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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第一章 回り始める運命の歯車
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リュカの連れ

「革命軍が『掴んだ情報』と『皆で各地に散った』理由は何だ?」

 

 核心をついた質問だったようで、リュカの身体が僅かに強張るのをイリスは背中越しに感じた。

 リュカの話から察するに、そこが重要な点であることはイリスにもロイにも分かっていた。


「……何でもといったが訂正するよ。それは今ここで話せる内容じゃない。後で君等の皇帝陛下に合わせてくれたら話す」


 声を落とし、リュカが言葉を濁す。イリスとしても内容が気になるところではあるが、イリス達下っ端が知らなくてもいいことはあるし、逆に聴かない方がいいこともある。

 後でリュカの連れ共々城に連れてくるように言われているので、リュカの話の内容の精査、判断は上層部がしてくれるだろう。

 

 レオンも同じ考えだったようで、質問に答えないリュカを問いただすことはなく、直ぐに話題は次に移った。


「では次の質問だ。ドルシグ兵に追われていることを、どうやって知った?」


 リュカは先程「昨日の夜ヴェントの町にいる時にドルシグ帝国が追いかけてくるって分かって」、「あいつ等はきっとウィレンツィア王国から俺を追ってきた」と言っていた。もしそれが本当であるならば、リュカはだいぶ早い段階で追手の存在を知り、逃げたという事になる。

 ドルシグ兵の動向をどうやって知り得たのかイリスにも疑問だった。


「さっきも言ったけど、昨日の夜ヴェントの町までは順調に来ていたんだ。でもそこで、カインが盗聴がバレたって気付いて……あ、カインってのが今から迎えに行こうとしている俺の連れな」


 そこで言葉を一度区切ったリュカは、昨晩の出来事を詳細に思い出そうと視線を空中に彷徨わせた後、思い出したように続けた。


「……そうそう。で、カインが『おそらく追ってくる』『多分真っ直ぐこっちに向かってくる』って言ったんだ」

「……」


 三人共、リュカの言っていることがいま一つ呑み込めなくて首を捻る。

 このままでは要領を得ないので、イリスはリュカに質問形式で訊ねることにした。


「……一個ずつ確認していい?まず、革命軍はある情報を掴んだのよね?」


 噛み砕いて一つずつ確認を試みる。


「そうだよ。内容はまだ言えないけどな」

「うん、それは大丈夫。それで、何か目的があって革命軍は全員で掴んだ情報を元に各国に散ったと」

「そうそう。何人かずつでな」


 何の目的があって散開しているのかは分からないが、他の革命軍のメンバーもリュカと同じように各地に赴いているということになる。そして、リュカはカインという人物とサンスタシア帝国を目指していたということだ。


「で、昨日の夜に盗聴がバレたわけね」

「カインが言うにはそうだな」

「それで盗聴されていたことを知ったドルシグ帝国軍が、革命軍をそれぞれ追いかけた、ということ?」

 

 話の内容からそういうことだろうとイリスが内容を纏めたが、リュカは曖昧に首を捻った。


「どうだろう?俺の他に皆も追われてたかどうかは分かんないな」

「……」


 リュカの返答に、イリスはますます首を捻る。

 サンスタシア帝国の騎士団にあっても、下っ端同士はお互い何の任務に就いているか詳細は殆ど知らないことの方が多い。だが今回のようにエルヴィン皇子の襲来など、最重要事項は一斉に無線で情報共有されるのが常だ。

 同じように、今回のリュカのような件であれば、革命軍の指揮官辺りから各々に向けて通達がありそうなものなのだ。ドルシグ帝国軍からの追跡があるかもしれないなど、把握しておくべき最重要事項だろう。


「革命軍の本拠地から、何か連絡はないの?」


 エルヴィン皇子の襲来など、未曽有の事態なのに何も連絡が無いのかと訝しむ。

 だがリュカは、あっけらかんとその問いに答えた。


「ああ、動ける人員は皆出払ってるから、集会に使ってた場所は今もぬけの殻なんだ」


 「もともとそんなに人数もいないしな」とリュカが笑いながら答える。その返答を聴いて、三人は最初から思い違いをしていたことを知った。

 三人は勝手に、革命軍の本部でウィレンツィア王国にいるドルシグ帝国軍の動きを盗聴しており、その盗聴が見破られてしまい、革命軍の各人に逃げるよう伝達されたのだと思っていたのだ。

 それまで二人の会話を黙って聴いていたロイが会話を引き継ぐ。


「本拠地に誰もいないのに、誰がどうやってドルシグ帝国の動きを盗聴しているんだ?」

「それは……カインが盗聴がバレたって言うぐらいだから、カインが盗聴してたんじゃないのか?」


 リュカにも詳細は今一つ分かっていないようで、曖昧な返答が返ってくる。ロイはイリスの真後ろを飛んでいたが、横並びになるように位置をずらしリュカと視線を合わせた。


「あのなリュカ。仮にそのカインが盗聴をしていたとして、ヴェントの町からウィレンツィア王国を盗聴しようと思うのなら、傍受する側にはそれなりに大きな機材が必要になるはずなんだ。人が持ち運べる大きさの機材では、その距離を盗聴するのは可能じゃない」

 

 ロイの説明に、機械全般に疎いリュカは不思議そうな顔で「そうなんだ」と呟く。その後暫くロイの言葉について考えていたようだったが、考えた末、それでも納得がいかないと反論を口にした。


「……あいつはさ、カインは凄い天才なんだよ。それこそきっと、簡単にヴェントの町からでもウィレンツィア王国を盗聴できるぐらいに」

「……」


 カインという人物を尊敬し誇るリュカに、何と言っていいか分からずロイも黙り込む。

 こんな状況でもなければリュカの尊敬するカインの天才話に乗ってあげたいところだが、今は一つでも多くの正しい情報が欲しい。

 イリスの胸は痛んだが、リュカの意見を真っ向から否定した。


「リュカ、あなたの言うカインは本当に凄い天才なのかもしれない。けれど、基本的にどの国も諜報機関っていうのは持っているし、それこそ盗聴器なんかも使って各国の情報を探っているものなの。だからどの国でも、盗聴を妨害する機器を使ったり何らかの形で阻止しているのよ。だから、国を相手に個人が盗聴できるとは思えないし、何より盗聴をしていたのも元々ドルシグ帝国は知っていたと思う」


 そうなのだ、実際サンスタシア帝国も盗聴器を仕掛けられている事実があるし、盗聴に関しては妨害対策を施している。国防とは、軍事的な手段もそうだが、情報、経済、思想、あらゆる方面において行われているものなのだ。

 それは他国においても同様だ。故にあのドルシグ帝国が個人からの盗聴を許すとも思えないし、仕掛けられた盗聴器に気付かないという事もないと思われた。


 リュカはまだ納得がいかないとばかりに眉間に皺を寄せているが、それが事実だった。

 現段階で他国にバレないような盗聴器など、科学技術大国と呼ばれるサンスタシア帝国でさえも不可能に近い。それだけ、盗聴を発見する機械も妨害する機械も進歩しているという事に他ならない。 


「最後の質問だ。革命軍が一斉に皆で散開したのに、他の誰かではなく何故リュカスをエルヴィン皇子は追って来た?」


 レオンも少し速度を落としイリスに並ぶように並走すると、リュカと視線を合わせながら質問をぶつけた。

 これと言って特筆すべきところもない、重要な情報を持っているわけでもない一般民のリュカをエルヴィン皇子が追ってきた。それが最大の謎だった。


「……だから、カインの盗聴がバレたからだろう?俺はそう思ってるけど、イリスとロイが言うように本来なら盗聴自体が不可能だって言うんなら理由は俺にも分かんないよ」


 自分の話を否定され続け、半ば投げやりにリュカが答える。ふくれっ面でそっぽを向き、完全に機嫌を損ねていた。


「あっ……でも……」


 何か思い出したことがあるのかレオンから顔を背けたままのリュカが声をあげたが、直ぐに言い淀み言葉を呑み込む。


(何を言っても否定されるから、言い出しにくいのかも……)


 リュカの態度を見るに、全否定され不快な思いをしていることは明らかだった。イリスは一呼吸置くと、出来るだけ優しい口調でリュカに話しかけた。


「リュカ、何か思い出したことや知っていることがあれば、どんなに些細な事でも構わないから教えて欲しい。私達は今ドルシグ帝国のエルヴィン皇子を相手にしているの。リュカの連れを安全に連れて戻るためにも、出来るだけの情報が欲しい」

「……」


 その場に暫しの沈黙が流れる。

 風を切る三機のフラッデルの音だけが静かな森の中に響く。イリスの背に頭を付け考え込んでいたリュカは一つ息を吐くと、真っ直ぐに前を見据えて口を開いた。


「盗聴器って言えば、『この盗聴器はバレても問題ないって』ヴォルターが言ってたことあるんだ」


 リュカの話に誰も口を挟むことなく、無言によって話の続きを促す。


「ヴォルターっていうのは革命軍のリーダー的存在なんだけどさ、そのヴォルターが言ってたんだ。革命軍の誰かが、城に仕掛けている盗聴器がエルヴィン皇子にバレるんじゃないかって心配した時、『この盗聴器はバレても問題ない』って」


 リュカはそこで一旦言葉を区切り、意を決したように言葉を続けた。


「でさ、昨日カインに逃げろって言われた時、カインが言ってたんだ『本物の盗聴器がバレた』って。本物って何だよって、俺も思った」


 リュカの言葉に三人が息を呑む。

 三人の中で、一つの可能性が浮かんできていた。そんなことは有り得ないと頭では分かっていても、今までのリュカの話と今朝起こった事実を重ね合わせると、一つの推測に辿り着いてしまうのだ。

 

(……当たりだ。おそらく間違いない)


 『本物の盗聴器』という物がどんな物であるのかまでは現段階では分からない。だが少なくともつい先日まで、他国に対して警戒心の強いドルシグ帝国を、あのエルヴィン皇子の目を欺いていたということは間違いない。

 あのエルヴィン皇子のことだ、やられっぱなしで引き下がるわけがない。


 イリスはできるだけ動揺させないように穏やかな口調で、後ろの居るリュカに告げた。


「リュカ、おそらくエルヴィン皇子の目的は、今迎えに行こうとしているリュカの連れだ」

 

 背中越しに、リュカが息を呑んだのが分かった。

 

 一刻も早く、ヴェントの町に着きリュカの連れを保護しなければならない。イリスは黙って、フラッデルに置いた右足を踏み込み、そのスピードを速めた。

 





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