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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第五章 空を統べる者
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再会

 イリスが首を捻っているうちに森の中からは、エダルシア王国騎士団特有の青色の騎士服を身に纏った男達が現れた。


 この開けた場所には敵味方合わせて五十人くらいの男達がいるが、その半数以上がエイデン・バーレルの部下であり海賊達はもれなく深い傷を負って地面に伏していた。だがアレクの仲間達は皆手負いではあるものの、傷口を押さえたり地面にしゃがみ込んだりしているが命に別状はなさそうだった。

 到着するなり目にしたのがこの惨状だったので、エダルシア王国騎士団の面々は驚いている様子だったが、先頭に立っていた上官らしき騎士が周囲の状況を確認すると迅速に指示を飛ばし始めた。指示を受けて、部下と思しき騎士達もすぐさま動き始める。


 周囲の状況を確認していた上官らしき騎士がこちらを見た時、この場にアレクの姿があることに気付いたようだ。男はこちらに向かって歩み寄って来た。


「よう隊長さん。ちょっと遅かったんじゃないか?」

「いや、遅いと言われても。海賊共の動きを掴んですぐに来たんだが、……この有様は一体……」


 隊長と呼ばれた四十代くらいの男性とアレクはどうやら見知った仲のようだ。

 苦言を呈しているアレクだが、どうやら会話から察するにエダルシア王国軍としてはこれでも急いで駆けつけてくれたのだろう。


「俺達がこの場所で待機していたから対処できたものの、そうじゃなかったらどうなっていたか……」

「いや、だからすぐに来たんだが。……それで、どうして……っ!」


 アレクと会話をしながらも周囲を見回していた隊長が、ふとアレクの後ろに目を遣るとそこにいたイリスと目が合った。そしてイリスを見るなり、隊長は驚愕の表情で目を見開いた。あまりに目を見開くものだから、本当に目玉が零れ落ちるんじゃないかとイリスは思ったぐらいだ。

 だが隊長の反応も仕方がないだろう。イリスは依然、フラッデルでエイデン・バーレルを踏みつけその肩に剣を突き刺しているのだ。そんな顔にもなるというものだ。


 隊長の視線を辿ってイリスの存在に気付いたことを察したアレクは、まるで自分の手柄かのように誇らしげに言い放った。


「ああ、この坊主が加勢に来てくれたから俺達は助かったんだよ。いや、マジでお前凄ぇな……っと、名前をまだ聞いていなかったな。何て言うんだ?」

「あ、私は……」


 イリスが口を開こうとしたその時、隊長は焦った様子でこちらに駆け寄るとその勢いのままイリスの手を両手で握った。


「イリスさん?!貴方、サンスタシア帝国の騎士であるイリス・ウェリールさんじゃないですかっ!!」


 四十過ぎであろう大の大人にキラキラと眩しいくらいの視線を向けられて、イリスは若干目を背けながら小さく頷いた。


「あ、……はい」

「ああ、やっぱり!!では、この状況はやはり貴方がっ!!」

「……えぇ、何?この坊主って有名人なの?」


 隊長が羨望の眼差しでイリスを熱く見つめる。その豹変ぶりに若干アレクが引いていると、イリスの手を取っていた隊長はアレクを振り返って猛然と抗議した。


「有名も何も!というかイリスさんは女性だぞっ!口を慎め!謝罪しろっ!!」

「え、えぇ……。……っていうかお前女なの?!マジかよ。見えな、っ痛ぇ!」


 隊長の圧に押され気味のアレクが、イリスが女性だと知って吃驚する。イリスの戦闘を見ると大体の人はイリスのことを男だと勘違いするので、いつも通りの反応だとイリスが傍観していると、イリスをまじまじと眺めていたアレクの頭を隊長が拳骨で殴った。

 突然の蛮行に対応できず一撃をまともに食らったアレクが隊長を睨むも、隊長はそれよりも鋭い視線で射殺さんばかりにアレクを睨み返していた。


「黙れ、お前もこいつ等と一緒に切り伏せてやろうか!」


 隊長が鞘から剣を引き抜いて一振りし、周囲を指し示す。

 最早、民を護るべき騎士が一般民に対してやって良い言動ではなくイリスは遠い目をしていたが、その行為に猛然とアレクは抗議した。


「って言うか、お前等間に合ってなくて誰一人切ってないだろ!寧ろこいつがいなかったら俺達全滅だったんだからな?俺達にも遅れたことを謝罪して欲しいくらいだよっ!」


 アレクが負けじと捲し立てるが、隊長はそれを鼻で嘲笑った。


「黙れ、お前はその目でイリスさんの戦闘を見たんだろ。羨ましいっ!俺も見てみたかった!」

「……ははは」


 最早論点がズレてきているが、隊長の熱量はとどまることを知らない。イリスは諦めたように乾いた笑いを溢した。


「隊長、あの、他全員縛り終わりましたので、こちらも確保して構いませんか?」


 気付くとイリスのすぐ傍に若いエダルシア王国の騎士が数人やってきていて、そのうちの一人が遠慮がちに隊長に向かって訊ねていた。

 その言葉にイリスが周囲を見回せば、怪我をしたアレクの部下達は救護班らしき騎士達によって治療を施されており、イリス達が切り伏せた海賊達はすでに縄で縛りあげられて一箇所に集められていた。残すはイリスの下にいるエイデン・バーレルのみという状況だ。


「ああ、頼む。イリスさん、ちょっとそこを退けて頂けますか?」

「あ、はい、すみません。よろしくお願いします」

 

 隊長の言葉に、イリスはバーレルの肩に刺した剣を引き抜くとその上から降りてフラッデルを背負った。

 バーレルはすでに気を失っていたようで、剣を抜いた時に呻き声をあげたが意識は戻らなかった。

 エダルシア王国の騎士達は剣を抜いたことで開いた傷口を押さえて止血したり、縄で後ろ手に縛ったりしながらその身柄を拘束すると、他の海賊を集めている場所へと運んでいった。流れるような素早い連携作業だった。


「エダルシア王国としても海賊の殲滅に尽力してはいたのですが、なかなか思うような結果が出ておらず……。ですが今回、エイデン・バーレルを捕らえたことでかなり他の海賊共の抑止に繋がるでしょう。イリスさんの貢献に感謝いたします」

「いえっ、そんな……」


 先程までのちょっとふざけているのかと思うような態度を一変させ、隊長がイリスに向かって深々と頭を下げる。慌ててイリスは両手を振りながらその言葉を否定した。


「待てまてっ!俺だって助けて貰っておいて礼がまだなんだ。先を越すなよ」

「フンッ、知るか。真っ先にお礼を述べていないからこうなるんだ。……ではイリスさん、まだまだ話は尽きないのですが、一旦失礼いたします」

「あっ、はい。ありがとうございました」


 捕らえた海賊共の移送など今後の対応があるのだろう。イリスにもう一度深々と礼をとると、隊長はその場を離れて行った。

 

「……さて、邪魔者がいなくなったところで。本当にありがとうな。お前のお陰で、怪我はしたものの仲間達は無事だ。ありがとう」


 アレクが右手を差し出しながらイリスに微笑む。それに対して、イリスも微笑みながらその手を取った。


「私は、」

「姉ちゃーん!」

 

 イリスが口を開きかけたその時、遥か向こうからこちらに向かって走り寄ってくる少年の姿を視界に捉えて思わずイリスは固まってしまった。


「?」


 明らかに場違いな子供の声がして、アレクが声がした方向を振り返る。

 そしてその目がソルの姿を捕らえた時、アレクの動きも止まった。


「ソル……」


 思わず零れた呟きがどんな感情を孕んでいるのか、イリスには推し量ることさえ難しかった。

 それが八年という歳月を離れて過ごしていた二人の、初めての親子の対面だった。






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