表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第五章 空を統べる者
124/125

決着

 白髪金目の大男は攻撃を仕掛けてくる様子もなく、相変わらずニタニタと嫌な笑いを浮かべながらアレクを見下している。おそらくこちらの出方を窺っているのだろう。

 だがそれはアレクを警戒してのことではない。アレクは本来商人であり、護身のためにある程度の剣術は身につけているがその程度の力量しかなく、相手とやり合える程剣の腕前がある訳ではない。相手もそれが分かっているからこそ、アレクで遊んでいるのだろう。

 

(さて、どうするかな)


 アレクは長剣を握る手に力を込めながら、バーレルに隙を与えないように睨み続ける。

 だが相手は海賊、しかも、エダルシア王国の海域で最も幅を利かせている海賊の船長だ。騎士のように正攻法だけで攻撃してくるわけではなく、あらゆる卑怯な手段を使ってでも勝利をものにする連中だ。本来ならアレクが戦える相手ではない。だが――。


「俺にはっ、引けない理由があるんだよっ!」


 攻撃を仕掛けられてからでは防戦一方になることは目に見えている。アレクは槍で突くかのように剣を真っ直ぐに相手に向けたままバーレルに向かって突っ込んだ。


「ははっ!格好の的だなっ!」


 己より小さな身体を更に低くして突っ込んでくるのを見たバーレルが、嗤いながら湾刀を上から振り下ろす。それをアレクは、間一髪横に避けて躱した。


(あ、ぶねぇっ!)


 一直線に向かって行く自分に向けて剣は真っ直ぐに振り下ろされるだろうと読んでいたから躱せたようなもので、そもそもの攻撃速度が速く避けられたのは本当にギリギリのタイミングだった。

 だが攻撃を避けて終わりではない。アレクは横に避けたことで傾いた体勢のまま、剣先を少しだけ下に向けるとバーレル目掛けて振り上げた。


「っ!危ねぇじゃねえかっ!」


 意表を突き下から振り上げられた剣を、バーレルは素早く一歩後退して躱す。アレクは剣を振り上げた勢いのまま、後ろ向きで地面に転がった。


(ちっ!掠りもしなかったか。やっぱりあいつのようにはいかないかっ)


 転がった先で、直ぐ様身体を起こしバーレルを睨み付ける。二人の距離は少し離れ再び間合いの外になっていた。

 

「会頭っ!」

「加勢いたしますっ!」

「お前達、無事かっ?!」


 顔はバーレルに向けたまま、視線だけでちらりと状況を確認する。後ろを見れば、腕や足を切られ血を流し手負いではあるが、仲間達が駆けつけてきていた。

 更に奥を見遣れば、地面には夥しい数のバーレルの部下である船員たちが呻き声をあげながら転がっている。アレクの仲間が倒した者もいなくはないだろうが、その殆どはこの一瞬の間にイリスが切り伏せた者達だろう。


「あーあ、派手にやってくれたなぁ!」


 アレクの元に仲間が駆けつけたのを見て、バーレルも周囲の状況を確認する。

 先程までそこかしこで打ち合いが繰り広げられていたにもかかわらず、今は全く剣戟の音は聴こえてこない。アレクの仲間達の三倍はいたであろうバーレルの部下のその殆どが、地面に伏していたのだ。

 その状況を確認し怒りが頂点に達したのだろう。バーレルから発せられた怒りに満ちた低音が、周囲の木々の葉を揺らさんばかりに響き渡った。

 

 バーレルは肩に担いだ湾刀の峰で自身の肩を何度か叩くと、怒りのままに湾刀を地面に叩きつけた。


「てめぇら、皆殺しにしてやるッ!!」


 憤怒の形相でこちらを睨み付けるその様に恐れ戦き、後ろにいた仲間達が一歩後退る。だがそれを逃すまいと、バーレルは猛然とアレク達に突っ込んできた。


「お前等っ、逃げ、っ!!」


 アレクが指示を出す間もなく、バーレルの一撃が振り下ろされる。それを間一髪アレクが剣で受け止めるも、怒りで我を忘れている一撃の重みは先程の比ではない。そのまま剣を振り下ろされそうになった時、左右からアレクの仲間達がバーレルに襲い掛かった。


「くらえっ!」

「お前等っ!やめっ、!!」


 アレクの制止も間に合わず、アレクを助けようと左右から仲間たちが攻撃を仕掛ける。

 だが複数人相手でもバーレルは何ら動じる様子もなく、アレクに向かって振り下ろしていた湾刀で一方の攻撃を跳ね返すと、腰に差していた短剣を引き抜いて反対側からの攻撃を受け止めた。

 そしてそのまま湾刀で、短剣を受け止めるので精一杯の仲間に切りかかろうと襲い掛かる。それらの状況を一瞬呆けたように眺めてしまっていたアレクは、我に返ると今まさに仲間に向かって振り下ろされようとしている湾刀を再び剣で受け止めた。


 ガキィィン、キィィン、と金属同士がぶつかり合う高い音が辺りに響き渡る。

 バーレルは三対一をものともせず、アレク達が何とか交互に繰り出す攻撃を何でもないと言わんばかりに受け止めていく。三対一であるにも関わらず押されているのはアレク達の方で、バーレルの攻撃によって徐々に後退させられていた。 

 

「ぐぁっ!」

「がはっ!!」

「っ!大丈夫かっ!」


 押されているうちに、バーレルの一撃が部下の足を切り付けた。続けてもう一人も短剣を受け止めた際に腹を蹴られて身体が後方に吹っ飛ぶ。

 アレクが膝を付いた仲間の前に入り咄嗟に次の攻撃を受け止めたのだが、次の瞬間バーレルが左手で持っていた短剣を振り下ろしてくるのが見えた。


(これまでかっ)


 アレクが死を覚悟したその瞬間、それは起こった。


「!!」


 一陣の風が、アレクの前を吹き抜けた。

 それは本当に、突風が吹き抜けたようにしか感じなかったのだ。


 バーレル以外の敵を薙ぎ払い終えたイリスが顔を上げたまさにその時、アレクに向かってバーレルが短剣を振り下ろしていた。

 イリスは真横から猛然とフラッデルで突っ込むと、アレクに向かって振り下ろされようとしている短剣と受け止めている湾刀の両方を自身の剣を一振りして弾き返した。

 横からきた突然の衝撃に、バーレルの剣のみならずアレクの剣も宙を舞う。その軌道に視線を奪われ吹き抜けていった風の方角をアレクが見遣れば、宙を舞っていた剣が地面に突き刺さったその先で、地面に手を付いて横回転したかと思うと体勢を立て直し、こちらに向かって剣を構えるイリスがいた。


「お、のれぇぇぇ!!」


 怒りで我を忘れ素手でイリスに向かって行ったバーレルは、途中で地面に突き刺さっていた自身の湾刀を手にして猛然とイリスに切りかかった。

 

「おいっ、危なっ!!」


 アレクが思わず声をあげてしまうのも無理はなかった。男である自分でも受け止めるだけで精一杯だったバーレルの一撃を、イリスの細腕で受け止められるとは思わなかったからだ。

 だがイリスは慌てた様子もなく、自身に向かって猛然と突き進んでくる男を真っ直ぐに見据え剣を構えたままだ。フラッデルすら起動させておらず、アレクはどうするつもりなのかと焦った。


 先程までの戦いを見るに、こういった場合イリスは自分からフラッデルで突っ込んでいっていた。速度を利用して相手を上回り、予想外の攻撃で相手を圧倒していたのだ。だが今は、真っ向から相手を待ち構えているだけで動く様子もない。


「なぁっ?!」

「!!」

 

 だが、やはり勝負は一瞬だった。

 猛然と突き進みバーレルが湾刀を振り上げた瞬間、イリスはフラッデルを起動させ後退させたのだ。一瞬にしてその場から消えたイリスに対応することが出来ず、バーレルの渾身の一撃は空を切り体勢が前に傾ぐ。その瞬間、今度はフラッデルを前進させたイリスが突っ込んできた。

 だがそこはバーレルとて歴戦の猛者だ。体勢を崩しながらも突っ込んできたイリスに向かって下から剣を振り上げ一撃を繰り出す。

 けれどそこまでを見越していたかのように、イリスはその場で華麗に宙返りをしてその剣を躱した。そしてフラッデルのまま体勢を崩したバーレルの背に乗ったのだ。


「ぐあっ、っ!!」


 イリスがバーレルの上に乗ったといっても、所詮小柄なイリスの体重ではバーレルにとっては大した重量ではない。咄嗟に起き上がろうとしたバーレルの肩に、イリスは剣を突き刺して動きを封じた。


「あなたの仲間で戦える者はもういません。勝負はつきました。それでもまだ戦いますか?」

「ぐっ……」


 イリスが追い打ちをかけるように、剣で更に深く突き刺す。利き腕の自由を奪われバーレルが小さく呻いた。


「……?」


 その時森の中から、複数人の気配がするのを感じてイリスは視線を上げた。戦闘中は気が付かなかったが、どうやらかなりの人数がいるようでこちらに向かってきている。

 新たな敵の襲撃かとイリスが油断なく森の中の気配を探っていると、イリスに向かって駆け寄って来ていたアレクがイリスの視線に気付いて声を掛けた。


「ああ、到着したみたいだな。大丈夫、あれは味方だよ」


 そしてイリスの下でフラッデルに圧し潰されているバーレルを見て、アレクは鼻で嗤った。


「お前の悪行もここまでだ。エダルシア王国軍のお出ましだよ。観念するんだな」

「エダルシア王国軍?」


 アレクの言葉に、気配のする方向を振り返る。すると視線の先の森の中から、青色の騎士服を着た男達が次々と現れた。その数ざっと五十。一個小隊くらいありそうだった。

 その青色の騎士服は、貿易大国であり農業大国でもあるエダルシア王国の海と空を表している。

 特殊な染料を使って染められているそうで、他国がこの色を再現することは不可能だと言われている代物だ。その独特の深みがありながら透き通るような青色は、エダルシアブルーとして有名だった。


 何故彼等が今この場にやって来たのか分からないが、イリスの目の前にいるのはそんなエダルシアブルーを纏った、紛れもないエダルシア王国軍の騎士達だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ