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エピローグ

読んでいただき、ありがとうございます。

本日3話目の投稿です。


※最終話はアンガス視点となります。

 よろしくお願いいたします。

「アンガスさん、長い間お世話になりました!ちゃんとお土産を買って帰って来ますから、楽しみにしてて下さいね!」

「おう……」


満面の笑みを浮かべたグレンの別れの挨拶に、俺は引き気味に返事をする。


「……身体には気をつけろよ?あんまりマリカ様に迷惑かけるなよ?」

「はい!」


いい返事をしたグレンは、ご機嫌のまま俺の前から去っていった。


(幸せそうだな……)


あんなに幸せそうなグレンを見たのは初めてだった。



一ヶ月前、聖女マリカが従魔召喚の儀式で、人を従魔にするという大事件を起こした。

しかも、従魔にしたのは従騎士候補であった有力貴族の子息たち……そして、第一王子のアルバートだった。


マリカはそんな彼等を人質に取りながら、『王族を含めたこの国の中枢を担う人たちを全員従魔にすることだってできるんだぞ?』と、さらに脅しをかけてきたのだ。


そこでようやく、マリカが聖女召喚に関して相当に怒っていたのだと……その場にいた全員が知ることとなった。


ちなみに、同じく従魔にされたグレンからは、「僕をマリカ様のものにしてもらえました」と、うっとりした顔で報告された。

従魔契約は心まで支配するものではないので、グレンだけは従魔となったことを心から喜んでいるようだ。

今後は、自分だけがマリカの従魔になることが目標らしい。

俺も、マリカのほうからあんな熱烈なキスをかましたのだから、両想いであると信じたい。



そして、国王との交渉でマリカが望んだものは、


『聖女の浄化魔法以外で瘴気溜まりを消す方法を研究すること』

『マリカが元の世界へと帰る方法を研究すること』


この二つだった。


マリカ曰く、千年も前から発生している瘴気溜まりを、自分たちの力で消そうと努力や研究をしていないなんてどれだけ怠慢なんだ、と。

異世界の人間を巻き込む前に、自分たちの世界でどうにかする方法を考えろ、と強く訴えていた。


しかし、マリカがいくら脅したところで、いきなり慣習が変わるわけがなく……。

『マリカは本当に聖女なのか?』『間違えて悪女を召喚したのではないか?』と、マリカの要望を跳ね除ける声が貴族たちから紛糾した。


そこで、マリカは従魔たちを引き連れて、この国で一番被害が大きいとされる瘴気溜まりの浄化へと向かった。

その時に現れた魔獣はグレンがほぼ一人で片付けたそうだ。従魔はグレンにとって天職なのかもしれない。

そして、マリカはその膨れ上がった巨大な瘴気溜まりを一瞬で浄化してみせた。


この出来事により、マリカが本物の、しかも歴代最強の聖女であることが証明された。

貴族たちは手のひらを返すように、マリカを褒め称え、そのままライルス王国の他の地域の浄化に行くよう依頼する。しかし、それに対してのマリカの返事はあっさりとしたものであった。


「消す方法の研究のために、他の瘴気溜まりは残しておきますね」

「……え?」

「全部浄化しちゃったら、どうやって研究するんです?」

「………」


瘴気溜まりさえ浄化してもらえれば、あとは研究する振りさえしていればいいと考えていた貴族たちは頭を抱えた。

本当に研究をして成果をあげなければ、この国の未来に関わるのだと、ようやく危機感を覚えたようだ。


そんなこの国の貴族たちを放置して、マリカはさっさと浄化の旅への準備を始める。この国だけでなく、他国にも研究をするよう脅し……頼みに行くらしい。



◇◇◇◇◇◇



「こんにちは、アンガス神官長」

「こんにちは、マリカ様」


グレンの次はマリカが挨拶にやって来た。


「そうそう、これを……。用意するのに時間がかかってしまい、申し訳ありません」


俺はそう言って、資料の束をマリカに渡す。この大陸にある残り四つの国について調べてほしいと、以前マリカから直接頼まれていたものだった。

マリカは資料を受け取ると、パラパラと捲りながら目を通していく。


マリカが従魔召喚の儀式で起こした事件は、他国の王族たちにもすぐに知らされ、通信魔法を使った五か国協議が緊急で開かれた。

聖女を力づくで使役させればいいと主張する国、神の使いである聖女の意志を尊重するべきだと主張する国、聖女をなんとか懐柔してはどうかと主張する国……結局、五か国の足並みは未だに揃っていない。


しかし、マリカの従魔召喚の能力に関しては情報共有がすぐになされた。そのため、慌てて流通している王族の姿絵を回収している国もあるようだが……。


「すごく詳しく調べてくださったんですね。ありがとうございます」


マリカの持つ資料には、他国の王族や、要職に就いている人物の似顔絵と名前が書かれている。

こうなることを見越して、マリカはすでに先手を打っていた。


「聖女様のお役に立てたなら良かったです」


俺の言葉に、マリカはクスリと笑った。


「私のことをまだ聖女様だなんて呼んでくれるんですね」

「俺にとっては、今のあなたこそが聖女様ですから」


聖女召喚によって人生を変えられてしまったマリカと同じように、この神殿にいる神官たちもまた、聖魔法を発現したことによってその人生を変えられてしまっている。

けれど、マリカの要望通りに研究が進み、聖女召喚の必要がなくなれば、聖魔法使いたちだって神殿に所属する必要はなくなるのだ。そして、グレンのことも……。



俺は後悔していた。


『くるしい……もう、いやだ。もう……しにたい』


高熱に浮かされて、泣きながらそう呟く幼いグレン。

流行り病にかかったグレンがどうにも心配で、俺は隔離部屋に忍び込んでいた。

そんなグレンが俺を見て、驚いたようにその目を見開いた。


『まりゅえすかさま……?』


それは深夜のことで、裾の長い寝衣に身を包んで、長い髪をおろしていた俺の姿がマリュエスカ様に見えたのだろう。

そのことに気付いていながら、俺は咄嗟に神の振りをした。


『……お前は生きるんだ』


そう声をかけて、グレンの手を握る。

まだ幼いのに家族と無理やり引き離されて、そのまま流行り病で死んでいくなんて……。俺には耐えられなかった。

けれど、そんな俺の軽率な行動が、あいつの神への執着を生み出してしまった。

そのことをずっとずっと後悔していたのだ。


「グレンのことをよろしくお願いします」

「快くグレンさんのことを送り出すのですね」

「あいつがガキの頃からお()りをしていますので、そろそろ解放されたかったんですよ。それに、神なんてくだらないものを拝めるより、かわいい女の子に尻尾振ってるほうが健全でしょう?」


俺の言葉にマリカは目を丸くする。


「アンガス神官長が神の教えをグレンさんに教えたと聞きましたけど?」

「……あの時のあいつには必要なことだったので。でも、もうグレンには必要ないでしょう」

「神官長なのに凄いことを仰るのですね」

「神官長だから、ですよ。あいつはもっと外の広い世界を見たほうがいい」


この神殿で神の教えに執着していた頃よりも、今のグレンのほうがずっと幸せそうだ。

マリカと世界各地を巡れば、もっとグレンの視野は広がるだろう。


そんな俺に、マリカは少し思案するような素振りをし……


「アンガス神官長も召喚してあげましょうか?」


そんな提案をしてきた。

突然のことに俺は驚き、マリカのその黒い瞳を見つめる。


(外の世界に俺も一緒に連れ出してくれるってことか……)


しかし、グレンのように剣の腕もなく、魔力もカスカスの俺が旅について行ったところで、何の役に立つこともできないだろう。

それよりも、せいぜいこの神殿で昇進して自分の地位と立場を高めることが、今の俺にできることだ。


(ちょうど司教の席も空いたしな……)


聖女に余計な情報を与えた教育係グレンの責任を、エイブラム司教が取ることになったのだ。

従騎士の推薦状に名前を書いたせいで、グレンの後見であると判断されてしまったらしい。


今回のマリカの事件で、いきなり世界が一変することはない。しかし、確実にこの世界の聖女の在り方に一石を投じたはずだ。

その余波はやがて大陸中に広がるだろう。


━━その時、聖女の立場がどう扱われるのか……。


世界の敵と見做(みな)され攻撃されるのか、懐柔して取り込もうとされるのか、それとも……。


もしも、あの泣き虫がこの国に逃げ帰って来た時に、少しでも守れるよう、庇えるように……この場所でやるべきことをやるだけだ。


だから、俺は笑顔で聖女様の問いに答える。


「申し訳ありません。有り難いお誘いですが、俺は年上の女性が好みなんです」


マリカは(はじ)けたように笑い声をあげた。



これにて完結となります。

本当は2万文字程度の短編を書くつもりが長くなってしまいました……。

皆様のイイネや評価、ブックマークが執筆の励みになりました。本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気持ちのいい物語でした。 真里佳とグレン。そしてアンガスに幸多からんことを。 [一言] マリュエスカが真里佳を呼んだ以上。 神からして「そろそろいい加減にせぇや?」ってことなんでしょうね…
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