聖女と王太子の物語
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いつものご都合主義です。
誤字脱字はご容赦ください。
タイトル直さずに投稿してました(☉。☉)!
『月が満ちる晩、南にありし聖堂に異世界の聖女が現れる。』
女神ルーディアンからの神託を受けたのは現在聖女として神殿で祈りを捧げていたレティシア=クロイツァー侯爵令嬢だ。
(異世界からの聖女召喚は100年振りね。
それに…)
レティシアは婚約者のリシャール=アームナト王太子のことを考えた。
(婚約は解消しなくてはならないわ…。)
異世界からの聖女は本人の意思とは関係なく王族と婚姻するのが慣わしなのだ。それは異世界の聖女はレティシアたちの世界の聖女と違い、居るだけで国を繁栄させることができるからだ。
現在、王族に男児は王太子のみなので彼女と王太子の婚約は白紙撤回されることにる。
(とにかく、大神官様にご報告しませんと。)
彼女は聖堂を後にして大神官の部屋へ向って報告を済ませた。
「大神官様、女神ルーディアン様からの神託にございます。この国に100年振りに異世界より聖女様が召喚されるとのことです。」
「わかりました。召喚される場所や日時は神託にありましたか?」
「はい。場所は南方にある大聖堂…サフィロス辺境伯領です。月が満ちる晩にとのことなので、再来週です。」
「わかりました。それよりレティシア様、王宮には私から報告をいたしましょうか…?」
「いいえ。わたしが国王陛下たちにお伝えして参ります。
異世界から召喚される聖女様はリシャール王太子殿下も関係ございますから。」
「では、神殿側は私が準備を整えておきましょう。」
「よろしくお願いいたします。」
彼女は先触れを出して身支度を整えてから王宮へ向った。
馬車の中で彼女は考えていた。
『君がレティシア=クロイツァー嬢?とても可愛いね!』
『ありがとうございます、王子殿下。殿下もとても素敵ですわ!』
『僕たちは婚約者になるのだから、名で呼んでくれないか?』
『は、はい。リシャール様。』
『僕も君のことをレティシアって呼んでいい?』
『もちろんですわ。』
10歳の時に聖女と認定されたレティシアはまだ立太子されていないリシャールと婚約した。
お互いに第一印象は悪くなかったし、交流しながら愛を育んだ。
『リシャール様は凄いです…こんなにも多くの執務をこなされているなんて…
わたしは妃教育だけでいっぱいいっぱいです…最近は聖女の仕事も疎かですし…』
『僕も初めから出来たわけではないよ?王子教育はダメ出しが多かったんだ。陛下の執務の一端を担ったのも最近だからね。
今度の浄化の旅は来週だったよね?それまでに僕に手伝えることがあったら言って!妃教育の宿題でわからないところで僕がわかれば教えるし。』
『ありがとうございます。』
そして今から三年前にリシャールが立太子されてからも、二人の関係は良好で誰しもが未来の王太子夫妻に期待もしていた。
『僕はこの国の王太子として国民がより良い生活を送ることができるようにしていきたいんだ。』
『リュド様、わたしも微力ながらお手伝いいたします。』
『レティは微力なんかじゃないよ?君がいてくれるだけで、僕はもっと力を発揮できるんだから。』
『ふふ、リュド様はわたしを過大評価しすぎですわ。』
『そんなことはないよ。僕はね、レティ。君といつまでも隣で支え合っていきたいんだから。』
『わたしもリュド様のお傍であなた様を支えて参りますわ。』
『ありがとう、レティ。』
(リュド様…もうあなた様に愛をお伝えすることはできないのですね…)
『レティ、僕は君が聖女でなくとも君を愛しているよ。』
『わたしもリュド様を愛しておりますわ。』
奇しくもこの会話をしたのが彼女が神託を受ける一週間前だった。
「うっ…うぅ……」
彼女の頬に涙が伝う。
(本当は婚約白紙などしたくありませんわ。)
レティシアは王宮に到着するまで涙を流し続けた。
「異世界から聖女様が現れるのか。国としては喜ぶところであるが…そうか…。
レティシアよ、そなたとリシャールの婚約は白紙撤回しよう。」
謁見の間出国王に拝謁したレティシアは神託わ伝えた。そして国王からの返事は予想通りだった。
「はい、陛下。王太子殿下と聖女様の幸せを祈り、家臣として聖女様をお支えできるようにこれからも精進して参ります。」
「7年もの長きに渡り聖女の任、大義であった。」
「勿体ないお言葉を頂戴し、恐悦至極に存じます。」
「リシャールを呼んでくるからいつもの庭園の東屋で待っているといい。」
「ご配慮いただきありがとうございます。」
彼女は国王の計らいで初めて二人が顔合わせをした庭園の東屋へ向った。
(ここも思い出がいっぱいね…王太子妃教育になってから王子妃教育よりも大変になって何度も泣いたのをリュド様に慰めてもらった…)
「もう、ここへ来ることもないのね…」
「何か言った、レティ?」
「リュ……リシャール殿下…。」
「どうしたんだい?そんな他人行儀で?」
「本日、女神ルーディアン様の神託を国王陛下に報告いたしました…。」
「そうみたいだね。それがどうかしたのかい?」
「……」
(正直に言うのが怖いだなんて…)
「レティ…?」
なかなか喋らないレティシアを心配して、リシャールは彼女の手を握り声をかけた。
「殿下にもお伝えいたします。『月が満ちる晩、南にありし聖堂に異世界の聖女が現れる。』とのことです…。」
「…えっ!?異世界の聖女だって!?」
「はい。月が満ちる晩は再来週です。南にありし聖堂はサフィロス辺境伯領の大聖堂であると判断いたしました。そちらに異世界より聖女様が現れます。」
「…っ!!」
「ですのでリシャール殿下、来週には辺境伯領へ向けて出立しますので、ご準備をお願いいたします…。」
「わか…った…」
沈黙が二人を包む。
リシャールもわかっている。異世界の聖女と婚姻し国に繁栄を齎すことは王族であり王太子でもある自身の責務であること。そこに愛はなくとも…
愛しているのはレティシアだけ。しかしお互いに気持ちだけでどうこうなる問題ではないのだということを痛い程わかっているのだ…。
「先程、陛下にもご報告しましたので、リシャール殿下とわたしの婚姻は本日付けで白紙となりました。」
「レティ…」
「リシャール殿下、あなた様の幸せをお祈りいたします。」
「君に…君だけにはその言葉を言われたくなかった…」
「……これからは家臣として殿下方に忠誠を誓います。」
レティシアは立ち上がりカーテシーする。
「サフィロス辺境伯領へは大神官様の名代でわたしが同行いたします。それでは、失礼いたします。」
「…レティ!!」
彼女は振り返ることなく庭園を後にした…。
(リュド様…どうか幸せになってくださいませ…)
そう思いながら彼女は帰路へついた。
彼女が屋敷へ着くと、専属のメイドが出迎えた。
「お嬢様!?どうされたのです!?お泣きに…?」
「ごめんなさい、ララ…。一人にしてくれる。」
「お嬢様…。かしこまりました。」
その後彼女は部屋に引きこもった。使用人たちも何があったのか心配で堪らなかったが、クロイツァー侯爵が帰宅後に使用人たちへ説明して、今はそっとしておいてあげなさいと言われたので見守ることしかできなかった。
部屋でクッションを抱えてベッドで過ごしていた彼女が思い出すのは彼との楽しかった日々と辛かったが充実した王太子妃教育の時間だった。
聖女として朝晩の祈りを捧げ、ときには現地へ赴き浄化の旅もした。その旅の全てに彼が横で支えてくれた。
『レティは僕が必ず護ってみせる。だから、君は浄化や回復に集中して?』
『レティ、疲れてない?まだ到着までは時間がある。肩を貸すから目を閉じるといい。少しでも休んでよ?』
『無理をしすぎだよ!?全く…。まあ、それがレティらしくて僕は好きだけどね。』
王太子妃教育で何度も挫けそうになっても彼が横にいるだけで力をもらえてやり切ることができた。
『母上や講師陣は厳しいだろう?それでも君は飲み込みが早くて素晴らしいと言っていたから、僕と一緒に頑張ろう?』
『レティ、その課題は君一人では無理だから手伝うよ。だから、僕がやっていることも少し手伝ってほしいんだ、いいかな?』
『はは。疲れていても君とお茶を飲んでいると疲れが吹き飛ぶんだ。僕は本当に幸せだよ。』
しかし、彼は違う人の横を歩むのだ…
これからは家臣としてリシャールを支えていくのだと強く言い聞かせた。
【6日後】
チリンチリンとレティシアの部屋からベルが鳴る。
専属メイドのララは久しぶりのお呼びに興奮を抑えて彼女の部屋の扉をノックした。
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
「ララ、おはよう。湯浴みの準備と簡単なスープの用意をお願いできる?」
「かしこまりました。スープはお嬢様がお好きな玉ねぎスープを料理長に頼んできますね?」
「ええ。お願い。」
(いつまでも嘆いてはいけないわ。大丈夫。きっと普通にできるわ。)
準備ができたので湯浴みに向い、使用人たちが久しぶりだからと丁寧に香油を塗ってマッサージを施し気分が少し晴れたレティシア。
そして料理長特製の玉ねぎスープをゆっくり口にし、翌日からの旅に備えて準備を整えた。
「ご機嫌よう、リシャール殿下。本日よりよろしくお願いいたします。」
「おはよう、レティ…シア嬢。こちらこそよろしく頼む。」
(婚約者でないのだからそう呼ばれるのは当たり前なのに…)
レティシアとリシャールは挨拶を交わすもぎこちない。そんな状況に泣きそうになるのを堪えて彼女は馬車に乗り込んだ。
周りもそんな二人を心配そうに見つめるも聖女が現れるということはそういうことであり、自分たちには見守ることしかできないと諦めている。
辺境伯領までの一週間はとてもあっと言う間だった。
(着いてしまいましたわ…)
「サフィロス辺境伯にございます。王太子殿下、クロイツァー侯爵令嬢、ようこそおいでくださいました。」
「辺境伯、世話になるよ。」
「辺境伯様にご挨拶申し上げます。よろしくお願いいたします。」
「はは。堅苦しく挨拶をしたけれど、シアよく来たね。」
「はい、伯父様。ご無沙汰しております。」
辺境伯家はレティシアの母親の生家である。
レティシアたちが到着して少し遅れて辺境伯の息子であるアルベルトが遠征から戻ってきた。
「遅れて申し訳ございません。次期辺境伯のアルベルト、王太子殿下にご挨拶申し上げます。レティシアもご機嫌よう。」
「アルベルト兄様、ご機嫌よう。」「アルベルト、久しぶりだな。」
「はい、リュド殿下。シア、いらっしゃい。」
現辺境伯夫人は国王の姉であり、二人は従兄弟である。
昔話に花を咲かせるもレティシアとリシャールがふたりきりで会話をすることはなかった。
【翌日の夜】
大聖堂にいるのはレティシア、リシャール、アルベルトと数名の騎士のみ。
そして大聖堂のステンドグラスに月明かりが差し込み皆が眩しいと目を瞑った刹那の時間に女神ルーディアン像の前に女性が現れた。
「えっ!?ここは何処なのっ…!?」
黒髪に黒い瞳の女性がキョロキョロしていたので「ようこそ、聖女様。」とリシャールが声をかけた。
「聖女様?わたしが!?」
「僕はこの国の王太子のリシャールと申します。聖女様のお名前を伺っても?」
「えっと…わたしは…」
「もしかして、絵里なのか!?」
「えっ!?」
女性の名前を呼んだのはアルベルトだった。そんな彼はレティシアの横をすり抜け女性に駆け寄り抱きしめた。
「もしかして、哲哉…なの?」
「絵里!会いたかった!」
「わたしもだよ!!哲哉!」
女性は涙しアルベルトも目に涙が溜まっている。
「アルベルト兄様、どういうことです?」
「アルベルト、これは一体…?」
驚くレティシアとリシャールを見てアルベルトは女性を抱きしめる腕を緩めた。
「実は俺は前世の記憶を持って生まれたんだ。」
「前世…?」
「こことは違う世界…聖女様と同じ世界で生活していたんだよ。」
アルベルトが話している間も女性は離れまいと抱きついていたが口を開いた。
「あの、わたしは笹原絵里と言います。この男性の前世である代永哲哉とは恋人でした。半年後には結婚する予定だったんです…。」
哲哉は不慮の事故に巻き込まれて帰らぬ人となってしまったとアルベルトたちは語る。
「でも、この世界でアルベルト=サフィロスとして転生した。まさか、神託の聖女が絵里だったなんて…。」
二人はお互いの存在を確かめるように見つめ合う。
「あの、聖女様?」
「あ、あの、絵里って呼んでください。」
「エリ様、わたしは現在の聖女を務めているレティシア=クロイツァーと申します。」
「様もいらないけど、きっとそういうわけにはいかないんですよね。それでレティシアさん?は何かお訊きしたいのでしょうか?」
「はい。実はこの世界に異世界から聖女様が召喚されたのは100年振りなのです。」
「100年!?」
「そうです。そして、100年前の聖女様は当時の王族に嫁いでおります。そもそも異世界の聖女様はいるだけで国が繁栄できる力を持っているとされています。」
「王族に嫁ぐ…!?」
「今の王族はこちらにおられるリシャール=アームナト王太子殿下だけなのです。」
「そ、それじゃあわたし…」
「エリ様は僕と婚姻することになります…。」
「そんなっ!?折角、哲哉に会えたのに!わたしは嫌です!」
アルベルトにしがみつく絵里。
「なあ、リュド…。」
「アルベルト?」
アルベルトが神妙な面持ちでリシャールを見た。
「お前、昔俺に言ってたことがあったよな?今でも同じ気持ちか?」
「アルベルト…いい…のか?」
「俺はもう二度と絵里を離したくないんだ。その気持ちはお前もわかるだろう?」
「わかった。」
「リシャール殿下もアルベルト兄様も何を話しているのですか…?」
「わたしどうなっちゃうの…?」
心配そうにリシャールを見つめるレティシアとアルベルトを見つめる絵里。
「レティ、エリ様、暫しふたりはここに滞在してほしい。」「絵里、シア。ここでふたりで待っていてほしい。」
「「えっ!?」」
リシャールたちの提案にレティシアと絵里は驚き顔を見合わせた。
(リシャール様とアルベルト兄様には何か考えがあって、それはわたしにはお手伝いできないことなのよね…)
「わかりました。リシャール殿下、アルベルト兄様。」
「レティ、必ず君を迎えにくるから。」
コクリと頷くレティシアの姿に心が躍るリシャール。
「絵里、すぐに戻ってくるからシアと待っていてくれるか?彼女はとても頼りになるから。」
「わかった。待ってるからね?」
「いい子だ。」
レティシアが頭を撫でられている絵里を羨ましそうに見つめていることに気がついたリシャールは控えめに彼女の頭を撫でた。
「レティ、この件が片付いたら話しをしよう?」
「リュド様…。」
リシャールはほんの少しレティシアを抱きしめると「アルベルト、明朝出立するぞ?」と言い、本当に翌日馬で王宮へ戻っていった。
翌日、レティシアと絵里はお茶をしていた。
「作法などは気にしないでください、聖女様。
改めまして、レティシア=クロイツァーと申します。この国で侯爵位を賜っている家の娘です。」
「侯爵って偉い人じゃない!わあ!そんな人に様つけて呼ばれるのは落ち着かないじゃん!二人だけのときでもいいから様も敬語もなしじゃ駄目ですか?」
「いいのかしら…?」
「いいに決まってる!レティシアさんお願い!」
「ではエリさんと呼ぶことにするわ。」
「ありがとう!改めて、笹原絵里です。
哲哉…アルベルト?どっちで呼んだらいいかな…?」
「テツヤ様で良いと思うわ。わたしは二人の関係を理解したから。」
「そっか。レティシアさんと哲哉の関係は?兄様って呼んでいたけど?」
「わたしは従妹にあたるの。母がここの辺境伯領出身なのよ。」
「だから兄様って呼んでいたのね?」
「そうよ。」
「それと…王太子とレティシアさんの関係は恋人?」
「違うわ…」
「でも、昨日…」
「エリさん、昨日も話した通り聖女は王族と婚姻するのが慣わしなの。本人の意思とは関係なく。それがこの国の政略結婚なの。わたしと王太子殿下は元婚約者だったというだけよ…。」
「元って?」
「神託で聖女様が現れるとなったから白紙撤回されたのよ。」
「そんな!どうして!?レティシアさんと王太子はお互いに…」
「…」
「ごめんなさい…きっとこの世界では好きだけではどうしようもないこともあるのよね…?」
「ええ。」
「えっと、じゃあ、レティシアさん。この世界には魔法ってあるの?」
「魔法はあるわ。異世界には魔法はないと記録されているけど、本当?」
「本当よ!ねえ、魔法見せて?」
「いいわよ?とは言ってもわたしは普通の魔法はあまり得意ではないの。わたしは回復魔法や瘴気を払う浄化を得意としているから。」
「わあ!聖女って感じ!」
「ふふ。そうだわ、少し庭に移動しましょう?」
「庭…?」
庭に移動した二人。そこには一面綺麗な花が咲き誇っていた。
「綺麗…」
「エリさん、見てて?」
レティシアが掌を花々に向けて魔力を放つ。
「わあ!!ステキ!」
絵里の周りに花びらが美しく舞う。
「エリさん、とても素敵よ?」
「ありがとう、レティシアさん!」
「そして…」
レティシアがもう一度魔力を放つと花びらは地面に戻り元通りの花畑に戻った。
「魔法って凄いのね!わたしにも使えるかな?」
「聖女特有の回復系は使えるはずだけれど、教えましょうか?」
「うん!」
レティシアたちは魔法の練習ばかりしてお互いのことはあまり話さなかった。
絵里はこれ以上は聞いてはいけない、異世界でできた友人?を大切にしようと思った。
【2週間後】
「エリさん、とても上達が早いですわ。」
「本当!?ファンタジーとか好きで魔法は憧れだったの!」
「ふぁんたじー?」
「えっと幻想とか空想って意味でね、わたしの世界では異世界ファンタジーってジャンルがあって、魔法や魔物、ドラゴンとか描かれた本があったりしたのよ?」
「わたしたちの現実はエリさんたちにとっては幻想なのね?」
「そうよ。急に知らない場所に来ちゃって、でも哲哉がいて、レティシアさんともお友達になれたからこれからはわたしの現実はここになっていくのかな…」
「エリさん…。」
少ししんみりなってしまったので、休憩にしようとしたそのときだった。
「レティシアお嬢様、聖女様、王太子殿下とアルベルト様が数時間後にお帰りになられるそうです。」
「本当!?」
「わかりました。わたしとエリさんの準備をお願いするわ。」
「準備?」
「エリさん、一番可愛くしてアルベルト兄様をお迎えしましょうね?」
「えっ!?きゃー!!」
絵里は侍女に連れられドレスアップするために磨かれた。
「とてもよくお似合いよ、エリさん。」
「うう…コルセットってこんなにキツイの?」
「ふふ、これは慣れの問題ですわね。一応は緩めにするように侍女に頼んであったけれど、それでもエリさんには大変でしたわね。」
「お嬢様、恐るべしだわ…」
「ふふ。」
「でも、やっぱりレティシアさんは素敵!銀髪がとてもキラキラしてるって思ってたけど、ドレスを着るともっとキラキラしてる!」
「ありがとう、エリさん。」
「ただいま、レティ!」
「お帰りなさ…」
勢いよく入ってきたのは屋敷の次期当主ではなくリシャールで、彼はその勢いのままレティシアの言葉を遮って抱きしめた。
「お、王太子殿下!?」
「僕はもう王太子ではなくなった。」
「えっ!?ど、どういうことですの!?」
レティシアたちの横てはアルベルトたちが再会を喜び抱き合っている。
「ちゃんと説明する。アルベルト、レティと二人で少し散歩してきてもいいかな?」
「ああ。東屋で座ってゆっくり話せ。俺も絵里に状況を説明しておくから。」
「レティ、行こう?」
「え、ええ。」
リシャールに手を引かれて庭を進む。彼はいつもより焦っているのか足取りが早い。
「リシャール様、は、早いです…」
「…っ!ごめん!らしくもなく焦ってしまったよ。」
「ふふ。リシャール様が焦るなんて久しぶりですね。」
「そうだね。」
東屋に着くとお茶が用意され、人払いされる。対面ではなく隣り合わせに座るレティシアたち。
紅茶を口に含むと、リシャールに手を取られる。
「まずは、僕が王太子ではないということについて話すよ。」
「はい。」
「僕は王位継承権を放棄することにしたんだ。」
「…えっ!?で、ですがそれでは王家の血が!」
「王族の血を引いている者ならいるだろう?」
「もしかして、アルベルト兄様?」
彼女がリシャールを見ると優しく頷く。
「で、ですがアルベルト兄様は次期辺境伯で…
ま、まさか!?」
「流石はレティだね。少ない情報でもわかってくれるんだ。
そう。アルベルトが王家の養子になるんだ。」
「そんなこと…」
彼女ができるわけないと言おうとしたときだった。
「出来たよ。」
「で、出来たのですか!?」
「そうだよ。昨日付でアルベルトが立太子することが議会で決定されたんだ。」
「アルベルト兄様が王太子に…で、ではリシャール様は…?」
「ん?それはね…
僕は昨日からリシャール=サフィロスになったんだ。」
「リシャール様が次期辺境伯ということですか…?」
「そう。だからね…」
彼は彼女の前で跪き、膝の上にあった彼女両手を取って顔を見上げた。
「レティシア=クロイツァー嬢、僕はあなたを愛しています。どうか僕の妻になってください。」
「リシャール様…わ、わたし…」
レティシアの目から大粒の涙が溢れる。
「レティ。」と優しい声で抱きしめられる。
(リュド様の匂いだわ!わたしの大好きな!)
「リュド様、わたしをあなたの妻にしてください。
ずっとずっとお慕いしております。」
「これから、ずっと一緒にいよう。」
「はい。」
二人は口づけを交わし、暫くお互いの存在を確かめ合った。
リシャールとアルベルトは婚約が成立したときに二人で話していた。もしも、レティシアと生涯を伴にする上で王子という身分が邪魔になったとき、愛に生きたいと話すリシャールにアルベルトは自分に出来ることならば協力すると話していたのだ。
どのくらい経ったのかわからないが、「シア、リュド。話しは終わった?」とアルベルトの声がした。
「ちっ!邪魔しにきてしまったか…」
「リュド様でも舌打ちなさるのですね?」
「幻滅した?」
「いいえ?ちっとも。」
「よかった。アルベルト、エリ様との話し合いは終わったのか?」
アルベルトとエリが手を繋いでやってきた。
「レティシアさん!」
「エリさん!」
レティシアと絵里は互いのパートナーから離れて手を取り合う。
「エリさんに重責を押し付けてしまう形になってしまって…」
「平気だよ!そりゃ異世界のこと何も知らないから大変かもだけど、哲哉がいれば何とかなると思う。
それに、レティシアさんと王太子…ってもう王太子じゃないらしいけど…二人が仲直りできてよかった!」
「エリさん、ありがとう。」
【王都クロイツァー侯爵邸】
翌日、レティシアたち(リシャール、アルベルト、絵里)はサフィロス辺境伯領を出立してクロイツァー侯爵邸への帰路についていた。そんな中、クロイツァー侯爵邸では絵里の後見をすることになった貴族であるネーマル公爵がクロイツァー侯爵と会談していた。
「ネーマル閣下、この度は娘や甥になったリシャールのためにご足労ありがとうございます。」
「いいんだよ、クロイツァー侯爵。私はリシャール殿とレティシア嬢はどんなことがあっても結ばれるべきだと思っていたのだから。
だから、アルベルト殿下やリシャール殿から話しを頂いたとき即座に聖女様の後見人をさせていただくと返事をしたんだ。」
リシャールたちは王宮で国王と王妃を説得後、大臣たちを緊急召集しリシャールのサフィロス辺境伯家への養子、アルベルトの王家への養子を可決させたのち、大臣の一人で王太后の生家であるネーマル公爵に絵里の後見を依頼していたのだ。
「しかし、リシャール殿はクールだと思っていたが、だいぶ情熱的な御方だったようだ。」
「左様ですね。アルベルト殿下も落ち着いていてあまりわがままを言うタイプではなかったのですがね。」
「似た者同士だというのもあって今回の養子縁組はとてもすんなりだったよ。」
「ええ。よくぞ短期間であそこまで書類を揃えて、周りを説得したものですよ。」
「そうだな。では、こちらで用意できる物は全てしてアルベルト殿下たちをお迎えしようじゃないか。」
「そうですね。」
絵里はレティシアやクロイツァー侯爵、ネーマル公爵のサポートで貴族社会を学び、作法を身に着けていくことになった。
それを移動中にアルベルトから聞かされた絵里は「レティシアさん!助けて!作法なんてわたし無理だよ!!」と半泣きしていた。
そうして一週間後、レティシアは久しぶりの侯爵邸に笑顔で帰宅することができた。
彼女の行きとは違う表情に使用人たちは安堵し、彼女の門出を祝った。
【1年後】
「リュド、少しいいかしら?」
「レティ、どうしたんだい?今日はお披露目会のドレスの最終調整のはずだったよね?」
「ええ、そうなのだけど、そのことで相談があるの。」
レティシアとリシャールは王都に戻ってすぐに婚約をした。婚約後半年後に王都で婚約パーティをした後、彼女はサフィロス辺境伯領へ移り住んだ。
王族ではないのだからと、お互いに口調を崩して敬称もなしで呼んで話をしてほしいとリシャールにお願いされたレティシアは徐々に友人と話すようにリシャールと会話をするようになっていた。
そして、もうすぐ領民へ向けて次期辺境伯夫妻としてのお披露目なのだ。
「相談?」
「ええ。」
彼女は思いついたことを実行したいとリシャールに告げた。
「それは素敵な催しだね。僕も協力するよ。」
「ありがとう、リュド。」
「早速準備しないと。」
「そうね。」
彼女たちは催しの準備のため使用人を集めると使用人たちも大賛成で協力していくことになった。
【披露パーティ当日】
「レティ、とても素敵だよ。」
「ふふ。リュドもとっても素敵よ。」
お互いの瞳の色を取り入れた装いだ。
「準備は完璧だから、安心して?」
「ええ、ありがとう。」
辺境伯領の領主館がある街の一番大きな公園に特設ステージが設けられていて、レディースたちはそこに上がって挨拶をする予定になっている。
ステージに上がる直前に緊張している表情を浮かべたレティシアはリシャールからの「大丈夫、僕がついてるから。」という声で平静さを取り戻した。
「お集まりの皆様、私はサフィロス辺境伯家の新しい次期当主となりましたリシャールと申します。」
「わたしはリシャール様の妻となるレティシアと申します。」
「「どうぞよろしくお願いいたします。」」
集まった領民は拍手喝采
「お二人とも美しい…」
「リシャール様、レティシア様!」
「今後ともよろしくお願いします!」
「ご婚約おめでとうございます!」
「そして、本日は会場に入る際に花が配られたと思いますが皆様、しっかりと持っていますか?」
領民たちは「これから何かするのか?」とザワザワしだす。
「今から私の合図で一斉に上に掲げてください。」
「持って上にあげればいいのかな?」
「何するのか検討もつかないね。」
「子供たちも参加してください。いいですか?せーのっ!」
リシャールと領民が花を掲げるとレティシアが風魔法を放った。
すると領民たちの持っていた花から花弁が会場中に舞った。
「わー!綺麗!」
「素敵!」
「美しい…」
「この光景を創り出したのは私の妻となるレティシアの魔法です。」
「皆様、気に入っていただけて嬉しいです。
では、仕上げにかかりますわ。皆様、胸の前辺りで両手の掌を出してください。行きますよ?」
レティシアが魔法を放つと花弁は綺麗な花の形に戻って領民の掌に舞い降りた。
「保存の魔法がかかっていますので、お花は持って帰れます。本日のこの光景がいつまでも皆様の心に残ることを祈っております。」
「わー!!」
「レティシア様、ありがとうございます!」
「レティ、この先もこの領民たちを幸せにできるように協力していこうね?」
「ええ、リュドとなら何だってできわ。」
「レティシア、愛しているよ。」
「わたしもリシャールを愛しているわ。」
二人は熱い抱擁の後に、口づけを交わす。
すると彼女が魔法を使っていないのに花弁が舞い散り、二人の姿は一枚の絵のようだった。
後に、レティシアとリシャールは四人の子供を授かり、サフィロス辺境伯領は王都に次ぐ活気ある都市となった。
レティシアたち領主一家は幸せに暮らしたのだった。
【聖女エリ様の小話】
「絵里、大丈夫か!?」
「もう!大丈夫だって言ってるでしょ?」
王城で生活をしていたアルベルトと絵里はレティシアたちが婚姻する前には婚姻していて、サフィロス辺境伯領で結婚式が行われるときには絵里のお腹には第一子が宿っていた。
絵里のわがままを叶えるためにアルベルトは万全の体制で結婚式に参列したのは言うまでもない。
そんな彼女に陣痛があったのは辺境伯領から戻って数日後だった。
報せを聞いて、執務を投げ出したアルベルトは絵里の部屋に駆け込んだのだった。
「まだ産まれないのか?」
「初産なんだから、そんなに早く産まれないわよ?
それより仕事は?」
「…うっ!」
「はあ…まだ陣痛の間隔は長いから大丈夫。仕事してきても平気よ?」
「本当に?」
「なに?助産師のわたしに喧嘩売ってる?」
彼女は新米助産師だった。
「いや…でも…」
「早く終わらせてしまえばいいのよ。夜までは大丈夫!わかった?」
王太子夫妻は妻が強いと王城に勤める者は知っていたので「さ、王太子殿下、執務室へ戻りましょう?」と宥めて連れていったのだった。
その日の深夜にアルベルトに似た金髪と黒耀石のような瞳を持った王子が誕生した。
王国中が王子の誕生に湧いたのをみて、若干引いた絵里だった。
お読みいただきありがとうございました(人*´∀`)。*゜+