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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第一章 回り始める運命の歯車
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カイン

 とりあえず気持ちを持ち直したイリスは無線でカイン発見の一報をレオンとロイに伝えると、自身も噴水の前で再会を喜び合っている二人に歩み寄った。


 リュカを見て顔を綻ばせていたカインは近付いてくるイリスの姿を視界の端に捉えると、こちらに視線を向けて声を掛けてきた。


「サンスタシア帝国の騎士さんだね。一緒に来たってことはリュカを助けてくれたんでしょう?本当にありがとう」


 弾けるような笑顔と共にお礼を言われて頭を下げられる。先程から困惑しきりのイリスも、それにつられてとりあえず曖昧な笑顔を返した。


 イリスは今、必死に頭の中を整理していた。


(さっき、レオンとロイと三人で出した結論はおそらく間違っていないはず……)


 エルヴィン皇子が追っていた人物はカインで間違いないだろう。

 しかし、目の前の人物を見ているとそれも自信が無くなってくる。


(何か、間違っていたのかしら?)


 とりあえず、リュカの連れであるカインを保護できたことは間違いない。イリス達の任務は二人を無事に保護し城に連れて戻ることであり、それが全てだ。

 気を取り直してそう結論付けた時、後ろからイリスを呼ぶ声が聞こえた。


「イリース!」


 振り返ると、人混みの向こうから息を弾ませながら走ってこちらに向かってくるロイの姿が見えた。

 笑顔でこちらに手を振っていたが、視線がリュカの前に座っている人物を捉えると、さっきまでの笑顔から表情は一変しあっという間に眉間に皺が寄った。


 イリスはどう声をかけていいか分からず、曖昧に微笑んでロイを迎える。

 ロイは走っている速度を徐々に緩めイリスの隣まで来ると立ち止まり、イリスとカインの顔を交互に何度も見返した。

 その行動でロイが何を言わんとしているのかを察して、イリスはゆっくりと頷きを返す。


「……え?」


 イリスの承認を得ても信じられないようで、ロイが驚愕の表情でカインを見つめていた。

 そうこうしているうちに、レオンも噴水広場に合流する。


「……は?」


 先程のロイと全く同じ反応をしているのを見て、イリスは苦笑するしかない。

 暫く時間を要したが、やがてすべてを理解したレオンは一つ大きく溜息を吐いた。


「リュカス、ちょっと来い」


 突然呼ばれて何事かと思いながらも、リュカはカインの傍から離れレオンの前に移動する。

 不思議そうな顔をするリュカに益々怒りが込み上げてきて、気付くとレオンはリュカの頭を叩いていた。


「ってぇ!何すんだよ!!」


 頭を両手で押さえながら一歩後退し、レオンとの間に距離を取りながらリュカが声を上げる。


(まぁ、気持ちは分からなくもないけど)


 正直に言うとイリスも同じ気持ちのため、レオンの暴走を止めずに静観してしまっていた。だがそれは、レオンが思い切り叩いていないことが分かっていたからでもある。レオンが本気で殴っていたのならば、リュカの身体は後方に吹っ飛んでいたことだろう。


 そういうわけでイリスが止めずにいたために、今度はリュカの逆隣にいたロイも、満面の笑顔を浮かべながらまだ頭を押さえているリュカの無防備な腹に拳を突き入れていた。

  

「ってぇ!だから何なんだよ!いったい!!」


 ロイの動作は大きかったが実際の痛みはさほど無かったようだ。リュカも未だレオンに殴られた頭の方を押さえている。

 殴ってやりたいぐらいの気持ちだ、と伝えるためのパフォーマンスだったのだろう。実にロイらしいとイリスは思った。


「ごめんリュカ、私だって二人と同じ気持ちだよ。まさか、カインがこういう人物だったとは想像できなかった」


 頭を押さえて苦しむリュカを見ながら、イリスも呆れながら告げた。


「は?何が?」

 

 カインを振り返りながら心底分からないという顔をしたリュカを見て、レオンとロイが続けた。


「一番大事な情報が無い」

「それで探し出して見つけろって方が無理だよ」


 そうした一連のやり取りを目の当たりにして、今まで黙っていたカインがポンッと胸の前で両手を合わせた。


「ごめんなさい、リュカが迷惑かけたみたいで。大体分かったけど、僕がこんなだって知らないで探してくれていたってことでしょう?さっきからお兄さん達、ここを行ったり来たりしてたもんね」

「いや、別に……」


 謝罪のために深々と頭を下げるカインを目にし、レオンとロイは視線を逸らし口籠ってしまう。

 こんな見た目をされていると、正論を言っただけなのに謝らせたこちらが悪者のような気分になってしまうのだ。


 噴水の淵に腰掛けていたカインはトンっとジャンプするようにして地面に降り立つと、イリス、レオン、ロイを見上げて微笑んだ。


「改めまして、僕はカイン。歳は十歳だよ」


 よろしくね、と子供らしい満面の笑顔を見せるカイン。

 レオンとロイはそれ以上リュカを責めることができず、カインに対して笑顔を返すしかなかった。




 ◇◇◇   ◇◇◇




 一行はすぐに城に戻ろうとしたのだが、時刻は昼時。安全面を最優先するならすぐに帰還するのが最良ではあったが、リュカもカインも昨晩からドルシグ帝国軍に追われる身となり寝食どころではなかったので、休憩もかねて昼食をとってから城に戻ることになった。

 

 イリスがサンドイッチなど簡単に食べられる軽食を周囲の店から買ってきたので、リュカとカインは噴水の淵に腰を下ろしやっとゆっくりと落ち着くことが出来た。


「やっぱり!僕の歳を言わなかったんだ。それじゃあ分かるわけないよね」

「……十代っては言った」


 サンドイッチ片手にふくれっ面のリュカにも言い分はあるようだ。どうやらカインが、十歳を超えているか超えていないかで悩んだので、年齢を言う時に言い淀んだらしい。

 そんな二人の会話を聴きながら、イリス達三人は立ったままあっという間にサンドイッチを口に放り込むと咀嚼し呑み込んでしまった。


「なんか落ち着かないからさ、イリス達も座ったら?」


 白い軍服の騎士に囲まれながら食事をするのが落ち着かないのだろう。リュカが座っている噴水の淵の隣を勧めてきた。だがその誘いに答えたのは立っていた三人ではなく、リュカの隣に座るカインだった。


「無理だよリュカ。僕たちドルシグに追われていたんだよ?もういないにしても警戒はしておかないと」


 サンドイッチを美味しそうに頬張る姿は年相応の子供そのものなのに、口から発せられる内容はそれとは全く似つかわしくない。


「カインは昨夜リュカスと別れてから、どうやって過ごしていたんだ?」


 西方向を警戒していたレオンがカインを振り返る。


「え?ああ、夜はずっと宿に居たよ。子供が一人で外にいる方が怪しまれるからね」


 「外は暗いし怖いしね」とあっけらかんと続ける。次々に浮かび上がる疑問を押さえきれず、ロイが会話を引き継いだ。


「でも昨晩、リュカを追う前にドルシグもヴェントの町に来ただろう?宿屋も調べに来たんじゃないのかい?見つからなかったの?」

 

 あのドルシグ帝国なのだ、おそらく革命軍の存在も行動も筒抜けだろう。散会した革命軍が、何処に何人向かっているかまで把握している可能性もある。リュカがカインを連れてサンスタシア帝国に向かっているという情報ですら、掴まれていたかもしれない。

 何故、カインは無事だったのだろうか。


「それは僕も絶対来るって思ったから、とりあえずリュカを送り出した後、宿屋の自分の部屋の窓を開けてから、僕も玄関から出たんだ。『二人で一旦出掛ける』って伝えてね」

 

 カインは淡々と、何でもないことの様に答える。


「宿屋の主人に外に二人で出たと印象付けておけば、ドルシグ兵が訪ねて来ても『二人組は部屋を取ったけど、外出してる』って伝えてくれるでしょう?で、その後僕は外から開けていた窓を使ってもう一回部屋に入ったんだよ。一階だったから出来たけどね。後は念のため灯りとか消して、ベッドの下に身を潜めていたよ」

「……それで、ドルシグ兵は来たの?」

「来たんじゃないかな。日付も変わって真夜中に宿屋の主人を起こす騒がしい声が玄関から聞こえていたから」


 イリスの問いに、「部屋までは来なかったよ」とカインが続ける。

 ドルシグ帝国の間諜はありとあらゆる場所に潜んでいると言われている。追っていたドルシグ兵にもリュカが東に逃げている情報は入っただろう。そのためか宿はそれほど捜索されなかったようだ。


「朝も窓から街道を見張ってたんだ。ドルシグ兵の姿は見かけないけど、お兄さん達が行ったり来たりしているのを見て、今ならドルシグ兵が来ても助けてもらえるかもしれないと思って、一番目立つ所でリュカを待ってたんだ」


 カインは「ここだね」と満面の笑みで答えた。

 驚き過ぎて二の句が継げないでいた三人だったが、なんとかロイが言葉を絞り出した。


「最悪の場合、リュカが追い付かれて殺されるかもしれないとは思わなかったの?」


 今の話しぶりだと、カインはリュカの無事を確信して目立つ場所で待っていたことになる。

 だがカインは、当然とばかりに首を振った。


「いや、それは無いよ。お兄さん達も気付いてるんでしょう?ドルシグ帝国は目的があって、僕達を追って来た。なら、殺すわけないじゃない。目的の人物がリュカでなかったとして、リュカを人質にするとか色々利用できるもの」


 この子供はどこまで分かっていて何を言っているのだろう。いや、言っている内容は分かる。だがしかし、そんな内容を口にするカインという人物が分からなくなって三人共押し黙ってしまった。


 暫く沈黙が流れた後、レオンが真っ直ぐにカインを見つめて訊ねた。


「つまりお前は、自分こそがドルシグ帝国が追ってきた目的だと知っていて、リュカスを囮に使ったということか?」


 レオンの一切包み隠さない物言いに、カインは少し肩を揺らして動揺を見せた。リュカはというと、予想もしなかった話が出てきて目を見開いてカインを見ている。

 そんなリュカに向かって、カインは肩を竦めると申し訳なさそうに手を合わせた。


「結果としてはそうなったけど、仕方がないでしょう?僕の足ではサンスタシア帝国に助けを求める前に捕まってしまう。リュカ一人なら辿り着ける可能性が高い。しかも僕はドルシグ帝国から見たらただの子供。リュカは捕まっても殺されない。なら……取るべき選択肢は一つじゃない?」


 悪戯っぽく笑いながら、カインが「ごめんね」とリュカに謝る。

 カインのそんな様子を目の当たりにして、三人は驚きを隠せず黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。


 


 


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