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聖女召喚

読んでいただき、ありがとうございます。


しばらくはグレン視点が続きます。

よろしくお願い致します。

「やったぞ!召喚は成功だ!」


部屋に集まっていた者たちが口々に歓声をあげた。


僕は額に浮かんだ汗を右手で軽く拭うと、同じように魔力を出しきり、疲れと達成感に満ちた表情の神官たちと視線を交わすことで、喜びと安堵の気持ちを共有する。


そんな異様な興奮に包まれていた部屋の中央、祭壇に描かれた魔法陣の上に、きょとんとした顔の少女が座り込んでいた。


(これが、聖女様……)


年齢は十代半ばくらいだろうか。

この国にはない艶やかな長い黒髪と、すっきりとした涼しげな黒の瞳、そして、見たこともない衣服をその身に纏っていた。


(この方が神に選ばれし存在。世界を救ってくださる方……)


魔力がほとんど残っていない身体はひどく怠い。しかし、それ以上に神の力とその意思を間近で感じたことに気持ちが昂ぶる。


この部屋に居る者たちも気持ちは同じなのか、皆、歓声を上げながらその少女に視線を向けている。

そんな彼女は周りをキョロキョロと見回すと……途端に青ざめてしまった。そして、その黒い瞳を見開き、恐怖に怯えた表情となる。


(あっ……)


そんな彼女の表情を見た瞬間、先程までの高揚感が一気に冷えた。

僕は無言のまま、その怯えた様子の彼女見つめ……そのまま目が離せなくなってしまう。


すると、彼女に向かって金髪碧眼の背の高い一人の青年がゆっくりと歩み寄る。


「初めまして聖女よ。我等が召喚の声に応えてくださったこと、この国を代表して心より感謝する」

「えっ……?」

「私の名前はアルバート・ライルス、このライルス王国の第一王子です」


そう言って、一礼した見目麗しいと評判のアルバートが聖女に微笑みかける。


「は、はい」


聖女は戸惑ったように両眉を下げながら返事をした。


「聖女よ、あなたの名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「聖女……とは、私のことでしょうか?」

「ええ、そうです。あなたは我が国にもたらされた聖女なのです」

「………」


彼女は青い顔のまま少し思案する素振りを見せたあと、ぎこちなく微笑みながらゆっくりと口を開いた。


「私の名前はマリカと申します」


それが、約百年振りにこの世界に召喚された聖女の名前だった。


この世界には瘴気というものが存在する。

それらは少量ならば何も問題はないが、年月を重ねるうちに淀み、集まり、瘴気溜まりと呼ばれるものへと変化していく。

記録によると人々が暮らすこの大陸に瘴気が現れたのは約千年前のこと。そして、瘴気溜まりが発生すると、その周辺の獣が魔獣化し、植物は枯れ、疫病が流行り出したという。

当時の人々はなんとか瘴気溜まりを浄化しようとしたが、どんな魔法も効果がなく……。

困り果てたその時、瘴気溜まりを浄化することができる異世界の聖女を召喚するようにと、この世界の創造神であるマリュエスカ様から神託が授けられた。


それからは約百年ごとに異世界の聖女を召喚し、この大陸の瘴気溜まりを浄化するのがこの世界の慣例となった。そして今回、聖女召喚の儀式を担当することになったのがこのライルス王国。僕も参加した聖女召喚術によってマリカがこの世界にやって来たのだ。


神殿にて召喚されたマリカはそのまま王宮へと連れて行かれた。



◇◇◇◇◇◇

 


その日の夜、僕は神殿にある自室のベッドにいた。


(眠れない……)


魔力を使いきった身体は疲れているはずなのに、目を閉じると先程の聖女召喚の場面が何度も脳内で再生される。

仕方なくベッドから出て、のろのろと洗面所へと向かう。洗面所の鏡には、青銀髪に薄紫の瞳の疲れた自身の顔が映っていた。


僕、グレン・シュルーダーは幼き頃よりこの神殿で暮らしている。

この国では聖魔法が発現した者は貴族だろうと平民であろうと、全て神殿に所属することが決まっていた。

僕も六歳の頃に聖魔法が発現し、神殿へと連れて来られた。

しかし、突然家族と引き離され、見知らぬ場所に連れて来られた幼い僕は、パニックになりそれはもう泣いて泣いて暴れまくった。


そんな僕を、当時は見習い神官だった神官長のアンガスが根気強く面倒をみてくれた。

家族という拠り所を失くして不安定になっている僕に、こんこんと神の教えを説いて聞かせた。

この国の唯一神マリュエスカ様が死ぬまで側にいる。神を信じ、その教えを守り続ける限り永遠に側にいてくれると……。

だけど、見たことも会ったこともない神様なんて簡単に信じることはできなかった。


そんなある日、僕は流行り病に罹ってしまう。

大人が罹れば軽い風邪くらいの症状で済む病なのだが、子供が罹ってしまうと生死に関わるほどの高熱が何日も続く。


(くるしい……もう、いやだ。もう……しにたい)


僕は何日も続く高熱に苦しみ、もういっそのこと、このまま死んでしまいたいとすら思った。


その時だった。神殿の隔離部屋のベッドで一人苦しむ僕の前にマリュエスカ様が現れたのは。

礼拝堂で見たマリュエスカ様の像と同じ、裾の長い衣に長い髪をおろした女性にも男性にも見える神様。


『まりゅえすかさま……?』


朦朧とする意識の中、そう問いかける僕にマリュエスカ様は


『……お前は生きるんだ』


そう答えてくれた。


その翌朝、目覚めた僕の熱は嘘のように下がっていた。

どうやら僕は生死の境を彷徨っていたらしく、一命を取り留めた僕の手を握りしめながら、アンガスが涙を流していた。

アンガスが泣いている姿を見たのは、あとにも先にもあれきりだ。


それからの僕は、僕を生かしてくれた神のために生きることに決めた。

神の教えを守ることでマリュエスカ様の存在を感じていたかった。


そして、成人した今では神官として神に祈りを捧げ、また、聖騎士としてこの神殿を守護する役目を賜っている。

まあ、守護といっても神殿を無闇に襲う輩などおらず、魔獣討伐の手伝いに駆り出されることがほとんどだったが……。


僕はざぶざぶと水で顔を洗いタオルで拭いたあと、軽く髪を整えると、新しい神官服へと着替える。

そして部屋を出て、深夜の静寂の中を歩き礼拝堂へと向かった。


礼拝堂はいつ何時も開かれている。

昼間はいくつものステンドグラスから明るい陽射しが差し込む礼拝堂が、今は暗い室内をゆらめく魔導具の灯りが照らしていた。

僕はこの世界の創造主であり、唯一神マリュエスカ様の像の前で祈りを捧げる。


『その心に浮かび上がる疑問、不安、嘆き……全てを神に捧げなさい。さすれば、解決の道は拓かれるだろう』


これは、数多ある神の教えのひとつだ。

今日の聖女召喚の儀式が成功したことへの感謝の祈り、そして、自身の心の内を神に(さら)け出す。


(聖女様はマリュエスカ様の意思によって選ばれた者。つまり、今日の出来事は全てマリュエスカ様の思し召し……)


しかし、聖女マリカのあの恐怖に満ちた、怯えきった表情が脳裏に焼き付いてしまっている。


家族と引き離され、何もわからないまま神殿に連れて来られた幼い頃の記憶が蘇る。

あの時の僕と、異世界から連れて来られた聖女様……。


けれど、今回の僕は聖女様をこの世界に連れて来た側の人間だった。そのことに、胸の内にモヤモヤとしたわだかまりのようなものが残る。

僕はそんな胸の淀みを振り払うべく、疲れた身体にも関わらず長い時間ずっと祈りを捧げ、神に問いを投げかけ続けた。


やっと冬休みが終わったと思ったら、もう春休み……。早いですね。

春休みまでに投稿したかったのに、書き終わりませんでした。

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