表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第五章 空を統べる者
123/125

アレク・ミュラー

(この人が、ソルとルナの父親……)


 イリスはソルそっくりの顔をまじまじと眺める。髪色が異なるだけで、ソルが成長したらこうなるだろうというくらいにその顔はよく似ていた。

 だがゆっくりと相手の顔を眺めている余裕はない。敵はその間にも迫ってきていた。


「おいっ!」

「へっ?!」


 迫りくる敵の気配を察して後ろに向き直り、剣を構え直して今にもフラッデルで飛び出そうとしていたイリスは、突然アレクに呼び止められて間の抜けた声が出てしまった。

 予想外の呼び掛けに驚きつつも、油断なく剣を構えたまま視線をアレクに向ける。


「何ですかっ!」


 焦っているイリスとは対照的に、こんな状況でもアレクは動じる様子もない。イリスに一歩近づくと、背を合わせるようにして並び立った。

 何かイリスに用事があったから呼び止めたのだろうが、ゆっくり話をしている余裕はない。その間敵側が待ってくれるはずもなく、すぐ目の前まで敵が迫っておりアレクは剣を振り下ろした。

 しかしその一振りは難なく敵に受け止められてしまう。だがそんなアレクのことを気にしている余裕はなく、イリスの目の前にも敵が迫ってきていた。


 イリスに向かって二人が同時に剣で切り掛かってくる。

 いつもならフラッデルを発進させて二人をやり過ごしてから切り付けるところだが、今はイリスの後ろにアレクがいる。イリスが避けてしまうと敵から振り下ろされた剣がアレクに当たってしまうので、その手は使えない。


「くらえっ!」


 敵から振り下ろされた一撃に向けて、イリスは自身の剣を地面に突き立てるとそれを軸にして足をあげ、フラッデルを盾の様にしてそれを防いだ。

 けれど今は地面に突き立てた剣一本を軸にしているので、二人から全力で振り下ろされた剣の重みに押されてイリスの身体が傾いた。だがそこで慌てることなく、イリスはフラッデルを起動させるとそのまま真上に飛び上がった。

 

 発進したフラッデルに振り下ろしていた剣を弾かれ、襲い掛かって来た二人は一瞬体勢を崩される。その瞬間、空中で一回転していたイリスの剣が真上から二人に襲い掛かった。

 二人が呻き声をあげながら倒れる中、それで終わらずイリスは宙返りした勢いのまま地面に手を付いて体勢を整えると、低い姿勢で後方に回り込むようにフラッデルを急発進させた。

 一瞬にしてアレクが相手にしている敵の足元に回り込んだイリスは、そのまま下から敵を切り上げた。


 今まで相手にしていた敵が突然何処からともなく現れた剣によって切りつけられたことに、アレクは驚いて目を見開く。気付いた時には、自身の足元に回り込んでいたイリスがアレクの隣に颯爽と立ちあがるところだった。


「……お前、すげぇな」

「それはどうも」


 立ち上がったイリスをまじまじと眺めながらアレクが驚きの声を溢す。それに雑な返事を返しながら、イリスは油断なく周囲を見回した。

 周囲はまた再び戦闘が始まったようで、そこかしこで打ち合いが行われている。突然現れたイリスに動揺したのは一瞬で、その後は乱されることなく攻撃を再開させていた。


(何処かに、指示を出しているリーダー的な人物がいるのかもしれない)

 

 烏合の衆ならば、圧倒的実力差を見せつけられたり得体の知れない敵からの攻撃を受けたのならば、雲集霧散するものなのだ。それがこの敵にはなかった。


 イリスが油断なく周囲を見回しているのを見たアレクは、再びイリスに一歩近付くと小声で話しかけた。


「さっき、あいつに何を話していた?」

「へぁ?」


 周囲を警戒していたところに急に話しかけられ、イリスはまた口から間抜けな声が零れた。

 アレクを振り返れば、視線をどこかに向けている。つられてその視線を辿ると、イリスが最初に話しかけた、ソルを助けた男が敵と戦っているところだった。

 最初こそ何を問われているのか分からなかったイリスだが、視線の先にいたソルを助けた男を見て、アレクが何を問うているのかに気付いた。


「あ、……敵と味方の区別がつかないんです。何かっ、判別する方法はありませんかっ!」


 そこかしこで再び打ち合いが始まったこともあり、派手に相手を切り伏せていたイリスには敢えて敵も向かってはこないようだ。

 だがアレクを狙おうとする敵はおり、イリスの視線が別の方向を向いた隙を狙ってアレクに切りかかってくる者がいた。

 そんな敵に向かってイリスはフラッデルを発進させる。言葉の最後の方はアレクと距離が離れてしまったので、イリスはアレクに向かって声を張り上げながら迫りくる敵に剣を振り下ろした。

 

「ああ、そんな事か!」


 まるでアレクの護衛かのように、自身に迫る敵をイリスが次々と薙ぎ倒していく様を感心したように眺めながら、アレクは何でもない事のように答えた。


(そんな事って)


 どうやって敵味方入り乱れるこの場で味方だけを見分けることができるというのか。イリスは迫りくる敵に剣を振り下ろしながら首を捻る。

 だがイリスが襲ってきた敵を切り伏せアレクを振り返って見ると、アレクが大きく口を開け息を吸い込んだところだった。


「っお前らっ!上の服を脱げ、今すぐだっ!!」

「えっ?」


 この状況下での突拍子もない発言にイリスが目を見開いている間に、これだけの人数がいて戦いの最中であるというのに、誰一人疑問を呈することなくアレクの部下であろう人達が上の服を脱ぎ始めた。

 だが、そうは言ってもそこは戦闘中だ。服を脱ぐ間敵が待っていてくれるわけではない。ボタンの付いたシャツを着ている人などは、引きちぎる勢いで服を脱ぎ捨てていた。


「これでいいか?」


 アレクの一声で、あっという間に周囲には上裸の男達が現れた。その数ざっと二十人程度。

 どんな不可解な指示であっても、それには理由があり必要な事なのだということを、部下達は知っているのだろう。でなければ、こんな場面でこれほど迅速に誰も疑問を持たずアレクの指示に従うことなど在り得ない。


「っ!ありがとう!!」


 イリスは手短に礼を述べると、すぐさまフラッデルを発進させた。敵側がイリスの意図に気付いて同じように上の服を脱がれてしまっては、この作戦は成功しないからだ。

 

 イリスはフラッデルを低空で操作し、次々に敵に切りかかって行く。敵側は急旋回して向きを変えてくるイリスが次にどこに向かってくるのかが分からず、対応が遅れた。

 たまに闇雲に剣を振り下ろしてくる敵もいたが、その際には地面に手を付いてフラッデルを盾の様に使うか、フラッデルを真上に向けて空中で宙返りをして躱す。

 そうしてイリスは敵を切り伏せてはすぐ次の敵に襲い掛かるので、辺り一帯は瞬く間に夥しい数の敵側の人間が地面に伏す結果となった。

 一騎当千と言われる、イリスの真骨頂だ。


「……あいつ、やっぱりすげぇな」


 イリスが次々と敵を薙ぎ倒していく様を眺めながらアレクが感心したように呟いていると、急に後方からの殺気を感じてアレクは振り向きざまに剣を構えた。

 ガギィン、という重い金属音が辺りに響き渡る。


「……俺はっ、戦闘要員向きじゃ、ないんだよっ!」


 何とか顔の前で受け止めた重い一撃だったが、そのまま力で押し切られそうになる。無理矢理振り下ろされそうになっている剣を、アレクは悪態を吐きながら何とかありったけの力を込めて押し返した。


「そう言うな。ちょっと付き合えよっ!」


 アレクに向かって切り付けてきていた大男が、振り下ろしきれなかった剣をそのまま振り払ってアレクの剣を弾き飛ばす。アレクは辛うじて剣から手を離さなかったものの、剣を弾かれて身体が開いてしまった。だがすぐさま体勢を立て直す。

 再び目の前の大男に向けて剣を構え睨みを利かせるアレクだったが、そんな視線など歯牙にもかからないとばかりに大男はニタニタと卑下た笑みを浮かべていた。


「初めましてだろう、仲良くしようぜ」

「あんたのような非道な奴と仲良くするなんて、御免だね」


 アレクの目の前に立ちはだかるのは、白髪金目の大男だ。手にしているのは少し小さな見慣れない湾刀だが、小さく見えるのはこの男が大柄であるからであって、剣自体は普通の長剣よりも大きいくらいだ。先程目の前で受け止めたので、アレクには嫌と言う程その大きさが分かっていた。


 大男は湾刀を構え無精ひげの口元を歪め尚も嗤っている。

 この大男は、エダルシア王国の海域で幅を利かせている海賊船の船長、エイデン・バーレルその人だった。

 



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ