は意外にもあらゆる場所に設置されており、城内で先代国王の世話をさせている者が革命軍に協力していることは明らかだった。


(まぁ、そんな物いくら仕掛けられたとて、痛くも痒くもないがな)


 革命軍も城内の協力者も、殺すのは簡単だ。だがそれを実行し思わぬところで他国にそれが知られでもしたら面倒なことになる。条約に抵触するだのなんだの言いがかりをつけて、今度こそ他三国が一斉に攻め入ってくるだろう。

 それはそれで面白いとも思うが、現段階では些か分が悪い。その現状を覆す為にも『世界の力』が必要だった。


 執務室に入って扉を閉めると、上向きに人差し指をくいっと動かした。意図を察したヘルムートが耳元に顔を寄せ、小声で報告をする。


「生きている王族が、もう一人いるようです」


 簡潔に述べられたその言葉に、一瞬目を見開いて吃驚する。

 あの日、王城にいた王族は先代国王を除いて全員殺したはずだった。


(……いや。確実にこの手で殺したのは、国王夫妻と双子の片割れだけか)


 一つ一つ記憶を辿り、その事実に行き当たる。

 自らの手で確実にとどめを刺したのは、国王夫妻と双子の片割れだけだった。



 あの日は時間がなかったのだ。事を起こした以上、性急に先代国王からの声明を発表しドルシグの正当性を各国に知らしめる必要があった。双子のうち一人は確実に殺したが、見つけられなかったもう一人を見つけ出して自らの手で殺すまでの余裕がなかったのだ。だから兵士達に、双子の片割れを見つけて殺し次第報告するよう命令していた。


 兵士達からは間もなく王女を殺したとの連絡が入る。今思えば、それを信じたのが間違いだったのだろう。

 誰がどうやってとどめを刺したのかまで確認すべきだったのだ。

 兵士達はおそらく、王女の死体が転がっているのを見て、誰かが殺したのだろうと誤認したのだ。

 あの日は殺し過ぎて城内の至る所に死体が転がっており、王族の部屋の前など足の踏み場もないくらいだった。だから早急に死体を処分すべく火をつけて燃やすよう指示を出していた。それも良くなかったのだろう。

 兵士達は、先に殺した双子の片割れの死体はもう燃やされており、ここに転がっている死体がもう片方の王女だと思ったのだろう。

 あの日は皆感情が昂っており、自分も含め誰もが物事を冷静に考えられなくなっていたのだ。

 


 だが今となっては王族が生き延びていることは朗報でしかない。先代国王で封印の扉が開かないのならば、別の奴で試してみるだけだ。


 思考を巡らせ結論を導き出した後、入ったばかりの執務室をすぐさま出る。当然のようにヘルムートもそれに続いた。

 ある程度歩き目的の場所まで来ると、ヘルムートに軽く片手を挙げて合図を送ってから普段通りの声量で話し始める。

 

「それで、何が分かったのかと聞いている」


 先程と同じ質問を声を潜めずに言ったことで、この場所に設置されている革命軍の盗聴器にわざと聞かせても良い話だと分かったのだろう。ヘルムートも声の大きさを戻し、わざと説明口調で話し始めた。


「封印の扉を調べていて、別の生体情報が確認されました。先代国王以外に、まだ生きている王族がいると思われます」

「あの日の生き残りがいるという事か?誰が生きている」


 少しわざとらしかったかと自分で失笑する。生きているのは王女と分かっていて話しているのだから仕方がない。

 しかしその予想に反し、ヘルムートは曖昧に答えた。


「生きているのは、王子か王女のどちらかです」

「……何故どちらか分からない」

「王子と王女が一卵性の双子のためです。生体情報が似通っていて、まだ確定はできないと報告がありました。ですが、それは時間の問題でしょう。いくら双子といえど、男と女では遺伝子自体が違うのですから」


 言われて、そうだろうなと納得する。直にそれは判明するだろう。

 それに、解析の結果を待たずとも答えは出ている。あの時自らの手で、確実に王子の方を殺したのだ。


(いや、本当に王子だっただろうか……)


 兵士達が殺したのは王女だと報告してきたので、自分が殺したのは王子だとそう思っているだけかもしれない。

 途端に、八年前のあの日の記憶が鮮明に脳裏に思い浮かぶ。



 国王夫妻を手に掛けた後、その足で双子の自室に向かった。調べていた王女の部屋に踏み入ると、そこにその子供は居たのだ。

 シャツにズボンといった簡素な姿。寝巻から急いで着替えたのだろう、シャツのボタンが最後まで閉まっていない。そして床には、正面に居る子供と同じ琥珀色の、切られた髪の毛が散乱していた。


『こんばんは王子様。いや、王女様かな』


 切られた髪の毛は王女の物だろう。双子だからとこちらの目を欺く為に切ったのだろうが、この場合は愚策といえた。

 万が一この状況から逃げ延びた場合、王女より王子の方が将来的にドルシグの邪魔になる可能性がある。女では戦えない、政治が出来ない、脅威にはなり得ないからだ。だから今回の場合は王女が髪を切るより、王子が短い髪の毛を布などで隠して、王女の振りをして逃げるのが正解だった。

 所詮は子供だな、と思っていると、目の前の子供は腰に差した鞘から剣を抜いて構えた。


 剣を握る手が震えている。しかしその翡翠色の瞳に怯えは無く、真っ直ぐにこちらを睨み付けていた。


『……おもしろい』


 俺は喉の奥でクツクツと笑いながら、握っていた剣を一振りして構えた。


 勝負はあっけなかった。この対格差だけでも無理があるのに、実力差は否めない。虫けらを殺すように、その小さな身体に容赦なく剣を突き立てた。

 王子は最後までその目に恐怖を宿すことなく、切られてからも大声で泣き叫ぶことなどしなかった。一介の兵より余程戦うこと、死ぬことへの心構えがあったなと思いながら、王女の部屋を後にする。

 次に隣の王子の部屋を覗いたが、そこはすでにもぬけの殻だった。仕方がなく先代国王の下へと急ぐ。


 先代国王を使って各国を牽制してから、後はゆっくりと封印を解くのだ。

 『世界の力』までもう少しだと思うと、いつになく気持ちが急いていた。


 しかし、事はそうは上手く運ばなかったのだ。



 おそらくあの時、兵士達は床に散らばる髪の毛とそこに転がる双子の片割れの死体を見て、王女だと思い込み報告をしてきたのだろう。わざわざ死体の服を脱がせて性別を確認したりはしない。

 自分も、剣で歯向かってきた姿に王子だろうと決めつけていたために、兵士達からの報告を特に疑問にも思わなかった。


(……まぁ、どっちでもいいがな)


 生きているのであれば王子だろうが王女だろうがどちらでも構わない。あの時逃げ遂せたお陰で封印の扉を開けることができるかもしれないのだ。

 

(だが、生きているのが王子だったら、少々厄介かもしれないな)


 僅かに懸念が浮かぶが、すぐさま首を軽く振って否定する。所詮は弱小国の元王子、軍事大国であるドルシグに対抗できるだけの力をつけられるとは思えなかった。


 しかしウィレンツィア王国や革命軍にとっては、生きている王族がいるというのは朗報だろう。

 そんな情報をわざわざ親切に盗聴器に流すことを疑問に思ったようで、先程からヘルムートは思案顔だ。

 再び歩き出し盗聴器から距離を取ると、先程と同じように無言で指を動かしヘルムートを近くに来させた。


「その生き残り探し、他国内をドルシグが動くと目立つ。ならば、革命軍に探してもらおうではないか」


 話を聞いて得心がいったヘルムートは、次の行動に移るべく一礼をして下がっていった。

 

 誰もいなくなった回廊に佇み、窓の外へ視線を向ける。

 今まで何の変哲もなくただそこに存在するだけだった世界が、急に色付いて見えるようだった。


「漸く面白くなってきたじゃないか」


 静寂に包まれていた回廊内に、高らかな笑い声が響き渡っていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ