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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第一章 回り始める運命の歯車
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二人乗り

 結局、当初の予定通りリュカを乗せてフラッデルで走行するのはイリスに決定し、全員で出発準備に入る。


「大丈夫?二人乗りだしそんなに高度も速度も上げないけど、腰の辺りにしがみついていた方がいいと思うけど……」


 二人で乗れるとは言っても、フラッデルは基本一人乗りだ。両足を置く場所に操作盤があるため、操縦者の両足の位置は決まっている。成人が二人で乗るには相当狭いため、同乗者は足を置く位置にまず気を遣う。バランスを取ることを第一に考えれば、イリスの左足と右足の間に片方の足を入れるのがベストなのだが、それをする勇気がリュカにはなかった。


(怖ぇよ……)


 リュカは後方から、物凄い勢いでレオンに睨まれているのだ。先程ドルシグ兵に追われていた時も恐怖を感じていたが、それとはまた違った種類の恐怖をリュカは現在進行形で味わっていた。

 そんな三人の様子を、さっきからロイは非常に愉しそうに見ている。むろん助ける気は更々ない。


 仕方なしに、リュカは後方の空いている僅かなスペースに両足を揃えて乗せ、両手はイリスの肩に置いて掴まることにしたのだ。その安全とは言い難い乗り方を見て、イリスがたまらず声を掛けたのだった。


 イリスは二人分の足が置かれたフラッデルを見つめ、次に真後ろにいるリュカを見遣ると腕を組んで首を捻った。


「うーん……あ、それじゃあ発進の時だけ私が補助するから、リュカが後ろのペダルに足を置いたら?」


 満面の笑顔で、名案だとばかりにイリスが提案する。

 イリスの案は、要するにフラッデルの前半分にイリスが、後ろ半分にリュカが足を置いて乗ろうということなのだ。確かにそう足を置けば今よりは確実にリュカの足を置くスペースは広くなる。だがそうなると、後方にあるペダルはリュカが操作するしかない。

 

「発進さえしてしまえば後方のペダルはスピード調節だけだから、強く踏み込まなければ大丈夫」

「いや絶対無理でしょ」


 さも簡単なことのようにイリスは言うが、決してそんなことはないだろうとリュカが即答する。

 だがこれ以上ここで時間を費やす訳にもいかない。リュカは何より、置いてきたカインのことが心配だった。


「でも……とりあえずイリスの案でやってみよう。やれるかもしれないし」

「そうね。じゃあ、ここに足を乗せてみて。そう、で、踵でペダルを踏むと」


 イリスが指差しながら、リュカが足を置く位置と操作方法を一つずつ確認していく。だが相変わらずリュカの両手は、イリスの肩を掴んだままだった。


「……本当に大丈夫?発進する時、加速度と負荷がかかるよ?」


 発進時には急激に速度が上がるので、身体にもそれ相応の負荷がかかる。フラッデルに乗り慣れていない者なら、速度変化と負荷にバランスを保っていられず身体を後ろに持っていかれてしまうのだ。リュカも間違いなくそうなってしまうだろう。

 ただでさえそうなのに、今回は二人乗りである上にリュカはイリスの肩を掴んで乗っているだけなのだ。それでは絶対に発進時の加速度と負荷に耐えられない。けれどイリスに何を言われても、リュカは頑なにその姿勢を崩さなかった。


 加速度よりも負荷よりも、後ろからの視線の圧に耐えられないリュカには他に選択肢がなかったのだ。


「とりあえず動かしてみてくれ」


 その言葉を受けて、納得いかない様子ながらも仕方がなくイリスは前方に置いた左足に力を入れ、フラッデルぐっと踏み込んだ。

 次の瞬間、真っ平らなままだったフラッデルからはベルト状の機械が飛び出してきて、前方に置いたイリスの左足をフラッデルに固定した。と同時に、リュカが足を置いたちょうど真下からもガシャンという機械音がして、平らだった面から突起のようなペダルが隆起する。ペダルに添うように踵を浮かせた状態のリュカの足のつま先部分を、前方同様飛び出してきたベルト状の機械がフラッデルに固定させた。

 

 フラッデルは左右どちらの足を前にしても乗ることが出来るのだが、通常両足はフラッデルに固定された状態で搭乗する。だが今回はお互い片足ずつを固定した状態で乗るので、走行中に振り落とされないためには体幹とバランスが重要になってくる。イリスがリュカに再三自分に掴まるように言っているのはこのためだった。


 だが何度諭したところで埒が明かないと判断し、イリスは前方に置いた左足の下にある起動盤を強く踏み込んだ。次の瞬間、フラッデルが起動しエンジン音と共に僅かに空中に浮く。


「リュカ、ゆっくりペダルを踏み込んでみて」


 イリスの言葉に、リュカは恐る恐るペダルに乗せていた足をゆっくりと半分ほど踏み込んだ。すると、少しずつフラッデルが前方に進み始める。


「わ、わっ、あっ!……ああっ!」

「リュカっ!!」


 動いたことに驚いてうっかりペダルをぐっと下まで踏み込んでしまい、リュカは急発進したフラッデルの勢いに負けて掴んでいたイリスの肩を離してしまった。当然リュカの身体は後ろに倒れ、ドンッという鈍い音と共にリュカは草原に激しく後頭部を打ち付けていた。

 イリスが咄嗟にリュカの足を固定している機械を外す操作を行ったので、フラッデルに引き摺られることはなかったがその代わりリュカの身体は盛大に草原を転がった。

 

「ってぇ……」

「大丈夫っ?」


 空中をくるりと一回転して体勢を立て直したイリスが、寝転がるリュカに手を差し伸べる。片足が固定されていない状態だということを感じさせないくらい、それは見事な宙返りだった。

 その一部始終を見ていたロイは、お腹を抱えて大笑いしている。レオンに至っては徹頭徹尾、不機嫌顔のままだ。


 笑いすぎて目尻に滲んだ涙を指で拭いながら、ロイはレオンを振り返った。


「このままじゃ埒が明かない。レオンもこれで分かったでしょ?リュカはちゃんとイリスにしがみついて乗るしかない。これ以上遊んでる暇はないよ」


 ロイの言葉を受けて、レオンはこちらを見ることなく黙って自身のフラッデルを起動させた。どうやら納得はいっていないが、リュカがイリスにしがみついて乗ることを見逃してはくれるようだ。


(なら最初からそうしてくれ!)


 リュカは心の中で盛大に叫んだ。この言葉がいつものように咄嗟に口から出なかったのは、打ち付けた頭が痛くて呻き声しか出せなかったのと、転倒した時に舌を噛んだようで言葉を発せなかったからだ。


(まぁ仕方がない……必要な試練だったと思おう)


 これでやっとイリスにしがみついて乗ることを許してくれるのだ。必要な過程だったと思うしかない。

 

 新緑の柔らかい草の上に打ち付けたとはいえまだジンジンと痛む後頭部を手で押さえながら、リュカは差し出されたイリスの手を取って、草原に無様に転がっている自身の身体を漸く引き起こした。






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